Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

国立西洋美術館のスルバラン「聖ドミニクス」

2020年09月24日 | 美術
 国立西洋美術館で開催されている「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」に行ったことは前回書いたが、同展に行った理由の一つは、同美術館の常設展で展示されている2019年度新規収蔵作品のフランシスコ・デ・スルバラン(1598‐1664)の「聖ドミニクス」(1626‐27頃)(※1)を見るためもあった。

 スルバランはリベラ(1591‐1652)、ベラスケス(1599‐1660)、ムリーリョ(1617‐1682)らとならぶスペイン・バロック時代の画家だ。スルバランの作品には深い宗教性を感じさせるものが多い。その一方で、あれは何年前だったか、「プラド美術館展」が開かれたときに日本にきた「ボデゴン」のようなリアルな静物画もある。

 「聖ドミニクス」はドミニコ会修道院の創設者の聖ドミニクスを描いた作品だ。201.5㎝×135.5㎝の縦長のカンヴァスに(現実の人間と等身大の)聖ドミニクスが立っている。白と黒の僧服に身を包み、恍惚とした表情で虚空を見上げている。足元には大きな犬が横たわり、口に松明をくわえている。松明の片端は聖人の足に隠れている。その先端には火がともっているようだ。聖人の背後から聖人の影が浮かんでいる。背景は漆黒の闇なのだが、そこにぼんやりと影が浮かんでいるわけだ。

 いかにもスルバランらしい題材の作品だ。その新規収蔵を喜びたいが、瑕疵があることも事実だ。同美術館の広報誌「ゼヒュロス」No.83に掲載された主任研究員・川瀬佑介氏の紹介文によると、「作品の周囲には後代の補修によるカンヴァスが付け加えられるなど、状態が改変されている(後略)」とある。その付加部分は肉眼でも見分けられる。

 だから、というわけでもないのだが、わたしがフランスのリヨン美術館で見た「聖フランチェスコ」(1645頃)(※2)と比べると、もったりした感がなくもない。「聖フランチェスコ」は198㎝×106㎝なので、縦はほぼ同じ長さだが、横が30㎝くらい違う。その約30㎝のうちのかなりの部分は後代の付加部分だろう。

 だが、それにもかかわらず、スルバランの作品が収蔵されたことは画期的なことだ。2003年度に新規収蔵されたジョルジュ・ドゥ・ラ・トゥール(1593‐1652)の「聖トマス」に次ぐ快挙ではなかろうか。前述の川瀬佑介氏の紹介文に「(前略)本作は常設展の核をなす作品として今後展示していく予定です。」とあるが、むべなるかな、だ。

 ジョルジュ・ドゥ・ラ・トゥールの「聖トマス」の新規収蔵のときは、それを記念して大規模な「ジョルジュ・ドゥ・ラ・トゥール展」が開催された。できれば今回も「スルバラン展」の開催を期待したいものだ。
(2020.9.18.国立西洋美術館)

(※1)「聖ドミニクス」の画像
(※2)「聖フランチェスコ」の画像
コメント
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