Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

サントリーホール・サマーフェスティバル2023:ノイヴィルトの管弦楽曲

2023年08月25日 | 音楽
 サントリーホール・サマーフェスティバル2023が始まった。わたしにとっては一年間のメインイベントだ。今年のテーマ作曲家はオルガ・ノイヴィルト。1968年オーストリアのグラーツ生まれの女性作曲家だ。

 昨夜はノイヴィルトのオーケストラ・ポートレート。この演奏会はテーマ作曲家の作品のほかに、テーマ作曲家が選んだ若手の作品と、影響を受けた作品が演奏される。1曲目は若手のヤコブ・ミュールラッドの「REMS(短縮版)」。ミュールラッドは1991年スウェーデンのストックホルム生まれ。REMSとはrapid eye movement sleep(レム睡眠)の略。本来は約26分におよぶ曲だそうだが、短縮版は冒頭から約4分の1を切り取ったもの。幼いころの想い出の甘美な夢を思わせる曲だ。

 2曲目はノイヴィルトの新作「オルランド・ワールド」。ノイヴィルトはウィーン国立歌劇場からの委嘱で2019年にオペラ「オルランド」を初演した。「オルランド・ワールド」はその音楽を抜粋した組曲版とのこと。組曲版とはいえ、曲は途切れずに(たぶんオペラをなぞるように)一貫して流れる。演奏時間の記載はないが、体感的には30分を超えていたのではないだろうか。

 ともかく強烈な音楽だ。エレキギターが入るのだが、エレキギターはオーケストラの443ヘルツよりも高く454ヘルツに調律されている。ハープシコードはオーケストラよりも低く425ヘルツ。ピアノはプリペイド。それらの音がオーケストラに入るので、全体は(月並みな表現だが)おもちゃ箱をひっくり返したような状態になる。賑やかでぶっ飛んだ生きのいい音楽。ノイヴィルトが当代きっての人気作曲家であるゆえんだろう。

 ベルクの「ヴォツェック」や「ルル」の抜粋版と同じように独唱が入る。メゾ・ソプラノのヴィルピ・ライサネン。どういうわけか、曲の前半では声がオーケストラに埋もれ、よく聴こえなかったが、途中から聴こえるようになった。渾身の歌唱だったと思う。

 3曲目はノイヴィルトの「旅/針のない時計」。ウィーン・フィルの委嘱作品。2015年にダニエル・ハーディング指揮ウィーン・フィルの演奏で初演された。郷愁をさそうメロディーが何度も回帰する。遊園地の回転木馬を連想させる。「オルランド・ワールド」も「旅/針のない時計」もオーストリア音楽の長い伝統への反逆かもしれないが、やがて反逆は伝統の中に回収されるとしたら、伝統の力とは恐ろしいものだ。

 4曲目はスクリャービンの交響曲第4番「法悦の詩」。飽和的な音の世界が表現され、かつ方向感を見失わない名演だ。マティアス・ピンチャー指揮東京交響楽団の演奏。
(2023.8.24.サントリーホール)
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