Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ロンドン・ナショナル・ギャラリー展

2020年09月20日 | 美術
 ロンドン・ナショナル・ギャラリー展に行った。大型企画展に行くのは久しぶりだ。最近は会場内の混雑が嫌になったので、大型企画展は敬遠していたが、今回行く気になったのは、チラシ(↑)に使われているカルロ・クリヴェリの代表作の一つ「聖エミディウスを伴う受胎告知」(1486年頃)が来たからだ。実物を見ると、207×146.7㎝の大画面だ。クリヴェリの一部の作品と同様に、異様なまでに発色がよい。まるで洗浄した後のような艶やかさだ。ちなみに常設展では「聖アウグスティヌス」(1487/88年頃)が展示されているが、それはその時代にふさわしい褪色ぶりを示しているので、「聖エミディウスを伴う受胎告知」の鮮やかさが際立つ。

 大画面の堅牢な構成に圧倒されるが、その堅牢さが過剰なようにも感じられる。この種の過剰さはクリヴェリの他の作品にも感じることで、たとえば聖母マリアを描いた作品に過剰な妖艶さを感じることがある。その過剰さが息苦しくもあるが、またそれがクリヴェリという特異な画家の魅力のような気もする。

 本展でもっとも気に入った作品は、パオロ・ウッチェロの「聖ゲオルギウスと竜」(1470年頃)だ。初期ルネッサンス特有の透けるような空気感がある。その空気感はどこからくるのだろう。おそらく聖ゲオルギウスの乗った白馬の淡い色と、竜が王女を閉じ込めていた岩屋の桃色がかった淡い灰色とが、それぞれ画面の左右を存在感豊かに占めているからではないだろうか。

 同作は構図の面でもおもしろい。聖ゲオルギウスの槍と竜の左翼とが2本の平行線をなして右上から左下に向かい、一方、竜の右翼と岩屋の縁とが同じく2本の平行線をなして左上から右下に向かう、V字型の構図だ。V字型の谷間にあたる部分は遠近法の消失点にむかって抜けていく。

 本展の展示作品の画像はホームページで公開されているので(※)、クリヴェリの色艶と過剰さも、ウッチェロの空気感と構図も、いずれもホームページで見ていたはずだが、わたしは実物を見て初めて気がついた。

 もう一点、とくに印象深い作品をあげると、それはゴッホの「ひまわり」(1888年)だ。ゴッホの「ひまわり」は全部で7点あるそうだが(損保ジャパン美術館の収蔵品もその一つだ)、本作は背景の黄色の、あまりにも明るい色に、一種の危うさを感じた。そこから先に行くとなにかが壊れそうな、そんなギリギリの緊張感がある。そう感じるのは、ゴッホとゴーギャンのその後の経緯を知っているからかもしれないが、それだけではなく、やはり作品そのものからくる張りつめた雰囲気のなせる業だろうと思う。
(2020.9.18.国立西洋美術館)

(※)本展の展示作品
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする