Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

カーチュン・ウォン/東京フィル:武満徹「弧(アーク)」その他

2022年03月03日 | 音楽
 ウクライナ情勢の情報が刻々と入るので、落ち着かない毎日を過ごしているが、そのなかで苦境にあるウクライナの人々には申し訳ないが、昨夜は演奏会に出かけた。カーチュン・ウォン指揮東京フィルの武満徹の「弧(アーク)」などの演奏会だ。

 プログラムの前半は弦楽合奏曲が3曲。まず「地平線のドーリア」(1966)。武満徹(1930‐96)の初期の名作だ。繊細でクリアで潤いのある音。わたしは以前にこの曲の味もそっけもない演奏に出くわした経験があるが(そのときはショックだった)、そんな演奏とは一線を画す情感豊かな演奏だった。

 2曲目は「ア・ウェイ・ア・ローンⅡ」(1981)。尾高賞受賞作の「遠い呼び声の彼方へ!」と同時期の作品だ。武満徹が前衛的な作風から「武満トーン」のロマンティックな作風に転じたころの作品とされる。だが、当夜の演奏はアンサンブルの精度が不足した。

 3曲目は「弦楽のためのレクイエム」(1957)。もう何度聴いたかわからない曲だ。その中でも当夜の演奏は名演だった。アンサンブルの精度が上がり、艶のある透明な音が織り上げられた。変な言い方かもしれないが、その音は初期の禁欲的で尖った音ではなく、「ア・ウェイ・ア・ローンⅡ」と同じ武満トーンの音だった。若き指揮者カーチュン・ウォンは譜面からそのような音を読みとったのだろう。

 余談になるが、カーチュン・ウォンは一曲ごとに、演奏終了後、譜面を聴衆にかかげた。たまたま「ア・ウェイ・ア・ローンⅡ」は黄色い表紙、「弦楽のためのレクイエム」は青い表紙だった。両者を並べてかかげると、それはウクライナの国旗になった。

 プログラム後半は武満徹の秘曲「弧(アーク)」の全曲演奏。1963年から66年にかけて作曲され、76年に一部改訂された、6曲からなる連作だ。独奏ピアノが入る。当夜の独奏ピアノは(もうレジェンドといってもいい)高橋アキだった。

 興味深かったのは、第2曲「ソリチュード」で武満トーンが聴こえたことだ。先述の「弦楽のためのレクイエム」といい、この曲といい、初期の曲を武満トーンというのは一般的ではないかもしれないが、わたしにそう聴こえたのは、カーチュン・ウォンの演奏のためだろう。わたしは目から鱗が落ちる思いだった。また第3曲「ユア・ラヴ・アンド・ザ・クロッシング」では、独奏ピアノが図形楽譜をもとに演奏するが、今回の演奏会にあたり、オリジナルの図形楽譜が発見されたそうだ(今までは別の図形楽譜で演奏されていた由)。高橋アキはそのオリジナルの図形楽譜により、ピアノの弦をマレットで叩くなど、気迫のこもったシャープな演奏を繰り広げた。
(2022.3.2.東京オペラシティ)
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