Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

尾高忠明/読響

2020年09月09日 | 音楽
 尾高忠明指揮の読響の9月定期は、1曲を除いてプログラムが変更になった。その1曲が冒頭に演奏されたグレース・ウイリアムズ(1906‐77)の「海のスケッチ」(1944)。弦楽合奏による全5楽章の曲だ。海の諸相の描写音楽。弦の澄んだ音色が美しい。編成は12‐10‐8‐6‐4。その弦がよく鳴った。読響の実力だが、もう一つはソーシャル・ディスタンスの配置により、舞台いっぱいに広がった奏者たちの、その広がりからくる効果もあったろう。同じ編成でも、通常の(密にかたまった)配置による音と、ソーシャル・ディスタンスの配置による音とでは、客席に届く音の印象が変わるようだ。

 2曲目以降は当初のプログラムから変更になった。2曲目はモーツァルトのピアノ協奏曲第23番。ピアノ独奏は小曽根真。ジャズ風に崩すとか、そんなことはなく、至極まっとうなモーツァルトだったが、軽く舞うようなリズム感が一貫していたのは、やはり小曽根真らしい演奏だろう。第1楽章のカデンツァの遊び心は特筆ものだ。

 アンコールにコントラバス奏者とのデュオで「A列車で行こう」が演奏された。クラシックの演奏会でジャズが演奏されるとどうしてこう楽しいのだろう。ノリのよいピアノを楽しんだが、気がつくと、読響の楽員たちもニコニコ、ニヤニヤ、楽しそうな顔をしていた。仲間のコントラバス奏者が慣れないジャズを演奏している。その苦闘ぶりが面白くてしかたないらしい。楽員たちのその顔を見ると、こちらもなお一層楽しくなった。

 休憩後の3曲目はアルヴォ・ペルト(1935‐)の「フェスティーナ・レンテ」(1986)。弦楽合奏にハープが加わる。飯尾洋一氏のプログラム・ノーツによると、ハープは任意らしいが、ハープが入ると、静謐な弦の音色が連綿と続く、その息の長いラインの強拍にアクセントがつくので、聴きやすくなる。

 興味深かった点は、第2ヴァイオリンの一人が絶えず音を細かく刻んでいたことだ。それが全体の音に、震えるような、かすかな緊張感を与える効果を生んでいた。

 4曲目はオネゲルの交響曲第2番。弦楽合奏の曲で、最終楽章(第3楽章)のコーダでトランペットが加わる。この演奏はオネゲルが彫琢したあらゆるニュアンスを描き尽くす名演だった。聴きごたえ十分。演奏会の掉尾を飾るにふさわしい演奏だった。コロナ禍のいまでなければメイン・プログラムに据えられることは稀な曲だが、じつはその曲にはこんなに豊かな内容があったのだと、思い知らされる演奏だった。

 全体として、思いがけなく印象的な演奏会になった。コロナ禍を逆手にとった意欲的なプログラムが功を奏した格好だ。
(2020.9.8.サントリーホール)
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