Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

岡田温司「虹の西洋美術史」

2021年03月14日 | 読書
 先ごろ岡田温司の「西洋美術とレイシズム」(ちくまプリマー新書)を読んだ後で、同じ著者の「虹の西洋美術史」(同)を読んだ。虹を描いた絵画の歴史をたどったもの。虹という比較的小さなテーマでこれだけ豊富な作例を引きながら西洋美術史を語る著者の語り口は、もはや名人芸だ。200頁足らずの本文を15の章に分け、著者が「あとがき」でいう「紙芝居」のように話を展開する。

 本書が刊行されたのは2012年12月だ。東日本大震災から1年余り。虹は希望や慰めの象徴だ。著者の意図に被災者の慰霊や復興の願いがなかったかどうか。著者は「あとがき」で「「虹」を切り口にして西洋美術2500年の歴史をたどること、いつかそれをやってみたいと考えてきた」という。本書の執筆意図と東日本大震災とを必ずしも結びつけてはいないが、本文中で東日本大震災を示唆する箇所が2か所ある。以下に引用しよう。

 「今でこそ予測や予防の手段が発達したとはいえ、それでも自然は人為をはるかに超えている。そのことをわたしたちはつい先ごろ、改めて思い知らされたところだ。」(20頁)
 「二十一世紀の現代でさえ、天変地異を科学的に予測することは困難を極めるのだ。わたしたちはここ数年、ますますそのことを実感しつつある。」(115頁)

 そんな自然を前にして、無力を認めざるを得ないわたしたちは、嵐の去った後の虹に、また一雨来た後の虹に、さまざまな思いを投影する。多くの人が口ずさむ「虹の彼方に」はこう歌う。「空高くかかる虹の彼方に、かつて子守歌できいた土地がある」(大意)と。

 去る2月15日に都内では大きな虹が出た。わたしも家から出て、その虹に見とれた。くっきり弧を描く虹の色を数えてみた。外側から順に、赤、黄、青がみとめられた。では、虹は3色か。でも、3色のあいだに判然としないゾーンがあり、3色とは言い切れなかった。ところで虹は7色ではないのか。だが、いくら数えても、7色は確認できなかった。

 本書によると、3色説はアリストテレスに由来し、7色説はニュートンに由来する。もっとも、アリストテレスもニュートンも、それぞれ留保条件をつけているのだが、いつの間にか留保条件は忘れられ、3色説、7色説が一人歩きしたようだ。

 各時代の画家たちは、虹を3色で描いたのか、それとも7色で描いたのか。このテーマは本書のいくつかの章にまたがって追跡される。興味深いことには、大半の画家は(たとえニュートン以後であっても)3色で描き、7色の作例は例外的だ。その他、4色とか1色とかの作例もある。そんな曖昧さが意外に虹の本質かもしれないと思った。だからこそ人々は虹にさまざまな思いを投影できたのではないか。その結果が、本書が取り上げたような多種多彩な絵画に結実したのだろう。
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