Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

トスカ

2012年11月21日 | 音楽
 新国立劇場の「トスカ」を観た。2000年9月の初演。それ以来何度も上演されているプロダクションだが、わたしは初めて。

 カヴァラドッシのサイモン・オニールがすばらしかった。これは超一流だ。スピンのきいたその声を聴いていると、スカッとするというか、耳に溜まった垢が落ちるようだ。

 トスカのノルマ・ファンティーニも、もちろん、すばらしかった。すばらしいのを前提にいうのだが、声に今一つの伸びがあれば、と思った。それは贅沢かもしれないが。サイモン・オニールのカヴァラドッシがあまりにも圧倒的だったので、それに並ぶものを求める心理が働いたのだろう。

 スカルピアのセンヒョン・コーもよかった。もっとサディスティックであればとか、もっとむき出しの欲望が感じられれば、とは思ったが、それは東洋人のメンタリティのゆえかもしれない。声はスカルピアの威圧的なキャラクターを十分表現していた。

 これらのすぐれた歌手のゆえだろうが、声がオーケストラに埋もれることは一切なかった。声のラインがいつも明瞭に浮かび上がっていた。驚くべき明瞭さだ。これこそがこの公演の一番の特徴だった。

 それは沼尻竜典さんの指揮のゆえでもあった。いかにも沼尻さんらしく、細心の注意を払ってオーケストラをコントロールしていた。声のラインの明瞭さは、おそらく沼尻さんが意図したものだろう。それが達成されていた。澄みきった水のように濁りのない演奏。もう少し濁りがあったほうがイタリア・オペラ的ではないか、という気がするほどだった。

 脇を固める日本人の歌手たちもよかった。アンジェロッティの谷友博さん、スポレッタの松浦健さん、堂守の志村文彦さん、いずれも声が出て、しかも芸達者だった。こういう歌手が揃っている劇場になったことは嬉しいかぎりだ。

 演出はアントネッロ・マダウ=ディアツ。とくになにをするわけでもなかったが、この劇場の奥行きを生かした工夫が垣間見られた。第1幕の最後のテ・デウムの場面で、装置が大きく動き、奥に教会の主祭壇が現れる箇所がその最大のものだが、第2幕でもスカルピアが通行許可証を書く机を奥に配し、主にドラマが進行する手前の空間と遠近感をもたせたことも面白かった。

 美術は川口直次さん。上演中はイタリア人の手になるものだと思っていた。後でキャスト表を見て驚いた。イタリア的な美意識が感じられる舞台だった。
(2012.11.20.新国立劇場)
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