16日の各紙を見て私は深いため息をついた。国民が汗水たらして築き上げた日本の資産が、政府の無策によりどんどんと切り売りされつつあるのだ。
東京証券取引所が15日に発表した集計によると、国内上場企業の株式の外国人保有比率は06年度末で28%となった。4年連続で過去最高を更新したという。おまけに今年5月からは株式交換による企業買収が認められた(いわゆる三角合併)。豊富な資金を持つ外資による日本企業買収はさらに加速する。ついこの間までは外資が入っている日本の大手企業は珍しかった。しかし今ではソニー、キャノンなど過半数を外資に握られている。
おなじく15日、財務省有識者会議が最終報告書をまとめ、財政再建のため国有地売却提言したという。その額は約1兆数千億円。大手町を中心としたビジネス街の超一等地がデベロッパーの争奪戦に食い散らかされていく。勿論その中心は外資だ。既に日本の高級不動産や主要土地は欧米ユダヤ資本や韓国、中国などのアジア資本に買収されつつあるらしいが、今度は国有地の払い下げまで外資の標的になる。
おりしもシーファー駐日米大使は15日、都内で開かれた読売国際経済懇話会で講演し、日米自由貿易協定締結について「日米が相互参入を進めれば、ビジネス機会は無限になる・・・自由貿易は繁栄を生み雇用を作る」などと強調したらしい(16日読売新聞)。米国の狙いは日本市場の完全なる開放にある。日米間の今の政治力学を考えると、日本企業の犠牲の下に、米国企業が、日本市場にあふれる消費者の金を、ごっそりと米国に持って行くことになるのだ。
更に言えば日本企業が稼いだ外貨準備のほとんどが米国国債の購入にあてられ、米国の財政赤字補填に使われている。今や世界一の外貨保有国となった中国は、最近に至ってその外貨準備の運用を米国国債から米国ヘッジファンドなどに乗り換え、米国金融資本の分け前を預かる仕組みをつくりつつある。つまり米国金融資本との運命共同体となりつつあるのだ。それと対照的に日本は米国国債を買い続け、米国の赤字財政の補填役に甘んじているのだ。
急速に進む日本経済の切り売りは、小泉・竹中の対米従属政策の結果であると言われている。それはその通りであろう。しかしその源流をたどると89-90年に始まった「日米構造協議」を受け入れた日本政府の経済戦争敗北にある。
この点について16日の朝日新聞は「証言でたどる同時代史」のなかで当時の状況を見事に再現している。
・・・財政赤字と経常赤字の「双子の赤字」に悩んでいた米国では、プラザ合意による為替調整でも日米貿易不均衡が縮小しなかったため、議会で保護主義的な空気が高まっていた。これを抑えるため日米政府が合意したのが日米構造協議であった・・・(米国が持ち出してきた要求リストを見た日本政府の高官の一人は)「これじゃ、まるでGHQ(占領軍総司令部)の指令じゃないか」と憤った。日本側は国内で「内政干渉」と騒がれるのをおそれ、文書の正式な受け取りを拒んだ。蔵相(当時)の橋本龍太郎は「見るだけで腹が立つ」と言いつつ、「放っておくわけにもいかない。何か検討できるものはないか」と指示した・・・
この記事を読んで私は当時の日本の国内官庁の慌てぶりをあらためて思い出す。そして日本経済についての理解も、所掌権限もない外務省は、ひたすら対米交渉の司会を演ずるピエロであった。すなわち日本には司令塔なきままに各省庁がばらばらに対応していた。その一方で、米国は周到な戦略の下に、「総力戦」で日米経済戦争に臨み、そして完勝した。
さらに16日の朝日新聞は、元通産審議官の畠山襄氏の述懐をこう紹介している。
「・・・当時は米国の言い分を苦々しいと思ったこともあるが、今となると日本経済にとって良かったと思うことも多い・・・ただ最近のシャッター通りを見ると規制緩和が行き過ぎたようで・・・よきにつけあしきにつけ、やはり構造協議が最も影響が大きかったと思います・・・」
天下りを重ね、優雅な老後を享受している元通産官僚が、自らの責任感にフタをしてこのようなノー天気なコメントをすました顔をして言う、それが日本の現状なのだ。政治家と官僚の無策が間違いなく日本の経済力を崩壊させてしまった。