●藤井郷子トビラ『ヤミヨニカラス』
NYでジャズの前衛を追求するピアノ女子界の先鋭、藤井郷子は今年5月に3枚のアルバム同時発売という快挙(暴挙)を成し遂げた。90年代に登場し、様々なユニットやプロジェクトを先導し、単なるピアニストと云うよりオーガナイザーとして認められる藤井らしく、12人編成の藤井郷子 Orchestra Berlin、2トランペットのKAZE、そして藤井郷子 New Trio(with トッド・ニコルソン、井谷享志)に夫の田村夏樹を加えた藤井郷子トビラである。中でもトビラに於けるピアノプレイとアンサンブルのバランスの妙は、25年に亘る演奏家人生の一里塚(Milestone)といえよう。それが闇夜に烏と云うのも気が利いている。
⇒藤井郷子公式サイト
●KOH『Seneca』
2005年に藤井のプロデュースでアルバム・デビューしたピアノ女子、航 KOHこと大寺航もNYの即興演奏家との共演で3rdアルバム[Seneca』をリリースした。藤井が器楽演奏に拘るのに対して、KOHは声と言葉をもうひとつの餌として大胆に音楽の欠食児童を餌付けする。鍵盤の上を華麗に流れる指先と、言葉遊びが過ぎる破調の歌声とが、ひとつの魂と身体に共生する有様は、母性を持って生まれた者ならではの包容力に満ちている。
⇒航 KOH公式サイト
●sara『Tincture』
大阪の即興ユニット.es(ドットエス)のsaraが、音楽を媒介にして未知の世界に旅立った。橋本孝之の破調のサックスを、異次元の闇から包み込む情熱的なピアニズムは、お釈迦様の手のひらのように、どこまで行っても果てがない。初のソロ名義のアルバムは、佐谷記世(cello)、河端一(Acid Mothers Temple / guitar)、ユン・ツボタジ(EP-4 / perc)、橋本孝之(.es /sax)の4人を迎えてのデュオ対決。どんな相手だろうと、全く動じず受けて立つ長い髪の揺れ方は、母なる大地の実在の証しである。時折揺れ過ぎて大地震を起こすので要注意。
⇒.es公式サイト
●魚返明未『STEEP SLOPE』
ピアノ女子ならもてはやされるが、男子だったらどうだろう。その命題に終止符を打つべく登場した24歳の童顔の芸大生・魚返明未(おがえり・あみ)のデビュー作。異端性を持つ音楽ではないが、新人に求められがちなスタンダードでは無く、5曲すべてが自己のオリジナル曲と云うところに、静かに燃える心の炎の熱を感じる。若さ故の向こう見ずな暴走を極力抑えた、あくまで美しい音色と流麗な旋律へこだわる潔さは、逆説的に極限への挑戦と言えるだろう。美への陶酔感をどこまで突き詰めることが出来るか、行く末楽しみな青年である。
⇒魚返明未公式ブログ
ピラニアの
ピアニズム
ラザニアの
チラリズム
●ザ・バッド・プラス『ザ・バッド・プラス ジョシュア・レッドマン』
海外に目を移すと、ロックバンドのエナジーを、スタンダードから12インチ離れたスタンスで表出するオルタナ・ピアノ・トリオの新機軸が詳らかにされた。コラボ相手に、オーネット・コールマン・グループで名を馳せたテナー奏者デューイ・レッドマンの息子ジョシュア・レッドマン(ts)を迎え、例によって爆発しそうでしない(筆者にとっては)歯がゆく、(筆者にとっては)物足りなく、(筆者にとっては)何故か目が離せない、不可解な魅力をたたえている。ジャケットの素っ気なさはいつも以上に味気なくてグッド。人気の違いで「ジョシュア・レッドマン=ザ・バッド・プラス」とアーティスト表記が逆転するのが島国根性。
⇒The Bad Plus公式サイト
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⇒The Bad Plus@ブルーノート東京 2008.2.20(wed)
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