『阿部薫写真集 OUT TO LUNCH』
写真 : 五海ゆうじ
伝説のアルトサックス奏者阿部薫没後35年、初の写真集が発売!
過激なサウンドと生き方で、70年代を駆け抜け、1978年、29歳で夭折した稀代のアルトサックス奏者、阿部薫。どこまでもスピードを追求し、他に類をみないサウンドで70年代日本フリーミュージック・シーンに強烈な傷跡を残した彼の、初の写真集『阿部薫写真集 OUT TO LUNCH』が2013年10月16日、没後35年にして、ついにベールを脱ぐ。初回限定装丁、和英並記、未発表写真多数収録。撮影は、日本のフリージャズシーンに伴走した写真家、五海ゆうじ。
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『INDUSTRIAL MUSIC FOR INDUSTRIAL PEOPLE!!!: 雑音だらけのディスクガイド 511選』
持田 保 (著)
燃え尽きるより、サビつきたい!!!
世界初、ノイズ、インダストリアル専門ディスク・ガイド。
ノイズとマシン・ビートにまみれた厳選盤511枚。
「工場産業従事者のための工業産業音楽」
スロッビング・グリッスルのデビュー作のジャケットに記載されたこのスローガンにより誕生したといわれる
「インダストリアル・ミュージック」。
ポスト・パンクやニュー・ウェイヴの流れの中でも「反音楽」「脱個性」「悪趣味」で一際異彩を放っていたこのジャンルですが、
その(反)音楽性の幅広さ、アーティストの過度なマイナー志向による作品アーカイヴの難しさなどから、
今まで所謂「ディスクガイド」が出版されたことはありませんでした。本書はそこに一石を投じるものです。
入手が容易な作品も、ほぼ入手が不可能な作品も並列に紹介し、
底なしともいえる「インダストリアル・ミュージック」の世界をわかりやすく整理、カタログ化しています。
また、コラムではインダストリアル・ミュージックのトリビアを多数紹介。
著者は長年ディスクユニオンでノイズ/アヴァンギャルドの名物バイヤーとして活躍した持田保氏。
氏の面白すぎる筆致が、本書を単なるディスクガイドとは違う「読んで楽しいインダストリアル/ノイズの本」にしています。
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期を同じくして人間存在の核心に迫るふたつのテーマを持った書籍が出版された。どちらもざっと目を通しただけで詳細なレビューはできないので、個人的な経験を綴るにとどめよう。
フリージャズとノイズの体験はほぼ同じ時期だった。大学に入り通い始めたジャズ喫茶とライヴハウス。ジャズ喫茶でアイラーやオーネットをリクエストしてシカとされながら貪り読んだ一昔前のジャズ雑誌でフリージャズの勉強をし、中途半端な知識を頼りにライヴハウスでサックスを吹きまくった。知り合った同好の士と組んだバンドでフリージャズとノイズのアマルガムを目指した。正確には当時は「ノイズ」という音楽カテゴリーはまだなかったので、「インプロ」と呼ぶべきかもしれない。拠点にしていた吉祥寺ぎゃていのカウンターに10数枚レコードが立てかけてあり、その中に阿部薫・吉沢元治デュオ『北・NORD』というLPがあった。阿部の名前だけは知っていたが音を聴いたことがなく、先に聴いて影響を受けていたピナコテカのNORD『NORD』の元ネタ(ほんとのルーツはセリーヌの小説)でもあり、面白いと借りて帰ったのが最初だと思う。最初の一音で身体中を電撃が走った、というのは嘘で、実はあまり印象がない。なるほどこれが伝説のサックス奏者か、とは思ったが、プレイ自体はその頃テレビタレントとして人気があった坂田明のほうが派手で面白いと思った。
90年代に映画『エンドレスワルツ』で再評価され、鈴木いづみとの壮絶な生き様はシド&ナンシーの日本版としてカルト的な人気を集める。大量の未発表音源を含めCDがリリースされ入手が容易になった。映像も動画サイトで観ることができる。しかし裸のラリーズと同様に、どんなに記録物(音源・動画・写真)があっても根源的な本質は明らかではない。実際に体験しないとわからない、とよく言われるが、実際に阿部を観た人でも「観たのは確かだがよく覚えていない」という証言が少なくない。大音量で空気を塗りつぶすラリーズとは異なり、阿部の身体的小宇宙の情念のわだかまりを吐き出す演奏は、意識レベルが通じ合う少数の人間にしか共有できなかったに違いない。もしくはロックとジャズの違いに過ぎないのか? 阿部を感じるためには聴き手の想像力が試されるのかもしれない。この写真集はLSDと同様にイマジネーション拡張の手引となるだろう。
同じく『北(NORD)』が導いたノイズ/インダストリアルは、80年代当時は「聴く」よりも「演る」ことが圧倒的に多かった。オリジネーターとされるスロッビング・グリッスルは評判の割には退屈で見かけ倒しだと思ったし、輸入盤割引コーナーの主ホワイトハウスはジャケットからして粗悪品っぽくて避けていた。サブカル誌を毎号飾ったハナタラシの物騒なライヴには嫌悪感しか覚えず、本当に足を切断して死んじまえばいいと思った。当時はレジデンツの幼児にも判る諧謔性と、灰野敬二の孤独な暗黒と、19(JUKE)の革新(確信・核心)的即物性と、非常階段の出口のない混沌以外は必要なかった。
90年代に耽溺したサイケ・レア盤蒐集の旅の果てに辿り着いた21世紀頭のノルウェー・オスロのレコード市。欧州ジャズとユーロプログレの宝庫が並ぶ中、パンク/ニューウェイヴ・ブースで掘ったレコ10数枚の値段は五桁半ばの高値。そんなにレア盤はないはずと確認すると、馴染みの殺人鬼ジャケが数万円とのこと。かつて3枚1000円でも売れなかったレコが激レアとは!それがきっかけで愛好家根性に火が付き、久しく触れなかった80'sを探す日々に突入。『ノイズ・ウォー』と『電子雑音』を頼りにノイズ・アヴァンギャルド・セールに朝から並び争奪戦に参戦。90年代ノイズバブルの名残で未だ値段は高かったが、数万円のブツも躊躇いなく購入。ネット・オークションで入札合戦に熱が入り過ぎて市場価格の何倍の値段に吊り上り何度か後悔したが、落札できず悔しい思いをした回数のほうが多い。
数年前に熱は冷めたが、こうして一冊のガイドブックを手にすると喩えようのない感慨に浸る。有名どころは勿論、B級C級含め体系的に総括した書籍は嬉しい。ざっと読んだところでは著者の主観と思い入れが強い文章に好感が持てる。何よりも持田自身がリアル・インダストリアル・ワーカーであることが本書の説得力を高めている。この本を頼りにレコ屋やオークションでプレミア盤を買いまくり、経済的危機に陥りインダストリアル・ワーカー化する若者が現れるかもしれない。それはそれでノイジーで善き哉。
★参考ブログ記事
・自由な音の記憶:フリージャズの復習~基本のキのオリジネーターたち⇒コチラ
・自由な音の記憶 Vol.4:工業人間のための工業音楽~インダストリアル・ミュージックのおさらい⇒コチラ
若者よ
過去の遺産に
最敬礼
アーカイヴ化の波はこの先どこへ向かうのだろう。