Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

カールスルーエ:ダントンの死

2011年07月20日 | 音楽
 翌日はカールスルーエに移動して、アイネムのオペラ「ダントンの死」を観た。実はこの日は他にもいろいろ選択肢があったが、迷わずこれに決めた。

 原作はビューヒナーの同名の戯曲。昔、ベルクのオペラ「ヴォツェック」の原作を読んでみようと思って、ビューヒナーの戯曲「ヴォイツェック」を読んで、ついでに「ダントンの死」も読んだ。そのとき、作品に渦巻く異様な興奮に圧倒されたのを、今でも覚えている。また、若いわたしが漠然と抱いていた革命(本作はフランス革命の内部闘争を描いている)にたいする理想主義的なイメージが、無惨に打ち砕かれたのも、そのときだった。

 オペラの存在は前から知っていた。原作を読んだ後、CDを見つけて、どういう音楽かもわかった。だが、生の舞台を観るのは望み薄だと思っていた。

 今回の公演では、本作の前に、現代ドイツの作曲家リームの新作「ある通り、リュシールEine Strasse,Lucile」が上演された。これは原作の最終場面をテキストに使ったモノオペラだ。同じ場面がアイネムにも出てくるので、その先取りの性格になっていた。

 リームの音楽は、ベルクのような無調音楽に、街の音楽がコラージュ的に挿入されるものだった。演奏時間は10~15分くらい。ビューヒナーの戯曲の最後の台詞、「国王万歳!Es lebe der Koenig!」が叫ばれるところで、断ち切られるように終わり、そのままアイネムのオペラが始まった。

 アイネムの音楽は、一言でいうと、新古典主義的な作風にジャズのイディオムを取り入れたもので、1947年のザルツブルク音楽祭における初演時には、新時代の到来を告げる(あるいは、過去の悪夢を吹き飛ばす)破壊力があったようだ。けれども、今の耳で聴くと、楽天的な感じがしなくもない。

 リームの音楽は、そういうアイネムの音楽を批評するとともに、当時の破壊力を思い起こさせる異化効果もあった。

 また、これは演出上のアイディアだろうが、最後の台詞が「国王万歳?Es lebe der Koenig?」と呟くように発せられたのも面白かった。これは、リームの場合と対比させることにより、ビューヒナーの台詞の解釈を問うものと感じられた。

 指揮者も歌手も演出家も、おそらくこの劇場の専属メンバーだろう。観客には顔なじみのようだった。合唱も大迫力で拍手喝さいだった。
(2011.7.9.カールスルーエ歌劇場)
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