Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

作曲家の個展2012「藤倉大」

2012年10月12日 | 音楽
 毎年恒例のサントリー芸術財団の「作曲家の個展2012」で注目の若手作曲家、藤倉大を聴いた。プログラムは次のとおりだった。
○「トカール・イ・ルチャール」オーケストラのための(2010)
○「バスーン協奏曲」(2012)サントリー芸術財団委嘱作品・世界初演
○「ミラーズ」(2009/2012)12人のチェロ奏者版
○「アンペール」ピアノとオーケストラのための(2006)
○「アトム」オーケストラのための(2009)

 藤倉大は1977年生まれ。今年35歳。15歳でイギリスに渡り、今もロンドン在住。作曲活動は、イギリスはもとより、ドイツ、フランス、アメリカにまで拡大している。近年は日本での注目度も高まっている。

 その作品は今までいくつか聴いたが、素人の哀しさというべきか、今一つつかみかねていた。そのもどかしさも、今回まとめて聴く機会を得て、とりあえずは解消した。藤倉大の音楽とはどういうものか、少しはつかめた。

 まず、ずしんと腹に落ちたのは、透徹した音の感覚だ。曖昧さのない、考え抜かれた音。明瞭という言葉では月並みすぎ、また透明という言葉では、誤解を与えかねない音。藤倉大の耳のよさが感じられる音だ。

 その音で構築される音楽には、一つの特徴というか、共通する語法があった。短い周期で波のように押し寄せる、パルスのような音型。その繰り返しは意外なほどの質量をもって迫ってきた。

 もう一つ印象的だったことは、曲の終結部でテンポが落ち、思いがけない停滞感が生まれる場合があることだ。常にクリアーな頭脳が感じられる作品のその終結部で、なにか割り切れないものが生まれる。一筋縄ではいかない部分を感じた。

 演奏は見事だった。指揮は下野竜也。明快に各曲をさばいて、ノリがよかった。オーケストラは都響。ものすごく高性能だ。両者ともちょうど充実の時期を迎えている。その組み合わせが相乗効果を発揮した。

 バスーンのパスカル・ガロワにはこの演奏会で一番の感銘を受けた。現代音楽の世界ではビッグネームのようだ。演奏された「バスーン協奏曲」は力作だ。全5曲のなかで一番面白かった。

 ピアノは小川典子。わたしは昔からのファンだ。「アンペール」は一度聴いてみたかった。その念願が叶った。赤いユニークなドレスは、曲の最後のトイピアノ(おもちゃのピアノ)をイメージしたものだろうか。
(2012.10.11.サントリーホール)
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