量子ドット太陽電池や量子ドットレーザの製造技術を量子効果とか、量子ドット、あるい
は量子井戸とか、量子ナノエレクトロニクスなどと呼称されているが、ここでは量子スケ
ールとの呼称を使う。さて、ナノメートルサイズの半導体微結晶の量子ドットは、通常サ
イズの半導体には見られないユニークな電気的・光学的特性を示すことから、単接合型太
陽電池の限界を突破する有望な材料として研究されている。太陽電池やレーザーさらには
コンピュータといったデバイス次元での技術開発成果が相次いで報告されてきている。そ
のことをここでは、"量子ドット太陽電池元年"として表現してきた(『量子ドット太陽電
池元年 』)。今夜は高輝度の半導体発光素子の株式会社東芝の新規考案を例に、量子スケ
ールデバイス製造技術進化の要点を確認してみよう。
●量子スケール設計とは、組成配合と空間パラメータの決定
まず、この発明の技術背景には、窒化物半導体を用いた半導体発光素子の発光ダイオード
(LED)は、表示装置や照明に。また、レーザダイオード(LD)は、例えば、高密度
記憶ディスクへの読み書きのための光源に用いられ、さらに高輝度化が求められているこ
とがある。窒化物半導体を含むn形半導体層とp形半導体層と、発光部を備えた発光素子
は下図のように構成されているが、n側障壁層と第1発光層、第1井戸層、第1障壁層の
間に設けられ、Alz1Ga1-z1N(0.25<z1≦1)を含む第1AlGaN(窒
化ガリウムアルミ)層と第1障壁層に接する第1窒化物半導体層で構成された発光部から
放出される光のピーク波長λpが515ナノメートルよりも長いという特徴もっている。
【符号の説明】
10…基板、 10a…第1主面、 10b…第2主面、 10s…積層体、 11…バッフ
ァ層、 20…n形半導体層、 30…多層積層体、 40…発光部、 50…p形半導体層、
51…第1p形層、 52…第2p形層、 53…第3p形層、 70…n側電極、80…
p側電極、 110、111、112、119a~119d、120…半導体発光素子、
BL1~BLi…第1~第i障壁層、 BLN…n側障壁層、 EL…発光層、 EL1~
ELi、ELn…第1~第i発光層、第n発光層、 L0…中心条件線、 L1、L2…
第1、第2境界条件線、 ML…AlGaN層、 ML1~MLi…第1~第iAlGaN
層、 OP…出力パワー、 P0…点、 Q0…点、 SA…厚膜層、 SA1~SAi、
SAm、SA(m+1)…第1~第i厚膜層、第m厚膜層、第(m+1)厚膜層、SB…
薄膜層、 SB1~SBi、SBm…第1~第i薄膜層、第m薄膜層、 WL…井戸層、
WL1~WLi…第1~第i井戸層、 λp…ピーク波長
ここで長々と詳細を記載しても意味をなさいない。要点だけ下図で抜き書きするとこうな
る。この図は多層積層体30の構成を例示。多層積層体30は、n形半導体層20と発光
部40との間に設けられる。多層積層体30は、+Z方向に沿って交互に積層された複数
の厚膜層SAと複数の薄膜層SBとを含む。薄膜層SBは、厚膜層SAの厚さと同じ、ま
たは厚膜層SAよりも薄い厚さを有する。薄膜層SBは、厚膜層SAの組成とは異なる組
成を有することを表している。
例えば、複数の薄膜層SBは、第1薄膜層SB1~第m薄膜層SBmを含む。ここで「m」
は2以上の整数で、複数の厚膜層SAは、第1厚膜層SA1~第m厚膜層SAmを含む。
複数の厚膜層SAは、第(m+1)厚膜層SA(m+1)の範囲でも良く、多層積層体は
超格子構造をもつ。厚膜層SAの厚さは、例えば、1nm以上3nm以下である。薄膜層
SBの厚さは、例えば、1.5nm未満であり、かつ、厚膜層SAの厚さ以下であり、
例えば、厚膜層SAはGaN(窒化ガリウム)を含む。薄膜層SBは、InGaN(窒化
ガリウムインジウム)を含む。 厚膜層SAには、例えば実質的にInを含まないGaN層
が用いられる。多層積層体に含まれる層がInGaN層を含む場合、そのIn組成は、後
に成長する井戸層WLのIn組成より低いことが良く、多層積層体は必要に応じて設けられ、
場合によっては省略もきる。半導体発光素子は、発光部から放出される光のピーク波長λp
は、515nmよりも長い。すなわち、ピーク波長λpが515nmを超える場合において
井戸層WLと、その井戸層WLからみてp形半導体層の側に位置する障壁層BLとの間に、
Al組成比zが0.25よりも高いAlGaN層を設け、これにより高い輝度が得られる。
