A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

The Futuristic Sounds Of Mahina~和田弘とマヒナスターズとサン・ラ・アーケストラのただならぬ関係

2021年01月13日 00時57分21秒 | こんな音楽も聴くんです


日本のハワイアン、ムード歌謡の第一人者、和田弘とマヒナスターズ(Wada Hiroshi & His Mahina Stars)は1954年に結成され、1957年にムード歌謡としてデビューした。マヒナとはハワイ語で「月」を意味する。同じ1957年にアメリカのジャズ・ピアニスト、サン・ラが『Jazz By Sun Ra Vol. 1』でTransitionレーベルからデビューした年である(のちに『Sun Song』としてDelmarkレーベルから再発された)。「月」のマヒナと「太陽」のサン・ラが同じ年に地上に登場したという事実に驚く人も多いかもしれない。そういえばステージ左側にメンバーから離れてスチールギターを弾く和田弘の姿が、下手のピアノからアーケストラのメンバーに指示を出すサン・ラのように見えてこないだろうか。





川越のレレノレコードの10円箱からサルベージした『和田弘とマヒナスターズ 結成10周年記念リサイタル』は、ブックレット+ソノシート4枚組のミュージックブック。ブックレットの新聞評からリサイタルは12月9日東京大手町のサンケイホールだと分かるが、よくある事だが録音年がどこにも書かれていない。結成10周年というからには1964年だったと考えられる。マヒナスターズのメンバーは、和田弘(リーダー、スチールギター)、松平直樹(テノール&ウクレレ)、三原さと志(バリトン、マラカス)、佐々木貫一(テノール、ファルセット、ウクレレ)、山田哲也(バリトン、ベース)、日高利昭(バス、ギター)。収録曲は「好きだった」「男なら」「菊千代と申します」「泣きぼくろ」「民謡メドレー:こちゃえ節/さのさ/新土佐節/南国土佐を後にして」「夜霧のエアーターミナル」「泣かないで」「グッドナイト」の全11曲。佐々木のファルセットが女性ヴォーカルのように聞こえるので、最初に聴いたとき美人歌手がゲスト参加しているのかと思ってジャケ写を何度も見直してしまった。物悲しいスチールギターに垢ぬけないコーラスが乗るサウンドは、ハワイというより高知県の寂れた海水浴場で遊んだ子供時代が目に浮かぶレトロフューチャー感がある。ちなみに筆者は生まれてこの方、四国に足を踏み入れたことはない。



スタンダードなハワイアンや流行歌や民謡をミックスしてコーラス・スタイルでヒットさせたマヒナの革新性は、後の演歌コーラスやラグジュアリー歌謡に大きな影響を与えた。その意味でもスウィング/バップをベースにエキゾティシズム、R&B、ドゥーワップ、さらにフリージャズや電子音楽まで取り入れたサン・ラの革新性に通じるものがある。2004年に和田が急死したあとに、メンバーの松平が中心となって活動を続けたのは、もしかしたら1993年にサン・ラが没したあと、マーシャル・アレンがリーダーとして活動するサン・ラ・アーケストラにヒントを得たのかもしれない。

和田 弘とマヒナスターズ 泣かないで/惚れたって駄目よ/お百度こいさん 昭和歌謡


マヒナのレコードの数は、さすがにサン・ラのリリース数に及ぶべくもないが、下記のディスコグラフィ(Wikipediaから転載)を見るとなかなか集め甲斐がありそうなコレクションである。

