その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

加藤陽子 『戦争を読む』 (勁草書房 2007)

2015-12-02 12:00:00 | 


 日本の近現代史を専門とする著者の書評集。紹介されている本は全部で350冊以上。著者の歴史好き、本好きが痛いほど伝わってくる。加えて、日本の近現代史を見る視点、論点も知ることができる。

 紹介されている本の中で、読んだことのある本は数冊しかなかったので、これからのブックガイドとしても有用。文章が分かり易く、ちょっと捻りがきいているのもページが進む。特に、最初の掴みが良い。例えば、こんな感じ。「『日経新聞』朝刊の一番うしろ、文化欄を担当する記者のなかには、超弩級のクマ好きがいると私は睨んでいる。・・・」(p258)

 図書館でパッと見で手に取った本だが、手元に置いて本選びの手引きに使いたい。
 

【目次】
はしがき

I 本の声を聴く

吉村昭 『彰義隊』
伊藤之雄 『明治天皇』
戸部良一 『日本の近代9 逆説の軍隊』
原田敬一 『国民軍の神話』
横手慎二 『日露戦争史』
山室信一 『日露戦争の世紀』
佐々木英昭 『乃木希典』
山口輝臣 『明治神宮の出現』
波多野勝・黒沢文貴・斎藤聖二・櫻井良樹 編集・解題 『海軍の外交官 竹下勇日記』
細谷雄一 『大英帝国の外交官』
永井和 『近代日本の軍部と政治』
池井優・波多野勝・黒沢文貴 編 『濱口雄幸日記・隨感録』
麻田貞雄 『両大戦間の日米関係』
川田稔・伊藤之雄 編 『二〇世紀日米関係と東アジア』
ポール・クローデル 『孤独な帝国 日本の一九二〇年代』
ピーター・ドウス、小林英夫 編 『帝国という幻想』
大江志乃夫 『張作霖爆殺』
臼井勝美 『満洲国と国際連盟』
安井三吉 『柳条湖事件から盧溝橋事件へ』
細谷千博・斎藤真・今井清一・山道雄 編 『日米関係史 戦争に至る十年』全4巻
劉傑 『日中戦争下の外交』
松浦正孝 『日中戦争期における経済と政治』
石田勇治 編集・翻訳、笠原十九司・吉田裕 編集協力 『資料 ドイツ外交官の見た南京事件』
石川凖吉 『国家総動員史』下巻
小澤眞人・NHK取材班 『赤紙』
入江昭 『太平洋戦争の起源』
細谷千博・本間長世・入江昭・波多野澄雄 編 『太平洋戦争』
読売新聞戦争責任検証委員会 『検証 戦争責任I』
高木惣吉 『自伝的日本海軍始末記』
福田和也 『山下奉文』
粕谷一希 『鎮魂 吉田満とその時代』
藤山楢一 『一青年外交官の太平洋戦争』
若井敏明 『平泉澄』
瀬尾育生 『戦争詩論』
長谷川毅 『暗闘』
野中郁次郎・戸部良一・鎌田伸一・寺本義也・杉之尾宜生・村井友秀 『戦略の本質』
粟屋憲太郎 『東京裁判への道』上・下
日暮吉延 『東京裁判の国際関係』
粟屋憲太郎・伊香俊哉・小田部雄次・宮崎章 編 『東京裁判資料 木戸幸一尋問調書』
山田風太郎 『戦中派復興日記』
ドン・オーバードーファー 『マイク・マンスフィールド』上・下
佐藤優 『国家の罠』
安倍晋三 『美しい国へ』


II 潮流をつかむ

明治維新の再解釈進む
今、日露戦争を振り返る意味
回帰する一九三〇年代論
あの戦争の敗因を学ぶ一〇冊
中国人や韓国人の「満州」を総括して戦後が始まる
日中近現代史と歴史認識
地域が支えた戦没者追悼

III 本はともだち

本はともだち
愛書日記——本よみうり堂
戦争を決意させる瞬間

あとがき
索 引

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高橋 俊介 『21世紀のキャリア論―想定外変化と専門性細分化深化の時代のキャリア』

2015-12-01 01:54:37 | 
筆者は現場で起こっていることのその概念化が非常に上手い。しかも書き方も上手く構造化されていて、頭にすっきり整理された形で入ってくる。経営学者さんが書いた本の多くは、概念化が進み過ぎてリアリティが消え失せ、現実のビジネスマンの役に立たない。逆に、巷のノウハウ本はあまりにも、小手先で、本質議論ではないというところにジレンマを感じる私には、氏のアプローチのフィット感は他の専門家にはない心地よさがあります。

なので、本書は、(私の国語力不足もありますが)ここで引用したり、要約したりしても本書を貫く考え方はなかなか表せないので、是非、通読し、筆者のロジックを追われることをお勧めします。丁寧に第8章には「働く個人はどうするべきなのか」として、本書の議論を整理してありますので、ハウツーに興味のある人はそこだけ覗いても良いかもしれません。

その中でも、一か所、特に膝を打った部分をさわりだけ引用します。

キャリア教育について触れた部分です。
「好きなことと向いていることは違う。仕事そのものを大きく変化している中で、「好きを仕事に」理論で短絡的に推し進める内省過剰で職種目標的なキャリア教育は問題だ。
 『就社ではなく就職だ』というまことしやかな流行り言葉も危険である。想定外変化の時代、最初に何の仕事に就くかよりも、どんな会社に入るかのほうが大事だ。後述するが、社会化作用やキャリア自律風土が強い組織なのか弱い組織なのか、キャリア初期にどう成長できるのか、そういう問題のほうがずっと重要で、それはむしろ会社選びなのである。
 進学校でも、漫然と偏差値の高い大学を受験するのではなく、将来の目的意識をもった受験をしろというような指導もあるらしい。大学進学後、どんな仕事に就きたいのか、その具体的目標を決めて、そのためにどの大学のどの学部で何を学ぶべきなのか、合理的に目標を設定せよということらしいが、こういうキャリア教育は短絡的な功利性を助長しかねない。
 大学生でさえ自分がどんな仕事に就きたいのか、現実的な選択が困難なのに、高校生の段階でできるわけがない。・・・(中略)・・・具体的に目標を絞り込むのが重要なのではなく、漠然とでいいので、ちゃんと勉強しておくことが将来の自分のために重要で、それ次第で人生が変わるという認識が重要なのである。」(p136-137)

漠然と感じていた今のキャリア教育に対する違和感を綺麗に言い当ててくれました。ここは子供に読ませたい部分です。
他にも、私のような40歳代の会社員に向けた、腹落ちする考え方、心がける行動についてのヒントが、いろいろ散りばめられています。

想定が言変化によって生じる予期せぬキャリアチェンジと、専門性の細分化深化、この二つが同時進行するのが、21世紀のキャリア環境の特徴である。・・・想定外変化が起こる時代のキャリアデザインメカニズムとはいかなるものであろうか。P3

企業は、社会は、教育機関は、さらに言えば個人はどう対処すべきなのか。

専門性と普遍性という二大テーマを、自分らしくどう組み合わせてキャリアを切り開いていくかが重要である。専門性を深めなければいけないが、想定外変化が起きても通用するような普遍性の高い成長もしなくてはならない。P6

自分のキャリアの背骨となるテーマや専門性を、今の仕事に関係がなくても生涯追い続ける。
普遍性の高い自身の強みへの気づきがある(p93)・・・40代は専門性だけでなく、普遍性の高い自分の強みに気づくこと、それを「ブランド」にしていくことが重要である。
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