Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ヴァイグレ/読響

2021年01月20日 | 音楽
 昨年(2020年)11月19日の読響の定期に「本日ヴァイグレが来日しました。12月9日の定期は予定通りヴァイグレが振ります」というチラシが入った。そうか、ヴァイグレが来たのか‥と、ヴァイグレの心意気を感じた。こういってはなんだが、やはり首席指揮者の任にある人は、オーケストラと一緒にいてなんぼのものだと思った。

 ヴァイグレはそれ以降日本に滞在し、昨日の定期も予定通り振った。のみならず2月17日~21日の東京二期会の「タンホイザー」の公演も、オーケストラが読響だからだろう、来日をキャンセルした某指揮者の代役を引き受けた。このような努力がオーケストラとの絆を強め、さらには聴衆の支持を集めることになるのだろう。

 昨日は1曲目がリヒャルト・シュトラウスの交響詩「マクベス」。ヴァイグレは去る1月9日~10日の演奏会では「ドン・ファン」を振っているので、同時期に書かれたシュトラウスの二つの交響詩を続けて取り上げたことになる。それはたぶん偶然ではなく、意図あってのことだろう。わたしは「ドン・ファン」は聴いていないが、「マクベス」は、ヴァイグレのダイナミックな指揮ぶりに導かれて、おそろしくよく鳴る演奏だった。

 2曲目はハルトマン(1905‐63)の「葬送協奏曲」。ナチスに迫害されたハルトマンの怒りと悲しみの曲だ。ヴァイオリン独奏は、当初予定されていたツェートマイアーがキャンセルしたので、成田達輝(なりたたつき)が代役を務めた。その成田の独奏がすごかった。迫真の演奏とはこういう演奏をいうのだろう。スリリングで、わたしはその熱量のすべてを受け止めきれないような思いになった。オーケストラは弦楽合奏だが、その演奏も真剣勝負だった。

 演奏終了後、成田達輝とヴァイグレがじっと見つめ合い、腕を下ろさない。固唾をのんで見守る聴衆。その沈黙が長かった。やがて両者の腕の力がゆるみ、拍手が起きる。成田は拍手を受けるよりも先に、譜面を掲げる。その光景はこの演奏が日常的なレベルを超える特別なものだったことを物語った。

 3曲目はヒンデミットの交響曲「画家マティス」。これもナチスの暗い記憶につながる曲だが、ハルトマンの前曲とはちがって、音楽的には愉悦にみちている。演奏は各パートのバランスがよく整えられ、1曲目で感じられた力みがなく、滑らかで、完成度の高い名演になった。全3楽章中、オペラティックな第3楽章はもちろんだが、第1楽章と第2楽章も平板にならず、音楽的なふくらみがあった。

 演奏会終了後、楽員が去っても拍手が鳴りやまず、ヴァイグレのソロ・カーテンコールとなった。ヴァイグレは感に堪えない面持ちで聴衆を見つめ続けた。
(2021.1.19.サントリーホール)

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