Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

コヴァーチュ/東京フィル

2012年10月19日 | 音楽
 東京フィルがオール・リゲティ・プロで定期を開いた。指揮はヤーノシュ・コヴァーチュ。これは聴かなければならないと、早めにチケットをとった。会場に着くと、全席完売だった。これには驚いた。リゲティでこんなにお客さんが入るのか――と、信じられないような気分になった。

 1曲目は「ルーマニア協奏曲」(1951年)。リゲティが西側に亡命する前の曲だ。バルトークの影響が顕著だが、エネスコの「ルーマニア狂詩曲第1番」のような部分もある。楽しい曲だ。演奏もこの曲に相応しいものだった。

 2曲目は「永遠の光(ルクス・エテルナ)」(1966年)。アカペラの合唱曲だ。演奏は東京混声合唱団。オーケストラは引っ込んで、舞台は合唱だけ。オーケストラの定期としては珍しい。なんだかリゲティ・フェスティヴァルの観があった。

 この曲はリゲティが西側に亡命して、最先端の前衛音楽に触れ、それらを吸収して編み出したミクロ・ポリフォニーによる作品。その完成形というか、さらにその先に歩み出そうとする曲だ。バスがDomine(主よ)と歌う部分にホモフォニックな書法が入り込んでいる。まさにその部分の衝撃は大きい。これは生でなければわからないだろう。

 3曲目は「アトモスフェール」(1961年)。リゲティの代名詞のような曲だ。ミクロ・ポリフォニーによる最初期の成功例の一つ。もやもやした星雲のような音塊は、もちろん正確に演奏されていたのだろうが、ちょっとナーヴァスになっているように感じられた――むしろわたしのほうがそうだったかもしれないが――。

 休憩をはさんで4曲目は「レクイエム」(1963~65年)。第3楽章前半の「ディエス・イレ(怒りの日)」の天羽明恵(ソプラノ)と加納悦子(メゾ・ソプラノ)の歌唱がすばらしい。絶叫に近いほど激しく、跳躍の大きい旋律線を、よくあのように歌えるものだと圧倒された。

 なお当日のプログラム冊子が、これまた充実していた。長木誠司の巻頭文(リゲティの作曲家としての個性を実に的確にとらえた文章)に始まり、リゲティの息子で作曲家のルーカス・リゲティのメッセージなどが続く。この冊子を見るだけでも東京フィルの力の入れようがわかる。

 なかでも伊東信宏の「リゲティと20世紀――亡命以前の傷跡」が興味深かった。さすがは名著「バルトーク」(中公新書、吉田秀和賞受賞)の著者だ。
(2012.10.18.サントリーホール)
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