言わずと知れた谷崎潤一郎の代表作の一つ。20代の時に一度読んだきりだが、書棚から取って読み始めたらページをめくる手が止まらなくなった。
私の理解をはるかに超越した春琴と佐助の「愛」の形に圧倒される。文学、心理学、コミュニケーション学などの面から多面的な分析ができる作品だと思うが、分析など吹き飛ばすような、二人の強烈な個性の吸引力が凄まじい。
句読点の打ち方が現代と異なり、文章が切れても句点がない時もあれば、つけられている時もあり、現代人には読んでいて違和感がある文体なのだが、不思議にテンポよく読める。漢文の書き下し文のようなところもあるのだが、日本語として美しく、場面場面が明瞭に脳裏に浮かんでくる。
物語・人物の普通で無さと気品を感じる文章のアンマッチがなんとも絶妙だ。耽美主義を味わい尽くす誘惑にかられる危ない作品である。