この実験で、複数の半導体発光素子の発光のピーク波長λpを測定すると、複数の半導体
発光素子は、ピーク波長λpが異なっている。これは、
(1)井戸層WLにおけるIn組成比zのウェーハ面内の変動
(2)井戸層WLの厚さのウェーハ面内の変動
などに基づいている。これにより、異なるピーク波長λpを有する複数の半導体発光素子
が得られている。AlGaN層MLにおけるAl組成比zを変更した試料も作製したとこ
ろ、AlGaN層のAl組成比zを0.09、0.14及び0.18としたものを、それぞ
れを参考例(半導体発光素子)とする。さらに、AlGaN層MLを形成しない試料を、
井戸層WLの形成の後、連続してキャップ層を形成し障壁層BLを成長させ発光部を形成
させている。下図は、半導体発光素子の特性を例示するグラフ図である。つまり、これら
の図は、半導体発光素子、第1~第4参考例の半導体発光素子の特性の測定結果を示し、
横軸は、各半導体発光素子の試料におけるピーク波長λpに対応。縦軸は、出力パワーO
P(演算増幅器)に対応する(対数表示)。出力パワーOPは、20mAの電流を流した
時の値である。
この実験結果から、発光部40から放出される光のピーク波長λpが、515nmよりも
長い半導体発光素子において、AlzGa1-zN(0.25<z≦1)を含むAlGa
N層MLを用いる。このAlGaN層MLは、井戸層WLと、その井戸層WLのp形半導
体層50の側の障壁層WLとの間に設けられる。すなわち、第1AlGaN層ML1は、
第1井戸層WLと第1障壁層BL1との間に設けられる。これにより、高輝度が得られる。
実験のように高輝度が得られるのは、量子閉じ込めシュタルク効果による発光効率の低下
が抑制されたと考えているという。
つまり、輝度の向上が十分に発揮できるのは、AlGaN層MLにおけるAl組成比zが
0.25よりも高いときで、AlGaN層MLにおけるAl組成比zが過度に高いと、結
晶品質に悪影響が生じる場合があり、Al組成比zが過度に高いと、電子の波動関数がシ
フトする効果が過度に生じ、正孔の波動関数との重なり積分値が逆に小さくなる傾向があ
り、その結果、発光効率が低下する。このように、ピーク波長λpと、AlGaN層にお
けるAl組成比zと、の間の適正な関係があると考えられる。このため、515nmより
長波長の領域では、AlGaN層におけるAl組成比zは、0.25よりも高く、0.5以
下に設定すればよい。その結果、高輝度で高効率の半導体発光素子が得られる。
この実験では、基板の主面は、c面であり、各結晶層(n形半導体層、発光層EL及びp
形半導体層50など)の主面は、極性面であるc面となる。このとき、上記のようなピエ
ゾ電界による量子閉じ込めシュタルク効果が発生し易くなる。さらに、AlGaN層を用
いることでこの効果を抑制する。なお、井戸層と、その井戸層WLのn形半導体層側の障
壁層との間に、AlGaN層を設ける構成が考えられるが、この構成では、電子の波動関
数のシフトする方向が逆になり、量子閉じ込めシュタルク効果による発光効率の低下の抑
制効果は得られない。すなわち、例えば、第1発光層において、第1井戸層と接するn側
障壁層BLNには、Inx2Ga1-x2N(0≦x2<1)が用いられ、障壁層)には、
Inx1Ga1-x1N(0≦x1<1)が用いられることになる。
さて、上写真図は、実施形態に係る半導体発光素子の構成を例示する透過型電子顕微鏡写
真像。半導体発光素子の結晶層(発光部)の断面の像である。図に表したように、半導体
発光素子は、AlGaN層は層状で、AlGaN層は、貫通した孔の領域や、大きく陥没
した領域は形成されていないAlGaN層の陥没や貫通孔などによって、井戸層の一部が
露出して障壁層と実質的に接することもない。また、AlGaN層の各層において、原子
レベルでの平坦性が観察される。AlGaN層の厚さのRMS値は、0.5nm以下であ
る。井戸層の上にAlGaNの中間層を設け、素子の閾値電圧または駆動電圧を下げる試
みがある。この場合に、AlGaNの中間層が、表面が陥没または貫通した複数の領域を
有する網目構造になる。陥没または貫通した複数の領域は、中間層の表面の10%以上で
ある。このような網目構造は、中間層を低温で形成し、その上の障壁層の成長温度まで温
度を上昇させたときに、中間層などが分解して形成されると考えられている。
これに対して、AlGaN層の上にキャップ層を形成し、このキャップ層の形成温度は、
