Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ヴァルチュハ/読響

2024年05月22日 | 音楽
 今年4月に読響の首席客演指揮者に就任したユライ・ヴァルチュハ。読響を振ったのは一昨年8月が初めてだ。わたしはそのときは都合で聴けなかった。今回が初めてのヴァルチュハ体験。曲目はマーラーの交響曲第3番。ちなみに一昨年8月の曲目はマーラーの交響曲第9番だった。

 長大な第1楽章では、トロンボーンがオーケストラ全体に君臨するかのように轟きわたった。底光りするような音色だ。トロンボーンが古代ギリシャの神ディオニュソスを象徴するのだとしたら、わたしは初めてそれを実感したように思う。

 トロンボーンにかぎらず、第1楽章全体にわたって、音の陰影が濃い。輝くような音から暗くくぐもるような音まで、明暗のコントラストがはっきり付けられている。音のイメージが徹底され、音楽が深く彫琢される。ヴァルチュハは、心地よさよりも、音楽の骨格を重視するタイプのようだ。現代の指揮者界の星といわれるマケラとか、その路線を行くと思われる山田和樹とか、そういった潮流とは別のところにいる人のようだ。

 プロフィールによると、ヴァルチュハは1976年ブラティスラヴァ(当時チェコ・スロバキア、現スロバキア)生まれ。今年48歳だ。スロバキア出身の指揮者というと、新星日本交響楽団(2001年に東京フィルと合併した)の首席指揮者を務めたオンドレイ・レナルト(1942‐)を思い出す。レナルトもマーラーで数々の名演を残した。その演奏の特徴は骨太の構築と大きなスケール感にあった。レナルトとヴァルチュハとは親子ほどの年齢差があるが、何か共通項を感じる。

 第2楽章は、わたしには音楽が流れないように感じられた。停滞しているというほどではないが、もう少し流れがほしかった。第3楽章も基本的には同じだが、音楽が第2楽章よりも込み入っているので、その分、彫りの深いヴァルチュハの演奏に納得できた。なおポストホルン(トランペットで代用長谷川京介氏のブログによると、本物のポストホルンだったらしい)はP席の後方の通路で、ドアを開けて演奏された。アルプスの牧草地が目に浮かんだ。

 第4楽章のメゾソプラノ独唱はエリザベス・デションというアメリカ人歌手が歌った。しっかりした歌い方で、声にも不足はないが、発声に少し癖があるようだ。超絶的な深い声を期待するわたしには、十分な満足は得られなかった。第5楽章の女声合唱は国立音楽大学(若い声が好ましい)、児童合唱は東京少年少女合唱隊が歌った。

 第6楽章は練りに練った演奏だった。だが、ずっと気になっていた音色の暗さが、この楽章でも続き、とくに最後に和音が解決する部分では、音の輝きが足りなかった。
(2024.5.21.サントリーホール)

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