Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

東京オペラシティ・アートギャラリー「野又穰展」

2023年08月14日 | 美術
 東京オペラシティ・アートギャラリーで野又穫(のまた・みのる)(1955‐)の展覧会が開かれている。チラシ(↑)に惹かれて行った。

 チラシに使われている作品は「Forthcoming Places-5 来るべき場所5」(1996)という作品だ。一見すると、上下2段の温室がある。その下には樹木の茂みが見える。樹木の茂みと比較すると、上下2段の温室はタワーマンションくらいの高さがある。もちろん現実にはあり得ないが、温室も樹木も見慣れた形なので、穏やかな風景画に見える。

 今、上下2段の温室といったが、展覧会場で実見すると、下の球体は温室ではなく、水族館だと分かる。中の熱帯植物と見えたものは水草だ。水草の周りを無数の魚が泳いでいる。下は水族館、上は温室という構成は、熱帯の水中と陸上を模した構築物のように見える。

 個々の物体は見慣れたものだが、その意外な組み合わせ、または意外なシチュエーションが、見る者の想像力を刺激する――その点でシュールレアリスムの画家・マグリットを連想させる。だがマグリットのような刺激性はなく、穏やかな日常性の中にある。題名もマグリットのような詩的・哲学的なものではなく、むしろ素っ気ない。

 一方、社会批評を感じさせ作品もある。本展のHP(↓)に画像が載っているが、「Babel 2005 都市の肖像」はその典型だ。画面の中央に巨大なビルが立つ。一見して、現代のバベルの塔だ。それは美しいともいえる。だが、ビルの周囲は荒れ果てた大地だ。都市が崩壊した跡のようでもある。あちこちにブルーシートのテントが張られている。テントはビルの下部まで侵食する。テントの脇には焚火の煙が見える。人がいるのか。よく見ると、ビルの1階には大砲が並んでいる。侵入者を阻むかのように。

 「Bubble Flowers 波の花」(2013)もHPに画像が掲載されている。都会の夜景だ。交差点を行き交う車のライトが幾筋も流れる。ビルの窓から煌々と光が漏れる。そして(人々の群れだろうか)泡のような無数の光が浮かぶ。美しいと思う。だが、本作品と一対をなす「Listen to the tales 交差点で待つ間に」(2013)を見ると、本作品はたんに美しいというだけでは済まない作品ではないかと思う。

 「交差点で待つ間に」は瓦礫と化した都会の風景を描く。灰色一色の世界だ。人の姿は見えない。人の代わりに何匹もの野良犬がいる。子犬に授乳する母犬もいる。犬たちは命をつなぐ。題名からいって、交差点で信号が変わるのを待つ間に幻視した廃墟の風景だろう。東日本大震災から2年後。都会は東日本大震災を忘れたかのように賑わうが、それは脆くはないかと。
(2023.7.7.東京オペラシティ・アートギャラリー)

(※)本展のHP
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