AlGaN層の形成温度と同程度で、そのキャップ層を形成した後に、温度を上昇し、高
い温度で障壁層を形成するようなプロセスで、AlGaN層の一部が分解することなどが
抑制される。このため、実施形態においては、AlGaN層MLにおいては、成長させた
ときの状態である層状態が維持される。すなわち、網目構造ではない。実験では、Al
GaN層で、陥没しているまたは貫通孔が設けられている領域の面積は、AlGaN層の
層面のうちの10%未満である。つまり、実質的にはそのような領域はないという。もし
キャップ層を設けない状態で、AlGaN層の上に高い温度で障壁層を形成するとAl
GaN層に変形が生じる。そして、特に、Al組成比zが0.25よりも高い場合に、こ
の変形が顕著となると考えられる。逆に、Al組成比zが0.25よりも高いAlGaN
層MLにおいて、AlGaN層MLが層状(平坦)である場合には、このようなキャップ
層を設けた上で、高温での障壁層を形成したと推定する。
また、上図は、実施形態に係る半導体発光素子の構成を例示する模式的断面図である。図
に表したように、半導体発光素子112においては、キャップ層が設けられる。例えば、
第1発光層は、第1AlGaN層と第1障壁層に接し、窒化物半導体を含む第1キャップ
層(キャップ層CL)を含み、第1AlGaN層で層状を維持が維持される。このキャッ
プ層は、電子顕微鏡観察などの解析手法により観察される場合もあり、観察されない場合
もあるという。図に例示した半導体発光素子112はSQW構成を有しているが、MQW
構成を有する半導体発光素子において、キャップ層CLを設けても良い。複数の発光層が
設けられる場合、第i発光層ELiは、第iAlGaN層MLiと第i障壁層BLiとに
接し、窒化物半導体を含む第iキャップ層CLiをさらに含むことができる。これにより、
AlGaN層MLが層状となる(網目構造ではない)。例えば、AlGaN層の厚さのR
MS値は、0.5nm以下となる。この例では、AlGaN層の厚さは、約1.5nmで
あるため、厚さのばらつきは、AlGaN層MLの平均の厚さのプラスマイナス33%以
下(0.5nm/1.5nm)である。障壁層の成長温度は、井戸層の成長温度以上で、障
壁層の成長温度と井戸層の成長温度との差は、200℃以下が良い。障壁層の成長温度が、
井戸層の成長温度よりも低いと、障壁層にピットが発生し易い。障壁層の成長温度が井戸
層の成長温度よりも高く、障壁層の成長温度と井戸層の成長温度との差が200℃を超え
ると、井戸層が劣化し易い。なお、n側障壁層BLNの厚さは、3nm以上20nm以下
が好ましい。n側障壁層の厚さが3nm未満の場合は、表面の平坦性が十分でない。n側
障壁層の厚さが50nmを超えると、多層積層体による結晶の歪みの緩和の効果が低くな
ると共に、駆動電圧が高くなる傾向がある。n側障壁層の厚さが3nm以上50nm以下
のときに高い平坦性と高い結晶品質と高効率な発光とが得られる。n側障壁層の形成に、
サセプタの温度が900℃以上1000℃以下の範囲ではキャリアガスにはN2が良い。
H2をさらに添加しても良い。ただし、この場合には、H2の流量は、総ガス流量の半分以下
に設定され高い結晶品質を得易い。
下図は、半導体発光素子の特性を例示するグラフ図。この図は、図4に例示した実験のデ
ータを基にして描かれている。図の横軸は、ピーク波長λpである。縦軸は、AlGaN
層MLにおけるAl組成比zである。図中の円形印は、Al組成比zが0.9、0.14、
0.18及び0.30のなかで、そのピーク波長λpにおいて高い出力パワーOPが得られ
るAl組成比zであることを示す。四角形印は、Al組成比zが0.9、0.14、0.18
及び0.30のなかで、そのピーク波長λpにおいて出力パワーOPが相対的に低くなるAl
組成比zであることを示している。
以上、量子スケールデバイスの設計に関する新しい知見を考察してきた。今後も、関連情
報をシリーズとして、適宜、適時。時宜を得て掲載していく。このように高性能(高変換
効率)太陽電池製造技術(工学)は地道にあるが着実な進歩を感じ取っている。これを実
現し世界展開することが、わたし(たち)の究極のゴールである。
それにしても、饗庭野の演習場が五月蠅くなっている(主にヘリ騒音?)。万が一、日中
間で戦端が切られたなら、その日本側の第一級戦犯者の名前を直ちに二名挙げることがで
きる。そのようにわたしたち勤労国民は情勢を冷静に見ている。