Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

山田和樹/日本フィル

2020年09月05日 | 音楽
 山田和樹指揮日本フィルの定期演奏会は、ステージ上の密を避けるために、曲目の一部を変更して開催された。その変更がよく考えられていて、指揮者とオーケストラの努力の跡がうかがえた。

 1曲目と2曲目は当初予定通りで、1曲目はガーシュウィンの「アイ・ガット・リズム」変奏曲。ピアノ独奏は沼沢淑音(ぬまさわ・よしと)。ピアノの音が乾いて聴こえた。オーケストラにも余裕がなかった。

 2曲目はミシェル・ルグラン(1932‐2019)のチェロ協奏曲。ルグランは「シェルブールの雨傘」などの映画音楽で有名だが、「80歳代になってから」(小沼純一氏のプログラム・ノーツより)ピアノ協奏曲とチェロ協奏曲を書いた。そのチェロ協奏曲が日本初演された。チェロ独奏は横坂源。

 これは大変おもしろかった。全5楽章からなるが、最初の3楽章は急‐緩‐急の普通の協奏曲形式。とくに第3楽章はダイナミックで格好良い。そのまま大団円に突入するかと思いきや、突如動きが止まり、なんと(!)ピアノ伴奏のチェロ・ソナタになる。それはどこか懐かしい音楽だが、それにしても、大オーケストラをバックにしたチェロ協奏曲に、なぜチェロ・ソナタが挿入されるのか。そこにはなにか隠された物語があるのではないかと考えた。

 チェロ・ソナタの部分が第4楽章なのだが、その後でカデンツァがくる。カデンツァの後で第3楽章の音楽が再開するのかと思うと、「レントよりゆっくりと」(同)と指定された第5楽章になる。「レントよりゆっくりと」というと、ドビュッシーの同名曲を思い出すが、ドビュッシーの曲がゆっくりしたワルツで、ノスタルジックな音楽であるのに対して、この曲はもっと内省的な音楽だ。

 横坂源の演奏は堂々として逞しかった。オーケストラの演奏も引き締まっていた。全体として気合の入った名演だった。第4楽章のチェロ・ソナタでは沼沢淑音がピアノ伴奏を務めた。横坂源と沼沢淑音はアンコールにフォーレの「夢のあとに」を演奏した。しみじみと「いい曲だな」と思った。

 当初の予定では3曲目に水野修孝の交響曲第4番が組まれていたが、上記のように、これが変更され、3曲目には五十嵐琴未(いがらし・ことみ)という若い作曲家の新作「櫻暁」(おうぎょう)が演奏され、4曲目にはラヴェルの「マ・メール・ロワ」(バレエ音楽版全曲)が演奏された。五十嵐琴未の新作はこの演奏会のために急遽委嘱された。チェロ独奏の高音で始まる。ゲスト奏者の伊東裕の美音が光った。「マ・メール・ロワ」は徹底したピアニッシモを追及していた。
(2020.9.4.サントリーホール)
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