Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

濱田芳通/アントネッロ「リナルド」

2024年08月18日 | 音楽
 濱田芳通が率いる古楽演奏団体アントネッロはいつか聴いてみたいと思っていた。やっとその機会が訪れた。濱田芳通の第53回(2021年度)サントリー音楽賞の受賞記念コンサートだ。曲目はヘンデルのオペラ「リナルド」。

 評判通り、ビート感のある表情豊かな演奏だ。弦楽器の澄んだ音色、木管楽器の個性的な演奏、ティンパニだけではなくタンバリンなどを加えた打楽器の多彩さ、そして通奏低音の精彩ある演奏など、聴きどころが満載だ。日本にはいつのまにかアントネッロとバッハ・コレギウム・ジャパンという互いに個性を競い合う古楽アンサンブルが2つできていた(各々の個性は鈴木雅明・優人と濱田芳通の個性からくるわけだ)。

 第1幕の鳥のさえずりは濱田芳通のリコーダー演奏で表現された。目の覚めるような妙技だ。即興的な演奏だったのだろう。第2幕の冒頭には日本語のギャグが置かれた。わたしは冗長に感じたが、けっこう受けていた。第2幕の最後のアルミーダのアリアは激烈なチェンバロ・ソロを伴うが(初演の際はヘンデル自身が弾いたという)、そのチェンバロ・ソロがいつ果てるとも知れずに延々と続き、笑いを誘った。

 当演奏の特徴はレチタティーヴォの扱いにあった。濱田芳通の「演奏ノート」によれば、濱田芳通は「レチタティーヴォについて、昨今の演奏では「喋る」要素が強すぎると感じており、オールドファッション的に「歌う」感じを大切にしました」という。オールドファッションとは「バロック初期のレチタールカンタンド様式、そして、戦前の巨匠時代の演奏という二つの意味合いがあります」と。

 それはそれで一つの行き方だろうが、上記の日本語のギャグが典型的に示すような演出上の「緩さ」が随所に加わり、全体的には(アントネッロの演奏の生きのよさにもかかわらず)オペラ進行の冗長さを生じた。

 歌手ではリナルドを歌ったカウンターテナーの彌勒忠史が健在だった。また、わたしには未知の歌手だったが、アルミーダを歌ったソプラノの中山美紀の切れ味のよさに度肝を抜かれた。その他、エウスタツィオを歌ったカウンターテナーの新田壮人に注目した。アルミレーナを歌った中川詩歩はアリア「私を泣かせてください」のダカーポ後の部分で華麗な装飾を聴かせた。

 あとは余談だが、十字軍の「英雄」リナルドを主人公とし、最後には異教徒がキリスト教に改宗するというこのオペラを、現代においてどう演出するか‥。今回の中村敬一の演出はリナルドを幼児的に描いたが、それだけでは問題の核心には届かない。
(2024.8.17.サントリーホール)
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