Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

主戦場

2019年07月09日 | 映画
 4月下旬から公開されているドキュメンタリー映画「主戦場」が、異例なロングランを続けている。従軍慰安婦をめぐる「慰安婦」否定論者(歴史修正主義者)の主張と擁護派の主張を対置させた作品。「慰安婦」否定論者が上映禁止を求めて提訴するなど、激しい抗議活動を展開しているので、余計に世間の注目を集め、わたしも重い腰を上げて観にいった。

 本作に登場する主な「慰安婦」否定論者は、「新しい歴史教科書をつくる会」の藤岡信勝氏(↑上掲スチール写真の一番左の人物。以下、順に右へ)、衆議院議員(自由民主党)の杉田水脈氏、アメリカ・カリフォルニア州の弁護士・日本のテレビタレントのケント・ギルバート氏、「テキサス親父」のマネージャーの藤木俊一氏、「テキサス親父」のトニー・マラーノ氏の面々。もっとも、わたしは「テキサス親父」を知らなかったが(当然そのマネージャーも知らなかった)、動画サイトでは有名な人らしい。

 それらの人々に、本作の監督・脚本・撮影・編集・ナレーションを務めるミキ・デザキ氏(1983年生まれの日系アメリカ人2世)がインタビューをする。皆さん自説を述べる。他方、ミキ・デザキ氏は、歴史学者の吉見義明氏、同じく歴史学者の林博史氏、弁護士の戸塚悦朗氏、政治学者の中野晃一氏などにもインタビューする。それらのインタビューを編集して、論点ごとに対置すると、「慰安婦」否定論者の主張がどれほど事実を歪曲したものであるか、明らかになる仕組みだ。

 たとえば杉田水脈氏が「当時の新聞記事を見ると悪徳業者を逆に取り締まっているんですね、日本政府や軍が。」という。すると林博史氏が「あの、朝鮮半島の新聞記事だと思うんですけど。これ、慰安婦とは全然関係ないです。」という具合だ。

 もう一つ例を挙げると、藤岡正勝氏は「国家は謝罪しちゃいけないんですよ。国家は謝罪しないって、基本命題ですから。是非覚えておいてください。」という。その化石的な国家観に愕然とする。たとえば2001年に小泉純一郎首相(当時)が、熊本地裁の判決を受けて、ハンセン病患者・元患者に謝罪した。それをどう考えるのだろう。

 驚くのは、「慰安婦」否定論者が、なんの警戒心もなく、嬉々として自説を述べている点だ。そのため、本作は「慰安婦」否定論者(歴史修正主義者)の素顔が見える貴重な映像になっている。底が浅く、思い込みが激しい。そして嫌中・嫌韓の言説をまき散らしている。
(2019.7.3.イメージフォーラム)
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