勝ちまけを争ふひとり手をとどめ ほととぎす啼くとつぶやきにけり
窪田 空穂
【最新CIGS太陽電池事情】
昨年9月に東芝は、ホモ接合型CIGS太陽電池で、世界最高レベルのエネルギー変換効率
20.7%を達成したこと公表している。言うまでもなく、CIGS太陽電池は化合物半導体の
Cu(In,Ga)Se2系太陽電池の略称で、銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、およびセ
レン(Se)からなる半導体材料で、物性を制御するために硫黄(S)が混ぜられることもあり、
CIGSSeなどと略されることもある。(1)高い耐放射線特性や(2)軽量フレキシブル
化が可能、(3)低コスト化が期待できるという特徴があり、従来の太陽電池パネルと
同様の用途のほか、宇宙環境での使用や、民生用としてもこれまで太陽電池パネルの導
入が困難であった場所への設置など、幅広い応用が期待できる。太陽電池材料の重要な
物性指標として、禁制帯幅(エネルギーギャップ、バンドギャップなどとも呼ばれる)
があるが、CIGS太陽電池では構成元素の組成比を制御することで禁制帯幅を広範囲で制
御し、モジュール表面は黒色である。
ところで、東芝は独自の液相ドーピング法を用い、p層とn層が共にCIGSで、原理的に
界面欠陥が少ないホモ接合構造を実現。また、現在のCIGS太陽電池に並ぶ世界最高レベ
ルのエネルギー変換効率を達成した液相ドーピング法は、n型ドーパントを溶かした液
体にp層のCIGS薄膜を成膜したガラス基板を浸漬し、n型ドーパントをCIGS薄膜表面か
ら内部に拡散させてn層を形成する方法。溶液に浸すだけの大変簡便な手法で、CIGSで
n層やホモ接合構造を作製することが可能になるという特徴を持つ。
※ ホモp-n接合、あるいはホモ接合とは、負(negative)の電荷をもつ電子が移動す
ることで電流が流れる半導体をn型半導体と呼ぶ。多数キャリアが電子である半導体と
も表現され、正(positive)の電荷を有する正孔が移動することで電流が流れる半導体
をp型半導体と呼び、多数キャリアが正孔である半導体、とも表現される。p型とn型
の半導体を接合させたものをp-n接合といい、同種材料によるp-n接合、例えば、p
型とn型のシリコン(Si)による接合をホモ接合(これに対し、p型とn型が異種材料で
形成されるp-n接合をヘテロ接合)という。
【インジウムフリー化合物半導体系太陽電池】
さて、今年に入り、産業技術総合研究所の研究グループは、CIGS太陽電池の一種で、イ
ンジウムを含まない広禁制帯幅のCuGaSe2薄膜太陽電池の動作原理であるヘテロp-n
接合の形成メカニズムを解明した。これまで、CuGaSe2のn型化は困難とされていたが、
銅(Cu)が極端に欠乏したCuGaSe2の異相層はn型層として働き、p型CuGaSe2層とp-n
接合を形成して太陽電池として動作することがわかったと公表。この発見により、現在
製造されているCIGS太陽電池より広禁制帯幅を持つ新しい太陽電池デバイス構造が提案
でき、エネルギー変換効率の向上・高性能化の研究開発の加速が期待できるという。
1.CIGS太陽電池の一種、CuGaSe2太陽電池のヘテロp-n接合の形成メカニズムを解明
2.CuGaSe2の銅欠乏異相層がn型半導体層として働くことを初めて観察
3.CIGS太陽電池の新しいデバイス構造の提案とさらなる研究開発の加速に期待
●研究概要
CuGaSe2はp型半導体であり、安定的なn型化の報告例はまだない。つまりホモp-n接
合の形成は困難であり、太陽電池デバイス作製には硫化カドミウム(CdS)などのバッフ
ァ層(n型半導体)が用いられ、CuGaSe2層とバッファ層とがヘテロp-n接合を形成す
ると考えられてきた。ところが、高い変換効率が得られたCuGaSe2太陽電池デバイスを
電子線誘起電流法により観察したところ、p型CuGaSe2層とn型CdS層の界面にはp-n
接合は形成されず、p型CuGaSe2層表面に存在する銅(Cu)欠乏異相層がn型層として働き、
p-CuGaSe2層とp-n接合を形成していた(上図)。理論的にCuGaSe2のn型化は難しい
とされるが、今回の結果は、CuGaSe2の銅欠乏異相はn型化が可能であり、p-CuGaSe2
とp-n接合が形成できる可能性を示唆している。
また、この銅欠乏異相層には、CuGaSe2層中よりも高濃度のカリウム(K)やナトリウム
(Na)などのアルカリ金属元素が存在することが確認された(下図)。Naは高い変換効率
のCIGS太陽電池には欠かせないドーパントであり、その効果の一つとしてp型伝導性の
