Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

下野竜也/N響

2017年10月16日 | 音楽
 下野竜也が振るN響のAプロ。1曲目はモーツァルトの歌劇「イドメネオ」序曲。明るく歯切れのよい音で、テンポも快適。弦の編成は12‐12‐8‐6‐4。ヴァイオリンの比重が高いことが、その演奏に反映していた。この序曲ははっきりした終止をしないので、そのままオペラを聴きたくなった。

 その演奏は、下野竜也ならいかにも、という感じがしたが、では、次のベルクのヴァイオリン協奏曲はいかにと、下野竜也のベルクに興味が募った。

 結論からいうと、これもすばらしかった。オーケストラの音が混濁せず、また演奏が迷走することもなく、常に明確なパースペクティヴのもとにあった。全体に凛としたたたずまいを感じた。下野竜也の新ウィーン楽派の演奏を聴くのは初めてだが、さすがに優秀な指揮者は、なにを振っても優秀だと思った。

 ヴァイオリン独奏のクララ・ジュミ・カンも優秀だった。ザハール・ブロンやドロシー・ディレイに師事したそうだが、それらの門下生にありがちな、張りのある大きな音で弾くタイプではなく、細い音で強靭な集中力をもって弾くタイプ。第2楽章の第1部の後半で、嵐のような苦悶の音楽が次第に静まり、ヴァイオリンの独奏になる部分が、これほど集中力をもって演奏されたことは稀だと思う。

 後半のプログラムはまずモーツァルトの歌劇「皇帝ティートの慈悲」序曲。前半の「イドメネオ」序曲と同様に明るく歯切れがよく、快調。

 次はベルクの「ルル」組曲。これも前半のヴァイオリン協奏曲と同様、明瞭なパースペクティヴをもつ演奏。下野竜也の指揮でオペラ「ルル」を聴いてみたくなった。そのときオーケストラがN響ならどんなによいか。

 ソプラノ独唱はモイツァ・エルトマン。わたしはエルトマンが歌うルルをベルリンで観たことがあるが(2015年3月、指揮はバレンボイム、演出はブレート)、そのときは少女のようなキャラクターで、ひじょうに説得力があった。今回は成熟した女性として登場したので、別人のようだった。

 余談になるが、そのベルリンの上演では、プロローグと第3幕第1場(パリの場)がカットされていた。第2幕の最後でルルが脱獄した後、切れ目なく、第3幕第2場(ロンドンの場)に移った。プロローグはともかく、第3幕第1場のカットは、わたしにはショックだった。なお第2場のオーケストレーションはコールマンの新版だった。
(2017.10.15.NHKホール)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする