Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

下野竜也&読響

2011年07月24日 | 音楽
 読響の7月定期も楽しかった。指揮は正指揮者の下野竜也さん。下野さんの実力は言わずもがなだが、一方ではコメディアン的なセンスもお持ちで、この定期はその両方が発揮された演奏会になった。

 1曲目はヒンデミットの「〈さまよえるオランダ人〉への序曲」。副題に「下手くそな宮廷楽団が朝7時に湯治場で初見をした」とある。原曲は弦楽四重奏だが、それを下野さんが弦楽合奏用にアレンジした。

 ホールに入ると、Pブロックの客席の後ろに「読響温泉」と書かれた大きな看板が立っていた。なるほど、ここは「湯治場」というわけか、と思わず笑みがこぼれた。看板の横には大きな時計があった。う~ん? しばらくして気が付いた。そうか、この時計が「7時」になると、演奏が始まるわけか。

 7時になると、ステージの後ろからガヤガヤと声がして、楽団員が出てきた。みなさん、うちわを持って、扇ぎながら。男性は上着を脱いで、ワイシャツ姿。なかには温泉マークの法被を着ている人もいる。ステージに出てからも私語が絶えない。下野さんが出てきて、「さあ、さあ、みなさん、お待たせしました。よろしくお願いしますよ」というようなことを言いながら、譜面を配った。「初見」というわけだ。

 出てくる音楽は、音がずれ、音程が狂った、調子っぱずれの「さまよえるオランダ人」序曲。おそらく、古今東西の作曲家のなかで、ワーグナーほどパロディの対象になった作曲家はいないが、これもその一つだ。

 こうして大爆笑のうちに演奏が終わった。

 2曲目からは真面目になって、ヒンデミットの「管弦楽のための協奏曲」。1925年に作曲された新即物主義の初期の作品で、日本初演。全4楽章から成り、どの楽章もきびきびした音の動きが面白い。プログラムノートによると、フルトヴェングラーがベルリン・フィルを指揮した1950年の録音があるそうだ。1950年といえばフルトヴェングラー最晩年。ヒンデミットとは浅からぬ縁のあったフルトヴェングラーだ。その録音を聴いてみたい。

 3曲目はブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」(ハース版)。これは今の下野さんの充実ぶりを示す、壮麗で、きっちり構築された演奏だった。しかも、どんなときでも、自然な呼吸感を失わなかった。そういうなかで、あえていえば、第2楽章の前半が薄味だった。まだ若い下野さん。今後の熟成が楽しみだ。
(2011.7.19.サントリーホール)
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