Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ルイージ/N響

2024年12月02日 | 音楽
 ファビオ・ルイージ指揮N響のAプロ。1曲目はワーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」から前奏曲と愛の死。ルイージのワーグナーなので期待したが、オペラ的な盛り上がりに欠けた。当日のメインの曲目(後述するが、シェーンベルクの交響詩「ペレアスとメリザンド」)に重点が置かれ、1曲目は十分に力が入らなかったのだろうか。

 2曲目はリヒャルト・シュトラウスの歌曲を5曲。ソプラノのクリスティアーネ・カルクの独唱。私事だが、カルクは以前聴いたことがある。2016年10月にベルリン・フィルの定期演奏会に行ったとき、モーツァルトのオペラ・アリアとコンサート・アリアを各1曲歌った。とくにコンサート・アリアがドラマティックな歌唱だった。指揮はイヴァン・フィッシャーだった。

 今回もそのときの印象と変わらないが、カルクは声量の豊かさで聴かせる歌手ではなく、むしろ硬質な声の持ち主だが、音楽の中身の濃さで聴かせる。今回は「バラの花輪」と「なつかしいおもかげ」から入り、ともに温和なそれらの2曲に続いて、「森の喜び」で濃密な音楽に移行し、「心安らかに」で一挙にドラマティックな音楽を展開する。そして最後に名曲「あすの朝」で締めくくる構成だった。

 その構成といい、カルクの歌唱といい、手ごたえ十分の内容だった。できればアンコールを期待したが、アンコールはやらなかった。そういえば、ベルリン・フィルのときもアンコールはなかった。アンコールをやらないのは、カルクの流儀か、それともたまたまか。

 3曲目は前述のシェーンベルクの「ペレアスとメリザンド」。ルイージ特有の熱い指揮とN響の分厚い音で克明に描く「ペレアスとメリザンド」だった。実質的に4つの部分からなる曲で、いうまでもないが、(1)ゴロー、メリザンドそしてペレアスの出会い、(2)ペレアスとメリザンドの戯れ、(3)ペレアスとメリザンドの愛の場面とペレアスの死、(4)ゴローの苦悩とメリザンドの死が描かれる。演奏はそれらのドラマを克明に追った。オペラ指揮者としてのルイージの力量だろう。

 ドビュッシーのオペラもそうだが、シェーンベルクのこの交響詩も、聴衆に重くのしかかるのは最後のゴローの苦悩だ。死の床にあるメリザンドを前にしても、ゴローはなお嫉妬に苦しむ。その業の深さは人間の悲しみだ。ルイージとN響の演奏でもその部分が大きく浮かび上がった。

 最近思うのだが、ルイージの熱い音はN響に新時代をもたらすのだろうか。そうだとしたら、日本のオーケストラの転機になるかもしれない。
(2024.11.30.NHKホール)

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