ビクターレコード
泣かないで/渚のバラード(1958年8月、VS-117)
夜霧の空の終着港(エアーターミナル)/忘られぬ唇(1959年1月、VS-174)
潮来船頭さん/伊豆の湯けむり(1959年5月、VS-215)
泣けるうちゃいいさ/俺の東京が消えてゆく(1959年4月、VS-216)
好きだった/ロマンス・タイム(1959年、VS-218)
グッド・ナイト(松尾和子とのデュエット)(1959年7月、VS-232)
回り道(今日は遅くなってもいいの)/恋心(1959年8月、VS-)
思い出があるじゃないか/たった一人のアパート(1959年、VS-258)
風のある道(1959年、VS-262)- 片面は朝倉ユリの「夜霧のヘッドライト」
おけさの島よさようなら/雪国の女(1959年、VS-264)
誰よりも君を愛す(松尾和子とのデュエット)(1959年12月、VS-282)
夜がわるい(松尾和子とのデュエット)/街の噂も65日(1960年2月、VS-289)
憎い人(市丸とのデュエット)(1960年1月)
お百度こいさん/バラと野郎たち(1960年5月、VS-326)
夜の招待(フランク永井、松尾和子参加)(1960年5月、VS-332)
小さな想い出(1960年9月、VS-380)
とってもたのしくしてあげましょう(松尾和子とのデュエット)(1960年、VS-427)
惚れたって駄目ヨ(1961年5月、VS-505)
北上夜曲(多摩幸子とのデュエット)(1961年6月)
春の名残り(多摩幸子とのデュエット)/北帰行(1961年11月、VS-592)
色は匂へど(1962年1月、VS-622)
夜の子守唄/惜別(1962年3月、VS-676)
寒い朝(吉永小百合とのデュエット)(1962年4月、VS-681)
悲しき汽車ポッポ(1962年5月、VS-722)
小さな町でも(山中みゆきとのデュエット)(1962年)
山の男で暮すのさ(1962年12月、VS-870)
虹子の夢(吉永小百合とのデュエット)(1963年、VS-890)
ふられ上手にほれ上手(三沢あけみとのデュエット)(1963年2月、VS-906)
恋の門前仲町(1963年、VS-936)
男ならやってみな(1963年、VS-958)
帰りの港/ながし舟唄(1963年5月、VS-982)
島のブルース(三沢あけみとのデュエット)/長崎慕情(1963年4月、VS-998)
どうせやくざで(1963年、VS-1098)
泣きぼくろ(1963年9月、VS-1104)
つみな奴だよ(1963年10月、VS-1134)
目を閉じて/夜霧の街をひとりゆく(1964年4月、SV-18)
ウナ・セラ・ディ東京/流れるままに(1964年6月、SV-24)
お座敷小唄(松尾和子とのデュエット)/マヒナのさのさ(1964年8月、SV-77)
手紙/夜の煉瓦道(1964年、SV-108)
愛してはいけない/別離の詩(1964年11月、SV-116)
可愛いいあの娘/亡き君を想う歌(1964年、SV-154)
ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー(雨の夜の東京)/夏の日の想い出(1965年2月、SV-162)
続お座敷小唄(松尾和子とのデュエット)/新土佐節(1965年4月、SV-205)
てるてる坊主泣かないで(冨士綾子参加)(1965年、SV-208)
愛して愛して愛しちゃったのよ(田代美代子とのデュエット)/泣き曜日(1965年6月、SV-237)
涙くんさよなら/リンデンバウムの歌(1965年12月、SV-322)
女の恋ははかなくて/赤坂の夜は更けて(1965年9月、SV-288)
サヨナラ札幌((松平直樹参加)/愛の悲しみ(1966年1月、SV-350)
ここがいいのよ(松平直樹、田代美代子参加)/ムーン・ドリーム(佐々木貫一参加)(1966年、SV-383)
銀座ブルース(松平直樹、松尾和子参加)/東京の夜は楽し(三原さと志参加)(1966年5月、ビクターレコード、SV-386)
涙と雨にぬれて(松平直樹、田代美代子参加)/オータムイン東京(1966年10月、SV-462)
キッスをあなたに(1966年)
泣くな片妻/女の酒(1967年4月、SV-546)

東芝音楽工業
北国は寒いだろう/別れても愛してる(1967年3月10日、TP-1435)
女っぽいね/三百六十五人の恋人(1967年3月10日、TP-1436)
あの娘に逢いたい/夕映えの渚(1967年5月15日、TP-1472)
男の夜曲/憎い人だよ(1967年6月21日、TP-1500)
愛しているよいつまでも/さいはての湖(1967年8月5日、TP-1503)
中州ブルース/片想い(1967年10月15日、TP-1550)
先斗町小唄/慕情のワルツ(1967年、TP-1560)
あなたのうわさ/恋の銀座村(1967年12月25日、TP-1575)
鍵/二人だけの夜(1968年4月1日、TP-2004)
花化粧/哀愁の夜(1968年7月10日、TP-2037)
死ぬまであなたと(1969年2月10日、TP-2***)
我が恋の旅路/恋の絆(1969年4月10日、TP-2146)
ブルー・ナイト・イン・札幌/渚のバラード(1969年9月5日、TP-2170)
私って駄目な女ね/雨に濡れたギター(1968年9月21日、TP-2070)
博多の夜/ぎんざ雨(1969年10月1日、TP-2199)
待たされて/雨に濡れて(1970年3月5日、TP-2252)
愛はイロいろ/月の砂浜(1970年8月5日、TP-2315)
ほんとなんだぜ/うぬぼれ女の恋物語(1971年3月5日、TP-2389)
ブルー・ナイト・イン・札幌/ワン・レイニー・ナイト・イン・東京(1971年9月5日、TP-2510)
赤坂の女/ほんとかナ?(1972年9月5日、TP-2738)
迎えに来たよ/大阪物語(1973年6月5日、TP-2849)

沖縄煙草産業
でいご音頭(ソノシート)

キングレコード
愛のふれあい(三島敏夫参加、沢ひろしとTOKYO99のカバー)/女心の唄(バーブ佐竹のカバー)(1974年、BS-1876)
ゆうわく(ローレン中野とのデュエット)/しゃれた関係(1976年、GK-11)

方やムード歌謡、方やジャズ、日米文化の伝統を継承する音楽ジャンルの最古参として今なお活動を続けるマヒナとサン・ラ・アーケストラが共演する日を夢見ながら、ソノシートに針を下すとしよう。

マヒナから
サン・ラへ至る
革新の道

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