Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ジェームズ・レヴァインの想い出

2021年03月20日 | 音楽
 指揮者のジェームズ・レヴァインが3月9日に亡くなった。享年77歳。まだ若かったんだなと思う。ジェームズ・レヴァインを聴いたことは2度ある。たった2度だが、いずれも自分史のなかでは忘れがたい想い出になっている。

 1度目は1983年にザルツブルク音楽祭に行ったとき。それはわたしの初めてのザルツブルク音楽祭体験だった。当時の同音楽祭はカラヤンが君臨していた。わたしはカラヤンの指揮と演出で「ばらの騎士」を観た。その他にマゼールの指揮で「フィデリオ」、ムーティの指揮で「コジ・ファン・トゥッテ」そしてレヴァインの指揮で「魔笛」を観た。ウィーン・フィルの演奏会は2回、サヴァリッシュの指揮とムーティの指揮で聴いた。

 当時のザルツブルク音楽祭は指揮者・歌手ともにスター路線の最後の輝きのなかにあった。「魔笛」の歌手はタミーノがペーター・シュライアー、パミーナがイレアナ・コトルバシュ、パパゲーノがクリスチャン・ベッシュ、ザラストロがクルト・モル、夜の女王がエディタ・グルベローヴァだった。ビッグネームが並んでいた。

 演出はジャン=ピエール・ポネル。歌手たちのあいだでなにか混乱が生じ(もちろんそれは演出だ)、オペラが止まってしまうと、レヴァインがマイクを取ってなにかを叫び、それでオペラが再開する場面があった。わたしはそれと同じ手法を後年ペーター・コンヴィチュニー演出の「ニュルンベルクのマイスタージンガー」(ハンブルク歌劇場)で観た。

 ともかくレヴァインは当時、並みいる若手指揮者のなかでも、頭一つ抜けた大物のように見えた。

 2度目は2004年にニューヨークのメトロポリタン歌劇場に行ったとき。それはわたしの最初で最後の(いまのところ最後の)ニューヨーク体験だった。ニューヨークに行った目的は同歌劇場でワーグナーの「ニーベルンクの指輪」四部作を観ることだった。指揮はレヴァイン。その指揮は重心が低く、たっぷりためを作り、雄大にオーケストラをドライブするものだった。わたしはレヴァインの実力に開眼した。当時のレヴァインは脂の乗り切ったころだったのだろう。演出はオットー・シェンク。同歌劇場で長年使われている演出だったが、細かいところも十分作り込まれていて、ルーティン的な印象は受けなかった。歌手では「ワルキューレ」でジークムントを歌ったプラシド・ドミンゴに圧倒された。

 ニューヨークでは日中は美術館巡りを楽しんだ。オペラのない夜には老舗のジャズ・クラブ「ヴィレッジ・バンガード」に行ってみた。ニューヨーク・フィルの定期演奏会にも行った。指揮はシャルル・デュトワだった。そのデュトワも、レヴァインも、ドミンゴも、近年セクハラ問題が浮上した。クラシック音楽界の闇の部分を垣間見た思いがする。
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