針外し/爺さんの独り言。役にたたない情報ばかり。

自作のスピナーベイトで今日もバスを釣るぞ!。人はそれを「G」と呼ぶ。爺さんの「G(ジー)」の意味だった。ガクン!。

杜甫の登高

2021-11-07 19:34:45 | 漢詩・古典・エトセトラ

杜甫の詩でもう一つ有名な詩が登高です。

  登 高(とうこう) 杜甫

 風急天高猿嘯哀 風急に天高くして猿嘯哀し
(高台に登ると)風は激しく吹き、天は抜けるように高く(澄んでおり)、(そんな中)猿の鳴き声が悲しそうに聞こえる。

 渚清沙白鳥飛廻 渚清く沙白くして鳥飛び廻る
なぎさきよく すなしろくして とりとびめぐる
(見下ろすと揚子江の)波打ち際は清らかで、砂は白く、(その上を)鳥が飛び回っている。

 無辺落木蕭蕭下 無辺の落木蕭蕭として下り
むへんのらくぼく しょうしょうとしてくだり
果てしなく続く木からは葉がさびしく落ち、

 不盡長江滾滾来 不尽の長江袞袞として来たる
ふじんのちょうこう こんこんとしてきたる
尽きることのない揚子江の水は、盛んに流れてくる。

 万里悲秋常作客 万里悲秋常に客と作り
ばんりひしゅう つねにかくとなり
(故郷から)遠く離れた土地で物悲しい秋を迎え、(私は)相も変わらぬ流浪の身の旅人であり、

 百年多病独登台 百年多病独り台に登る
ひゃくねんたびょう ひとりだいにのぼる
一生多病である身で(この重陽の節句に)一人高台に登っているのである。

 艱難苦恨繁霜鬢 艱難苦だ恨む繁霜の鬢
かんなん はなはだうらむ はんそうのび
とても恨めしく思う、(長年の)悩みや苦しみで霜のように髪の毛が白くなってしまったことを。

 潦倒新停濁酒杯 潦倒新たに停む濁酒の杯
ろうとう あらたにとどむ だくしゅのはい
年老いて落ちぶれ(たこの私は)、(病のために、楽しみであった)濁り酒もやめたばかりである。
 律詩のルールでは2聯3聯で対句にすることになっていますが、この詩は全聯すべて、つまり1句と2句、3句と4句、5句と6句、7句と8句すべてが対句になっています。

「哀、廻、飛、来、台、杯」。韻を踏んでいます。

■登高 九月九日の重陽の節句に高台に上って菊酒を飲んで邪気払いをする習慣のことです。 ■猿嘯 サルの鳴き声。 ■無辺 果てしない。 ■落木 落葉。 ■蕭蕭 さびしげな様子。 ■滾滾 こんこん。水が流れ続ける様子。 ■客 旅人。 ■艱難 苦労。 ■繁霜鬢 霜のように白くなった鬢。 ■潦倒 ろうとう。老いぼれ。落ちぶれたさま。 ■濁酒 濁り酒。どぶろく。 

大暦2年(767年)、杜甫56歳の作。故郷を目指す途中、キ州(四川省奉節県)に滞在した杜甫は重陽の節句を迎えました。九月九日重陽の節句には高台に上り菊酒を飲んで邪気払いをする習慣がありました。

しかし、杜甫には一緒にこの日を祝う相手もなく、独り老年の孤独の中に高台に登るのです。晩年の孤独が、しみじみと伝わってくる詩です。

本来律詩は顎聯と頸聯のみ対句であればいいのですが、この詩は四聯すべてを対句にしています。こういうのを全対格(ぜんついかく)といいます。しかしわざとらしさは感じられず、自然な言葉の流れの中に杜甫の深い孤独が伝わってきます。

コメント
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