Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

藤岡幸夫/東京シティ・フィル

2019年07月27日 | 音楽
 藤岡幸夫が東京シティ・フィルの首席客演指揮者に就任し、今回はそのお披露目の定期。1曲目はシベリウスの交響詩「大洋の女神」。交響曲第4番と第5番の間に作曲された曲なので、大変充実している。海の描写がシベリウスには珍しい。演奏は海がうねるような後半部分でパワー全開だった。

 2曲目はピアソラの「ブエノスアイレスの四季」。ヴァイオリン独奏は神尾真由子。これが当夜の白眉だった。いや、白眉なんてお上品なものではなく、度肝を抜かれたといったほうがいい。ブエノスアイレスの場末のバーかなにかの、猥雑な、酒と煙草と汗が匂う、倦怠と欲望が渦巻く場所で、身をよじらせ、魂をふり絞って奏でられる音楽。そんな異国の情景が目に浮かぶ。

 神尾真由子の切れ味鋭い、スリル満点の演奏は、息をのむほど。正直驚いた。藤岡幸夫のプレトークによれば、「ソリストはぜひ神尾さんにお願いしたいと思い、オファーしたら、引き受けてくださり、曲目にピアソラのこれが提案された」(要旨)とのこと。「素晴らしい演奏なので、指揮者なんかいらないから、私も客席で聴いていたい」(同)といって聴衆を笑わせた。

 もちろん指揮をしたのだが、その指揮が、ぐいぐいオーケストラを引っ張り、神尾真由子とバトルを繰り広げるようだった。プレトークで「指揮者なんかいらない」といっていたのはフェイントだった。それに応える東京シティ・フィルの弦楽パートも気合十分。オーケストラもそのバトルを楽しんでいるようだった。

 柴田克彦氏のプログラム・ノートによれば、「オリジナルの編成は、バンドネオン、ピアノ、ヴァイオリン、エレキ・ギター、コントラバスの五重奏」だそうだ。それをヴィヴァルディの「四季」と同様、独奏ヴァイオリンと弦楽合奏用に編曲したのは、レオニード・デシャトニコフ(1955‐)というウクライナ生まれの作曲家。ギドン・クレーメルとピアソラ普及で協働している。おもしろいのは、弦楽合奏にヴィヴァルディの「四季」の断片を埋め込んでいること。ピアソラの陰からヴィヴァルディが聴こえてくる。

 今回は秋→冬→春→夏の順に演奏された。その演奏順は北半球の春→夏→秋→冬に相当するもので、ヴィヴァルディの引用との対応関係が興味深い。

 3曲目はウォルトンの交響曲第1番。全4楽章からなり、各楽章が少しずつ異なるベクトルを内包しているような曲だが、藤岡幸夫はそれをよくまとめていた。だが、その一方で、のべつ幕なしにまくしたてる面があり、アンサンブルが荒れがちだった。
(2019.7.26.東京オペラシティ)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする