今年10月、著名な社会人類学者であった中根千枝さんが他界されたとの報道を目にして、本棚に眠っていた『タテ社会の人間関係』を再読してみた。学生時代に社会学の授業のテキストの1冊として読んだ記憶があるのだが、全く内容は覚えてなかった。だが、1967年初版の本書、今読んでも全く古びていないのが驚きであり、その理論は多くの日本社会、日本人論の源流になっていることが分かる。素晴らしい一冊である。
著者は日本社会の構造をはかる物差し(文化人類学でいう「社会構造」)を探求する。社会集団分析を「資格」(社会的個人の一定の属性)と「場」(一定の地域とか所属機関などのように、一定の枠によって、一定の個人が集団を構成)の切り口で設定し、日本の社会をより「場」を重視する社会と分析する。「場」の共通性で構成された日本の集団は、序列による「タテ」の関係が強いのが特徴である。それが、企業における終身雇用、(企業の枠を超えた連帯が弱い)労働組合、構造的にも情緒的にも制約を受けて部下の幹部に引きずられるリーダー、論理的、宗教的ではなく対人関係が自己の行動や位置づけの尺度となる道徳社会の形成といったことにつながっていく。
もちろん日本や日本人も本書発行後の50年の間に、技術進歩、グローバル化、成熟化といった環境変化に対応し、社会も少しづつは変化している。それでも、その根っこにあるDNA的なものは変わっていないことが良くわかる。今、様々なリーダーシップ論や組織論で語られる事象の説明が論理的、学問的に半世紀以上も前に出版された本書に記述されていることは驚き以外の何物でもない。まさに温故知新の一冊と言える。
《目次》
●日本の社会を新しく解明する
●「社会構造」の探究
●「場」による集団の特性
●「ウチの者」「ヨソ者」意識
●「タテ」組織による序列の発達
●集団の構造的特色
●日本的集団の弱点と長所
●リーダーと集団の関係
●人と人との関係
2023年12月12日 再読メモ
【集団分析のフレーㇺワーク:「資格」と「場」】
- 社会集団の構成の第一条件が、それを構成する個人の「資格」の共通性にあるものと、「場」の共通性によるもの。・・・どの社会においても個人は資格と場による社会集団、あるいは社会層に属している。(pp.26-27)
- 場の共通性によって構成された集団は、枠によって閉ざされた世界を形成し(孤立性)、成員のエモーショナルな全面的参加により、一体感が醸成されて、集団として強い機能を持つようになる。(p.70)
- 集団分析の枠組みとして、「資格」×「場」という切り口を学ぶ
- 日本の集団が「場」の共通性に特徴付けられるのも納得感高い(就職でなくて就社、自己紹介の仕方、愛社精神、非社交性・・・)
【組織の構造分析のカギ:「タテ」と「ヨコ」】
- 場の共通性により構成された組織(資格を異なるものを包含)は、タテの関係が機能を持ち、資格により集団が構成される場合はヨコの関係が機能を持つ。(p.71)
- タテの組織の構成員の構造原理として、何らかの方法で「差」が設定され、精緻な「序列」が出来上がる。(p.72)
- (タテの)組織構造の長所は、リーダーから末端成員までの伝達が、非常に迅速に行われるということ、そして、動員力に富んでいることである。(p.128)
- 組織分析の枠組みとして「タテ」「ヨコ」の切り口を学ぶ
- 自社における、タテ組織の「序列」の蔓延を再認識。(年次、社員グレード、職位、在級年数、学歴・・・)
【タテ社会日本におけるリーダーシップ】
- タテのつながりをもつ集団組織においてはリーダシップは構造的にも情的にも制約を受ける。ディレクターシップを持ちえず、権限が非常に小さい。リーダーと部下との相対的な力関係によって、リーダーの在り方が決まってくるのである。(pp.139‐144)
- 天才的な能力よりも、人間に対する理解力・包容力をもつということが、何よりも日本社会におけるリーダーの資格。・・・子分を情的に把握し、それによって彼らと密着し「タテ」の関係につながらない限り、良きリーダーにはなりえないのである。(p.148)
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- 日本人のリーダーシップの特徴を集団構造から説明した点が新鮮であった
- 巷のリーダーシップ研修の一定部分は、「タテ組織」におけるリーダシップの取り方であることを認識