Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

飯守泰次郎/東京シティ・フィル

2021年01月30日 | 音楽
 飯守泰次郎が指揮した東京シティ・フィルの1月の定期。プログラムはモーツァルトのオペラ「劇場支配人」序曲、ショパンのピアノ協奏曲第1番(ピアノ独奏は亀井聖矢)そしてチャイコフスキーの交響曲第5番。名曲コンサートのようなプログラムだが、オーケストラ、ピアノともども、その演奏のすばらしさにより、特別な演奏会になった。

 その要因の第一は飯守泰次郎の指揮だ。とくにチャイコフスキーの交響曲第5番はいつまでも記憶に残りそうな名演になった。飯守泰次郎は1940年9月生まれ。いま80歳だが、音楽は衰えていない。第1楽章序奏の深々とした味わいから第4楽章コーダの輝かしい音色まで、全編にわたって張りのある音が鳴り続けた。しかもその音は力みのない音なので、聴いていて疲れない。そのような演奏を聴くと、指揮者とは一朝一夕になる職業ではないとつくづく思う。わたしはどちらかというと、ベテラン指揮者よりも若手の指揮者のほうが好きなのだが、昨夜の飯守泰次郎には脱帽だ。

 要因の第二は亀井聖矢のピアノだ。亀井聖矢は2001年生まれ。誕生月はわからないが、いま19歳か20歳だ。現在は桐朋の2年に在学中。その若さが信じられないくらいピアノの音が美しい。その美しさをどう形容したらいいのだろう。実感としてはクリスタルガラスの乱反射のような視覚的なイメージがあった。その音で柔軟に音楽を紡いでいく。オーケストラの海を自由自在に泳いでいるようだ。

 大変な才能だと思う。すでに日本音楽コンクールとピティナ・ピアノコンペティションで優勝しているが(日本音楽コンクールでは第1位、ピティナ・ピアノコンペティションでは特級グランプリ)、今後大きく羽ばたく人材であることはまちがいない。そのような人材をいま聴くことに、わたしたち聴衆の喜びがある。

 ちなみに東京シティ・フィルのホームページには亀井聖矢へのインタビューが載っているが、それを読むと、上記の2つのコンクールでは、オーケストラはともに東京シティ・フィルだったそうだ(曲目はともにサン=サーンスのピアノ協奏曲第5番)。そんな縁のある今回の定期登場だった。

 要因の第三は東京シティ・フィルのチーム力の向上だ。飯守泰次郎の長年の薫陶の賜物だろうが、同フィルの音楽にたいする情熱と真摯さに、現在の高関健によるレパートリーの拡大と譜読みの正確さが加わり、いまの同フィルは上げ潮に乗っている。それがチャイコフスキーの交響曲第5番にあらわれたようだ。高関健のツイッターによると、高関健は昨夜の演奏会を聴きにきたそうだ。オーケストラとともにいて、オーケストラを見守る。そんな常任指揮者のいるオーケストラは幸せだ。
(2021.1.29.サントリーホール)

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