Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

鈴木優人/読響「峡谷から星たちへ…」

2020年10月07日 | 音楽
 読響のサントリー音楽賞受賞記念コンサートだが、コロナ禍のために、まず曲目がメシアンの「我らの主イエス・キリストの変容」から同「峡谷から星たちへ…」に変わり、次に指揮者がカンブルランから鈴木優人に変わった。だが、そういう変遷を微塵も感じさせないほど充実した、焦点の合った演奏会になった。

 カンブルランが振ったら、極度に張りつめた演奏になったかもしれないが、鈴木優人が振ると、清新で、暖かみのある演奏になった。それは個性の違いだが、ともかく代役という範疇をこえる演奏になった。これで読響と鈴木優人との関係が一層強固になったのではないかと感じられる演奏だった。

 ピアノ独奏は児玉桃だった。さすがに堂に入った演奏だ。「幼子イエスに注ぐ20の眼差し」も「鳥のカタログ」も弾いてきた児玉桃の、メシアンの語法が手の内に入った演奏だった。「峡谷から星たちへ…」では2曲のピアノ・ソロがあるが(ちなみに全体は12曲からなる)、とくに第9曲「マネシツグミ」は流麗な名演だった。

 第6曲「星々のあいだを翔ける呼び声」のホルン・ソロは読響首席の日橋辰朗だった。これも見事というしかない演奏だ。星々への呼びかけの声とそのエコーという二層の構造が滑らかに交錯し、少しの危なげもなかった。

 「峡谷から星たちへ…」の全曲を生で聴くのは初めてだったが、生で聴くと、発見がいろいろあった。まず特殊なオーケストラ編成だ。木管楽器14、金管楽器9、打楽器5と弦楽器13がオーケストラ。そこにソロ楽器としてピアノ1、シロリンバ1とグロッケンシュピール1が入る。ソロ楽器を別にすると、オーケストラは総勢41人で、その内訳は木管楽器と弦楽器がほぼ同数だ。わたしたちに馴染みの、弦楽器の厚い層のうえに木管楽器と金管楽器が乗る音響ではなく、弦楽器・木管楽器・金管楽器が同等に並ぶ音響。その全体は(弦楽器の代わりに)ピアノが支え、シロリンバとグロッケンシュピールがそれを補助する。結果として、照度の高い、色彩豊かな、透明な音響が現れる。

 もう一つ、生で聴いておもしろかったのは、第8曲「復活させられた者たちとアルデバランの星の歌」でオンドマルトノのような音が聴こえたことだ。フルートを中心とした木管楽器がその音を作っていたと思う。同曲では他にも、どの楽器がどうやって作っているのかわからない微細な音が混じっていて、思わず耳をそばだてた。

 第7曲「ブライスキャニオンと赤橙色の岩々」では圧倒的なクライマックスが築かれた。一方、第12曲「ザイオンパークと天の都」では音圧の高まりがいまひとつだった。
(2020.10.6.サントリーホール)

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