Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

バイロイト音楽祭:ラインの黄金

2010年08月30日 | 音楽
 バイロイト音楽祭初体験。祝祭劇場に向かって緩やかに上る坂道や、赤茶色のレンガの外観は、すでに何度も写真でみていたが、なかの様子はちがった。思いのほかに質素だ。殺風景といってもよいくらい。また思ったよりも扇状に広がっている。ヨーロッパでよくみかける馬蹄型の客席ではない。1階平土間にはかなりの急勾配がついていた。

 観客が入り終わって、すべてのドアが閉じられると、場内の照明が落とされる。客席からはオーケストラと指揮者がみえないので、暗闇のなかで息をひそめていると、不意に演奏が始まる。ライン川の悠久の流れを思わせる序奏。だが、意外に盛り上がらない。オーケストラ・ピットに蓋がかぶせられ、舞台下にもぐりこんでいるせいなのか。

 ライン川の水底で展開される第1場。床一面には大小さまざまな丸い石が転がっている。天井には日の光に照らされた川面がみえる。全体に青い照明が当てられているなかで、赤い衣装のラインの娘たちが美しい。アルベリヒは体中に横縞があり、長いしっぽをつけた異形の生き物。ラインの黄金はオレンジ色に輝くガラス細工のようだ。

 演奏面ではオーケストラの音がこもり気味にきこえた。たとえていうなら、昔のモノラル録音のような音。生々しい色彩感は消されている。
 反面、歌手たちの声の描線はひじょうに明瞭に出てくる。言葉もはっきりときこえる。これがワーグナーの考えているオーケストラと声のバランスだったのか。
 もっともこれは座席のせいも多少あるかもしれない。私の席は1階後方の右端近くだった。これがもっと前方だったら、またちがうのかもしれない。

 期待のティーレマンの指揮は、この日の演目「ラインの黄金」では抑え気味だった。目を見張ったのは、第2場のローゲの長い語りの部分。緩急自在にさまざまなニュアンスをつけて展開された。神々たちが興味をもち始め、ヴォータンが「どうすればその指輪が手に入るのか」と問うと、ローゲが「奪うのです!Durch Raub!」と答える。その直後に長い休止がはさまれた。一瞬にして舞台の空気を変える休止だった。

 第2場以降は現代社会に設定された。第2場はコンクリートの堤防上。落書きをチェックする監視員がうろうろしている。第3場はその下の地下室。機械設備のメーターをチェックする警備員が出てくる。壁が割れるとアルベリヒが君臨するニーベルハイムがみえる。第4場は再びコンクリートの堤防上。幕切れで少年が出てきて、財宝のかけらを拾うが、女の子をつれた大柄の少年に奪われる。

 神々は古代ギリシャの彫刻のような衣装とメイク。多少カリカチュア的な演技がつけられていた。もはや威厳のある神々はリアリティを失ったということか。逆にニーベルング族のアルベリヒとミーメにはリアリティがあった。
(2010.8.20.バイロイト祝祭劇場)
コメント (2)
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