【癌細胞の正常細胞化技術】
鳥取大学は1月25日、三浦典正鳥取大学准教授らの研究チームは、クローニングしたRNA
遺伝子に関連して発現変動する単一の「マイクロRNA」を悪性度の高い未分化がんに導入
したところ、容易に悪性度を喪失させることができ、正常幹細胞へ形質転換できることを
公表。「がん細胞は正常細胞から発生するが、その細胞に戻ることはできない」「がんは
治らない」と考えられてきたが、癌細胞が正常細胞になることを発見したという。特に未
分化型肝癌に1種類のマイクロRNAを導入するだけで、幹性誘導を通して癌形質を失わせ
ることを発見(多能性マーカーNANOG 陽性:下左図)。免疫不全マウスin vivo 検討で、
肝癌細胞(HLF)から正常肝組織(下右図)や奇形腫(肉眼図:下右図)を形成したこと
から、癌細胞が一旦iPS 細胞になったことを確認。再生医療として応用できる可能性もあ
り、担癌患者の体内で癌細胞を発生由来細胞に戻し治癒できる可能性がある(癌細胞の正
常細胞化技術)。
Hsa-miR-520d induces hepatoma cells to form normal liver tissues via a stemness-mediatedprocess
※Hsa-miR-520d induces hepatoma cells to form normal liver tissues via a stemness-mediated pro-
cess;Published24 January 2014,nature.com
※特開2013-046616 siRNA導入による新規hiPSC作製法
【要約】 a) 特定の塩基配列、またはその塩基配列に対して1~3個の塩基が欠失、置換もしくは
付加された塩基配列、を含む、1本鎖または2本鎖のポリヌクレオチド、b)異なる特定の塩基配列
または、その塩基配列に対して1~3個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列、を含む
1本鎖または2本鎖のポリヌクレオチド、c)更に異なる特定の塩基配列、またはその塩基配列に
対して1~3個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列、を含む、1本鎖または2本鎖の
ポリヌクレオチド、からなる群から選ばれる1種以上の1本鎖または2本鎖のポリヌクレオチドを含
有し、細胞を多能性幹細胞へ誘導する、多能性幹細胞誘導剤で、多能性幹細胞を誘導する新規
の化合物組成物を提供する。
【図6C】miR-197siRNAをトランスフェクションした293FT細胞を、顕微鏡で免疫組織
化学的に観察した写真
以上、癌細胞を正常化細胞に戻す技術の道筋が拓かれたわけだが、遺伝子の種類・遺伝子
の改変部位・改変条件などの詳細な検証実験による最適化段階に入るわけだが、その道の
りがどの程度になるかを確認するには、部外者のわたし(たち)にはもう少し時間がいる
ようだ。
【個別化医療の行方】
個別化医療とは、遺伝的背景、生理的状態、生活環境などの個人差を考慮して、最適な治
療法を提供する医療と定義することができる。現在、個別化医療で進んでいる分野は治療
の最適化における薬物治療への応用であり、コンパニオン診断(Companion diagnostics : Co
Dx )の開発による、有効な薬物治療が推進されている。一方、個別化医療を広義にとら
えると、健常者を対象とした予防医学も個別化医療の目的に含まれ、個別化予防とも言う
ことができる。この中で、まだ病気を発症していない健常者を対象に生体情報、環境情報
などを長期間にわたって追跡調査を行い、疾患の発症メカニズムを解析する前向きコホー
ト研究が着々と進められているという(上図参照)。CoDxとは医薬品を投与する前に、効
果が期待される患者や副作用の少ない患者を選別したり、あるいは医薬品の投与量を調節
するために治療薬と併用して使われる診断である。また、新薬開発の段階でCoDxを利用し
て薬の効果が期待される患者を絞り込むことで、低リスク、かつ短期間に新規の医薬品を
開発することが可能になる。すなわち、CoDxによる個別化医療の推進は、治療薬の奏功率
の向上や薬の効かない患者への無駄な投薬の抑制、投薬リスクの軽減などに役立つことが
