Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

アーティゾン美術館のクレー・コレクション

2020年10月12日 | 美術
 アーティゾン美術館がパウル・クレー(1879‐1940)の作品24点を新規収蔵して、現在公開中だ。いかにもクレーらしい作品が入っている。以下、何点かご紹介したい。画像は下記のリンク先を参照願いたい(※)。

 「ストロベリーハウスの建築工事」(1921)は(クレーがこの時期よく描いた)折れ線を積み重ねた作品で、その折れ線は工事現場の柵のようだ。それが心地よいリズムを生む。画面の中心部は黄緑色が占め、その周辺にえんじ色が配されている。それらの2色には濃淡があり、全体的に緑のグラデーションと赤のグラデーションとの組み合わせのような画面だ。左側に「T.」が、右側に「H.」が描き込まれている。それらの文字が何を意味するかは(わたしには)不明。

 チラシ(↑)に使われている作品は「庭の幻影」(1925)。中心部の明るくなったところに数本の樹木と教会が見える。上部の赤い円は太陽。だが、それにしても、周囲の暗い部分は何だろう。めまいを起こしたような暗い視野に、ぼんやりと風景が映るような、不気味な感覚を覚える。そして何よりも特徴的な点は、画面一面にびっしり刻み込まれた横線だ。これは何を表すのだろう。わたしには鉄条網のように見えた。この作品は、鉄条網のこちら側から、向こう側の自由な社会を見た作品ではないだろうか、と。そうだとすると、なぜ画家は(そして鑑賞者は)鉄条網に囲われた中にいるのだろう。制作年は1925年なので、クレーはまだナチスの迫害を受けていない。伝記的な説明は難しいと思うが。

 「羊飼い」(1929)は今回わたしがもっとも感銘を受けた作品だ。青緑色の背景(背景というよりも光という感じがする。青緑色に揺れる不思議な光)の中に針金でできたような人物が立っている。右手には杖を持っている。人物の前を横切る線がある。人物の足元には1匹の動物と、それを連れた小さな人物がいる。それらの人物たちに向かって、右下から4つの動物か何かがしのびよっている。

 会場内のキャプションによれば、本作は新約聖書の「よき羊飼い」を描いたものとされている。中央に立つ人物はイエスで、狼から人間を守っている。イエスの前の横線は、イエスが狼に「ここから先には入ってはならない」といっている境界線か。イエスの胸には赤いハートが描かれている。それが何とも微笑ましい。制作年の1929年といえば、クレーはまだバウハウスに在籍中だが、ナチスの脅威は感じていたかもしれない。そんな伝記的な事項と結びつけて鑑賞したくなる。

 もう1点、「谷間の花」(1938)も強く印象に残った。この頃のクレーはすでに難病に苦しんでいた。そのクレーが谷間の花の生命力に胸をうたれた感覚が伝わる。
(2020.10.11.アーティゾン美術館)

(※)各作品の画像(本展のHP)

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