Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ヴァイグレ/読響

2023年10月18日 | 音楽
 ヴァイグレ指揮読響の定期演奏会。1曲目はヒンデミットのピアノと弦楽合奏のための「主題と変奏〈4つの気質〉」。ピアノ独奏はルーカス・ゲニューシャス。地味な曲だが、ピアノ独奏もオーケストラも曲の持ち味をよく引き出して、ヒンデミットの円熟期の作品であることを納得させた。

 ゲニューシャスのアンコールがあった。3拍子の甘い曲だ。ショパンのワルツのようでもあるが、ショパンではない。だれの曲だろう。帰りがけに掲示を見たら、レオポルド・ゴドフスキ(1870‐1938)の「トリアコンタメロン」から第11番「なつかしきウィーン」とのこと。

 2曲目はハンス・アイスラーの「ドイツ交響曲」。副題に「反ファシズム・カンタータ」という題名をもつと記憶していたが、プログラムに記載がなかった。あるいは副題ではなく、わたしの手持ちのCDに記載されていただけかもしれない(CDは20~30年前にドイツのどこかの街で買った。まさかその曲を日本で聴ける日が来るとは思わなかった)。その“副題”はこの曲の性格を的確に言い表している。4人の独唱者と合唱が入り、全11楽章の大曲はカンタータというにふさわしく、また歌詞の大半はブレヒトの詩で、第一次世界大戦の戦禍を嘆き、その後の自由主義的なワイマール共和国からナチズムが台頭したことを糾弾する詩は、反ファシズムにほかならない。

 その曲をいまの日本で聴くとどう感じるか。第一次世界大戦の戦禍は第二次世界大戦の戦禍と重なり、ワイマール共和国は日本の戦後民主主義と重なる。では、ナチズムの台頭は……。それは各人が考えるべき問題だろう。ブレヒトの詩はいまの日本では異物かもしれないが、ブレヒトは、ブレヒトが詩や戯曲を書いた当時のドイツでも、異物だった。要はわたしたちが異物の言うことに耳を傾けるかどうかだ。

 演奏は記念碑的な名演になった。旧東ドイツ出身のヴァイグレは、この曲を「演奏するのは自分の使命」だと語る。まさに使命感に裏付けられた壮絶な指揮だ。オーケストラを鋭角的にドライブし、また合唱を煽る。通常の演奏とは次元の異なるパワーが炸裂する演奏だ。ヴァイグレの底力を初めて知った思いがする。

 合唱は新国立劇場合唱団(合唱指揮は冨平恭平)。たんに美しいとか何とかいうレベルを超えた凄まじい表現力だ。4人の独唱者はドイツの実力派歌手たち。ソプラノのアンナ・ガブラーは美しい声。メゾ・ソプラノのクリスタ・マイヤーは精神性を感じさせる歌唱。バリトンのディートリヒ・ヘンシェルはドラマティックな歌唱。そしてバスのファルク・シュトルックマンは深々とした声。大ベテランの健在ぶりが感動的だ。
(2023.10.17.サントリーホール)

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