向上が知られている。今回の結果から、アルカリ金属元素はp型伝導性制御だけではな
く、より精密なp-n接合の制御を行う上で今後重要な鍵となると期待される。これま
で、CuGaSe2太陽電池の高効率化には、広禁制帯幅材料に適したn型バッファ層材料の
探索が重要とされてきた。しかし、今回の発見はバッファ層だけでなく銅欠乏異相層
がp-n接合形成とその特性制御に利用でき、これを応用したCIGS太陽電池デバイスの
新しい構造設計が可能であることを示唆している。CuGaSe2や広禁制帯幅CIGS太陽電池
の高効率化に向けてこれまでとは異なるアプローチの可能性が示された。
※ 広禁制帯幅
CIGS太陽電池では、構成元素であるインジウム(In)とガリウム(Ga)の組成比を変化させ
ることで、禁制帯幅をCuInSe2の1.0 eV(eV:エレクトロンボルトは禁制帯幅の広さを表
す単位)からCuGaSe2の1.7 eVまで制御できる。現在、CIGS太陽電池ではInとGaの組成
比がおよそ7対3、禁制帯幅にして1.1~1.2 eVで最高効率が得られており、これよりも
広い禁制帯幅のCIGSを広禁制帯幅CIGS、またはワイドギャップCIGSなどと呼ぶことがあ
る。高い変換効率を得るには、理論上約1.4 eVの禁制帯幅が最適とされるが、CIGS太陽
電池では、1.2 eVより広い禁制帯幅では理論通りの高い効率が得られていない。Gaや硫
黄などの含有量を多くして禁制帯幅を広げることができるが、そのような広禁制帯幅
CIGS材料の性能を引き出すデバイス構造を実現することが、さらなる高効率化のために
必要とされている。
●今後展望
今後は、銅欠乏異相層のn型伝導性に関与すると考えられる亜鉛(Zn)やカドミウム(Cd)
などの二価の不純物元素とアルカリ金属元素の相互的な効果や、KとNaの効果の違い、
これに関連する電子状態の解明などを行い、CuGaSe2だけでなく、同様に不明な点が多
かったCIGS太陽電池のp-n接合形成メカニズムの詳細の解明、高効率化に向けたデバ
イス構造の新設計などへの応用を目指す。さらに、製品に近い太陽電池モジュール作製
などにも得られた成果を応用し、広禁制帯幅CIGSを用いた軽くて曲げることも可能なフ
レキシブル太陽電池モジュールの高効率化などにも取り組む予定であるという。
以上、まとめてみると、化合物系半導体太陽電池(CIGS)の最高変換効率は、東芝の社
内評価で20.7%であり、製造方法も液相ドーピング法でローコストにおいても優位であ
るが、産業技術総合研究所のインジムフリー法は 銅欠乏異相層がn型半導体層として
利用(広禁制帯幅CIGS)できるため、変換効率がここ1、2年で20数%を実現できれば
単接合シリコン系太陽電池を総合的に大逆転することになる可能性を秘めている。そう
なれば、国内メーカが世界のメガソーラー市場を席巻する可能性もありうる(プレ・メ
ガソーラー段階)。
けさは、ふたつの変わったことがあった。1つは珍しく短歌が降りてきたのだが、作業
をはじめフィットネスジムに帰っきたころには全く思い出せないということが起きた。
左脳を使いすぎるとこうなるのかと考えていたが、夕食前に短歌研究の雑誌の「勝ちま
けを争ふひとり手をとどめ ほととぎす啼くとつぶやきにけり」に目がとまり、岩田正
の下の文章になるほどこれほどまでの繊細さが働かなければ無理だと腑に落とす。
「ふと」なんていう語は使うべきでない。これは空穂に、ある日ある時言われ
た言葉である。
さしあたって抄出歌に「ふと」を入れて、「勝ちまけを争ふひとりふとも手を
とめてほととぎす啼くとつぶやく」としたらどうだろう。抄出歌の下二句のゆっ
たりした、のびやかな調子はなくなり、「ふとも」によって、やや類型的な心
理的場面の転換になってしまう。つまり「ふと」は、あからさますぎ、また予
定調和の下句呼び、そして韻律の流れを損なうということになりやすい。こ
の歌のよさは、あえて勝負のなんたるかを言わず、将棋とか碁とか、真剣な対
局の緊張を、一つの語一つの動きによって転換させる、その妙味にあるだろう。
もう一つは、ソファイアローズが届いていたことだが、カタログの文句の「150枚分
のローズオイル」という文字が奇妙に印象として残る。こういう数量的表現も左脳思考
故かとも考えたが、夜になると彼女が何故服用するのか尋ねるので、口臭の主因は胃下
垂によるものと仮定して、外的環境としてはルームランニングの強化励行、内部的環境
としてやるんだよと答えると、誰のためと反質するので、語気を強め、それはこの間、
君がいったじゃないかと答えながら2粒目を服用したので今日は三百枚分花びらを口に
入れたことになるね、と。何となく納得していた。