A Challenge To Fate

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【私のポストパンク禁断症状#14】『ブルー&イエロー』と『裏切り』は冷えた熱=ディス・ヒートから人類への最後の警告なのか?

2022年03月11日 01時07分19秒 | 素晴らしき変態音楽


青と黄色のウクライナの国旗を見て、ふなっしーやミニオンズやTカードを思い出す人がいるようだ。しかし筆者を含む心あるロックファンが思い浮かべるのはディス・ヒートのデビュー・アルバム、通称『ブルー&イエロー』に違いない。

ウクライナの青と黄の2色の旗は「独立ウクライナの旗」とよばれ、青色は空、黄色は小麦を表すという説と、青色は水、黄色は火という説がある。
起源は13世紀のガーリチ・ボルイニ公国の旗にあるという。1917年、第一次世界大戦中に起きたロシア革命による帝政崩壊をきっかけに樹立した「ウクライナ人民共和国」が現在のウクライナ国旗の色を上下逆にした旗を国旗とした。その後ソビエト連邦の共和国になり国旗も変わったが、1991年のソ連解体に伴い独立を宣言し、国名をウクライナと改め、1992年1月28日に現在の国旗が制定された。

ディス・ヒートが青と黄色を使ったのは1976年後半に作成した最初のデモテープだった。ラジオ局やレコード会社に積み上げられたカセットテープの山の中でもすぐ目立つようにと、ガレスが撮影したブルー&イエローの写真をカセットケースに貼ったという。それが功を奏してBBCの名物DJジョン・ピールの耳にとまり、1977年に彼の番組「ジョン・ピール・ショー」出演のチャンスをものにした。その写真がゆっくり自然に発展してデビュー・アルバム『This Heat』、通称『ブルー&イエロー』のジャケットになった。
「写真は原始宗教的なものになった。小宇宙的にファースト・アルバムの音楽と一体だった。音楽がヴィニール盤に結実したのと同じように写真がジャケットに結実したんだ。」(チャールズ・ヘイワード)

マニュフェストによると、ディス・ヒートにとっての『ブルー&イエロー』とは、

導火紙と臆病者
煙とコーンフレーク
鉛筆とバター
傷と金
悲しいと太陽
ジャガイモとプレス
青空法とカスタード
印刷物とバナナ
空とカナリア
テレビと膿
パトカーと豊潤な
保守と歯
ジョニ・ミッチェルと黄疸
血と硫黄
映画と熱 
インクとトウモロコシ畑
鈴と砂
スエードシューズと費用対効果
リンスと熱
ヒゲと危険

blue and yellow like:
torch paper and cowardice
smoke and cornflakes
pencil and butter
bruise and gold
sad and sun
potato and press
skylaws and custard
print and bananas
sky and canary
television and pus
police car and mellow
conservative and teeth
joni mitchell and jaundice
blood and sulphur
movie and fever
ink and cornfield
bell and sand
suede shoes and cost effective
rinse and fever
beard and peril

似て非なるものでありながら、何処かで繋がっているようでいて全くの別次元に存在するような、意味がありそうで無さそうな無意味の意味の問いかけは、あたかも冷凍庫の中で熱を発する冷徹なサウンドの温度を言語化しているように思えないだろうか。

●ディス・ヒート This Heat(1979)


ディス・ヒートは1976年にチャールズ・バレン (ギター)、ガレス・ウィリアムズ (ベース)、チャールズ・ヘイワード (ドラムス)により結成された。メンバーの自宅やレコーディング・スタジオの空き時間を使って実験を繰り返しながらレコーディングし、2年かけてアルバムが完成。リリースはさらに1年後の1979年、印象的なブルー&イエローのアートワークで登場した。チャールズ・ヘイワードが、フィル・マンザネラ(ロキシー・ミュージック)率いるプログレバンド、クワイエット・サンのメンバーだったことから、日本ではマニアックなプログレファンに注目され、特に雑誌『Fool's Mate』では早くから紹介された。ヘンリー・カウやレコメン系アヴァンロック、スロッビング・グリッスルやレジデンツといったポストパンクと並んで難解な文章と荒れたモノクロのポートレートで飾られた記事は、英国の地下で育まれた未知の前衛芸術の最前衛との邂逅だった。しかし当時はヨーロッパからの輸入盤は3500円くらいの高値で売られており、貧乏学生には高嶺の花で、聴くことすら出来なかった。



実際に音を聴いたのは1983年に日本盤が出てからだった。先に聴いた『偽り』の過激なロックサウンドを気に入っていたので、無機的な実験音楽中心の『ブルー&イエロー』はあまりピンとこなかった。正直なところ、現代音楽や電子音楽を聴くようになった数年前になってやっと、このアルバムの先駆性や衝撃を理解できるようになった。

●偽り Deceit(1981)


12インチEP『Health And Efficiency』(80)を挟んでリリースされた2ndにしてラスト・アルバム。ガレスによるコラージュ写真のジャケットは1stとはニュアンスは異なるが、ロックアルバムらしくてカッコイイ。前作に比べてバンドっぽいサウンドになり、曲の展開が分かりやすくて、当時の筆者にとってはザ・ポップ・グループの2ndやキリング・ジョークの2ndと並ぶオルタナティヴ・ロックのフェイヴァリット・アルバムだった。ラーメン屋のチャルメラのメロディを取り入れた「被爆症」という曲もあり、社会的・政治的メッセージが籠められているように思えた。



このアルバムを出した翌年82年にディス・ヒートは解散。その後未発表曲やライヴ音源を集めたアルバムが数枚リリースされたが、筆者にとっては資料的な価値しか感じられない。ディス・ヒートの熱が籠った作品は『ブルー&イエロー』と『偽り』、そして『Health And Efficiency(健康と能率)』だと思っている。

冷えた熱
戦闘地帯へ
届けたい

コメント
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