新国立劇場の新制作「シモン・ボッカネグラ」は、複雑なストーリーのこのオペラに真正面から取り組み、歌手、演出、指揮のそれぞれの力が結集して、ヴェルディの数あるオペラの中でも特異な存在のこのオペラの真価を明らかにした。
タイトルロールのシモンを歌ったロベルト・フロンターリは、揺れ動くシモンの内面を陰影深く表現した。シモンは25年前の前史を描くプロローグでは、恋人マリアの父・フィエスコに赦しを乞うが、かなえられない。第1幕の議会の場ではヴェネチアとの和平を諮るが、議会は与党(平民派)も野党(貴族派)も戦いの継続を主張する。25年ぶりに出会った娘・アメーリアにはシモンと敵対するガブリエーレという恋人がいる。シモンは25年前のフィエスコの立場に立たされたわけだが、シモンはフィエスコとは違って、ガブリエーレを赦そうとする。フロンターリはシモンのそのような襞の多い人物像を滋味豊かに歌った。
フィエスコはシモンの死の直前までシモンを赦さないが、一方で、シモンと恋仲になった娘・マリアへの父性愛は十分にもち、またシモンを裏切るパオロからのシモン暗殺の誘いはきっぱり断る面もある。フィエスコのそのような、シモンと対峙する人物ではあるが、非人間的とはいえない人物像をリッカルド・ザネッラートは堂々と歌った。とくにプロローグでは張りのある声がフロンターリを凌いだ(フロンターリは第一幕以降の長丁場に備えて、プロローグでは力をセーブしていたようだ)。
アメーリアの恋人・ガブリエーレはまだ若くて直情的な人物だが、ルチアーノ・ガンチの突き抜けるような声に説得力があり、それ以上にオペラ的な愉悦があった。すでにウィーン国立歌劇場やバイエルン州立歌劇場で主要な役を歌っている人のようだ。世界水準のテノール歌手の新国立劇場デビューだ。
アメーリアを歌ったイリーナ・ルングは要所々々を締めた。パオロを歌ったシモーネ・アルベルギーニは、上記の歌手たちの中にあってはやや力不足だった。
演出のピエール・オーディは登場人物の内面に焦点を合わせ、余計なものを排除して、各々の内面を端的に表現した。小技もきいていた。たとえば議会の場では、パオロが議員にヴェネチアとの戦いの継続を扇動した。幕切れの黒い太陽の出現とガブリエーレの総督用ガウンの拒否も説得力があった。舞台美術のアニッシュ・カプーアは、天上から巨大な火山を逆さに吊るした。それは視覚的なインパクトがあり、また平民派と貴族派に分断された不安定な社会情勢を象徴した。大野和士指揮の東京フィルは、静かな海を模した弦楽器の繊細な音から呪いの場の恐ろしい打撃音まで雄弁だった。
(2023.11.23.新国立劇場)
タイトルロールのシモンを歌ったロベルト・フロンターリは、揺れ動くシモンの内面を陰影深く表現した。シモンは25年前の前史を描くプロローグでは、恋人マリアの父・フィエスコに赦しを乞うが、かなえられない。第1幕の議会の場ではヴェネチアとの和平を諮るが、議会は与党(平民派)も野党(貴族派)も戦いの継続を主張する。25年ぶりに出会った娘・アメーリアにはシモンと敵対するガブリエーレという恋人がいる。シモンは25年前のフィエスコの立場に立たされたわけだが、シモンはフィエスコとは違って、ガブリエーレを赦そうとする。フロンターリはシモンのそのような襞の多い人物像を滋味豊かに歌った。
フィエスコはシモンの死の直前までシモンを赦さないが、一方で、シモンと恋仲になった娘・マリアへの父性愛は十分にもち、またシモンを裏切るパオロからのシモン暗殺の誘いはきっぱり断る面もある。フィエスコのそのような、シモンと対峙する人物ではあるが、非人間的とはいえない人物像をリッカルド・ザネッラートは堂々と歌った。とくにプロローグでは張りのある声がフロンターリを凌いだ(フロンターリは第一幕以降の長丁場に備えて、プロローグでは力をセーブしていたようだ)。
アメーリアの恋人・ガブリエーレはまだ若くて直情的な人物だが、ルチアーノ・ガンチの突き抜けるような声に説得力があり、それ以上にオペラ的な愉悦があった。すでにウィーン国立歌劇場やバイエルン州立歌劇場で主要な役を歌っている人のようだ。世界水準のテノール歌手の新国立劇場デビューだ。
アメーリアを歌ったイリーナ・ルングは要所々々を締めた。パオロを歌ったシモーネ・アルベルギーニは、上記の歌手たちの中にあってはやや力不足だった。
演出のピエール・オーディは登場人物の内面に焦点を合わせ、余計なものを排除して、各々の内面を端的に表現した。小技もきいていた。たとえば議会の場では、パオロが議員にヴェネチアとの戦いの継続を扇動した。幕切れの黒い太陽の出現とガブリエーレの総督用ガウンの拒否も説得力があった。舞台美術のアニッシュ・カプーアは、天上から巨大な火山を逆さに吊るした。それは視覚的なインパクトがあり、また平民派と貴族派に分断された不安定な社会情勢を象徴した。大野和士指揮の東京フィルは、静かな海を模した弦楽器の繊細な音から呪いの場の恐ろしい打撃音まで雄弁だった。
(2023.11.23.新国立劇場)
私もオペラ『シモン・ボッカネグラ』を鑑賞してきましたので、大変興味を持ってブログを読ませていただきました。
シモン・ボッカネグラを歌ったロベルト・フロンターレ(バリトン)は、明るめの瑞々しい声で、スタイリッシュに人物像を構築し、フェスコとの二重唱は品格を失わず力強く、存在感がありました。その恋人のガブリエーレ・アドルフ(テノール)は、実直な性格に相応しく、輝かしい声がストレートに伸びて、重々しく、荘重を歌った高音の輝きは際立ち、その質感は歌の声の響きと調和して、恋人ふたりの声の響きは、恋人への愛情を感じさせていました。
シモンとアメーリアがお互いに父娘であることを知った場面の美しさ、シモンがアメーリア誘拐の真犯人であるパウロに、自らを呪わせる場面の金管が咆哮する全合奏など、音楽の暗めの色彩の中で、ヴェルディらしい力強い効果が出ていました。
私は、今回『シモン・ボッカネグラ』を鑑賞し、このオペラの背景、今回の演出も含めて、今回『シモン・ボッカネグラ』の世界の全貌を整理してレポートしてみました。
ぜひ一度いただけると大変感謝いたします。
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