期待される。CoDxは個別化医療を推進するために用いられ、通常の臨床検査とは区別され、
PMDA(Pharmaceuticals and Medica1 DevicesAgency:(独)医薬品医療機器総合機構)の定義では、
特定の医薬品の有効性や安全性を一層高めるために、その使用対象患者に該当するかどう
かをあらかじめ検査する目的で使用される検査薬としている。
●技術基盤
CoDx の回発においても中心的な役割を担っている技術はゲノムからのアプローチであり、
そのアプローチは大きく2つに大別される。1つは、生殖細胞系列のゲノム情報(親から
子へ世代を超えて伝わるゲノム情報八こ基づいてゲノムDNAの多型・変異を解析するア
プローチ、もう1つは体細胞・病変部位の染色体の欠損・転座、DNAメチル化などを解析す
るアプローチである。具体的にCoDx を見てみると、生殖細胞系列のゲノム解析において、
先駆的な例として、抗がん剤のイリノテカンにおけるUGTIA1(Uridine diphosphate glucuro-
nosyltransferase の分子種の1つ)、抗凝固剤のワルファリンにおけるVKORC1(vitamin K e-
poxide reductase complex 1)ヽCYP2C9(Cytochrome P450 2C9)などがあり、重篤な副作用予測
有効性予測に効果的に寄与している。また、体細胞・病変部位の染色体の欠損・転座解析、
遺伝子発現解析などにおいて、抗がん剤のイマニチブにおけるBcr-Ab1融合遺伝子(フィラ
デルフィア染色体とも呼ばれる)、抗がん剤のトラスツズマブにおけるHer2(human epide-
rmal growth factor receptor type2)などがあり、抗がん剤の有効な薬物治療や患者の選別に
貢献している。以上のように、個人のゲノム(遺伝)情報の解析結果は、患者個人に最も適
した治療・医薬品を選択する個別化医療、ならびに患者疾患に対する医薬品の有効性や副
作用を予見するCODXなどに有効に活用されている。なお、生殖細胞系列のゲノム解析にお
いて、指針に則して倫理屈に十分留意し、適切に取り組む必要がある。
●CoDx の現状
国に施策として個別化医療を推進する動きが最近見られ「治療薬の効果や副作用を予測す
るため、あらかじめ患者の血液などを採取して遺伝子情報などを調べるCODXについて実用
化のための研究を推進する。特に、新薬については、CoDx との同時開発・同時審査を推進
する」と明示しており、国として CoDx に対する前向きの姿勢が示されている。PMDA 経
済産業省においてもCoDx CODXを伴った革新的医薬品を創出する姿勢を示している。一方、
世界的に薬剤の有効性、安全性を指標とするバイオマーカーを利用した薬剤の開発が積極
的に推進されており、(公財)ヒューマンサイエンス振興財団(HS財団)のレポートによれば、
2012年6月現在の集計では、米国の既承認薬103剤で、添付文書にバイオマーカーの記載が
あることを報告している。こうした状況の中、我が国においても2012年春に新規医薬品と
それに伴うコンパニオン診断薬との同時承認が相次いで具現化し、医薬品や診断薬、臨床
検査等の関連業界に新たな息を吹き込んだ。これらの成功事例に引き続き、コンパニオン
診新薬の開発に伴う新規医薬品の開発に関連業界が積極的に取り組んでいる。
以上簡単に個別化医療を俯瞰してみたが、予防医学を通し、未然に発病を抑え、国民の健
康維持、医療費削減などにつなげる道筋を看ることができる。今後、超高齢社会の健康長
寿の貢献と医療費削減の両立を如何に実現させるかの道半ばにあると考えられる。それゆ
え具体的な健康・医療への「前向きコホート研究」は、国家プロジェクトとして推進する
必要があり、そのための明確なルール作りや規格化を含めた国民の合意形成が大切になる。
また、解析システムなど、新しい技術の開発も必要となる(製薬産業から見れば、これま
では創薬標的分子を疾患コホート研究などの手法を用いて見いだしてきた)。
出典:バイ才サイエンスとインダストリ- vol.72 No.1(2014)
このような、「手話/音声変換ブレスレッド&リング」が普及すれば便利だね!