「不思議の国・沖縄と芹沢けい介」 静岡市立芹沢けい介美術館 9/2

静岡市立芹沢けい介美術館静岡市駿河区登呂5-10-5
「不思議の国・沖縄と芹沢けい介」
6/10-9/3(会期終了)



染色工芸家、芹沢けい(金へんに圭)介(1895-1984)と、沖縄の染め物、つまり紅型との関係を概観する展覧会です。芹沢は紅型に深く感銘し、自身の制作の基盤として終生尊重し続けました。紅型に由来する鮮やかな色彩と、芹沢の洒落たデザインのコラボレーション。紅型を含む約90点の芹沢作品と、彼の蒐集した沖縄の工芸品が60点ほど並びます。見応え十分でした。

芹沢が初めて沖縄へ渡ったのは1939年のことです。その際、約2ヶ月間ほど滞在して紅型の技を習得しました。そして彼は、紅型だけではなく沖縄の風土そのものを愛します。その後も、何度となく沖縄へ向かい、芹沢風紅型とも言うべき染め物を制作し続けました。私は紅型を、また芹沢の作品をまとめて見るのは初めてですが、どれも沖縄の眩しい光を感じさせるような鮮やかな色彩が印象的です。まずはその色に惹かれます。



「那覇大市」(1940年頃)の美しさは格別です。真っ白い生地の上へ色鮮やかに描かれていたのは、賑わう那覇の市場の様子でした。まるで燃えるように赤い屋根と、その下に並んだカラフルな布地や器。売り物でしょうか。頭に荷物を載せた人々がのんびりと行き交います。そして大きな傘の下に食べ物を並べる人たち。赤、青、黄色、緑の色の響宴。どれもまるで万華鏡のようにキラキラと輝いています。また、所々、抽象デザインのように配された葉っぱの表現にも注目です。芹沢のシャープなデザイン感覚が冴えています。





賑わう沖縄の市場から、さらにその文物を取り出して描いたような作品が「沖縄みやげ二曲屏風」(1971)です。ここでは、それこそ「那覇大市」の店頭に並んでいたような布地が大きく表現されています。また、制作年代は逆行しますが、「那覇大市」で行き交う人々をクローズアップしたような「沖縄三人女」(1939)も魅力的でした。盆や布地を器用に頭へ載せた女性が二人。杖をついた老人とともに連なって歩いています。前からそれぞれ、赤、緑、黄色の明快なグラデーションを描き、さらには皆、同じ図柄の服を着せて全体の統一感を図っている。素朴な光景が微笑ましくも感じられる作品です。

 

芹沢作品の魅力の一つに、まず今見たようなカラフルな色の面白さを挙げることが出来ますが、その一方で色のない、つまり黒だけで描かれた作品にも味わい深いものが感じられます。その一例が、この「壷屋窯開六人女」(1940年頃)です。一番左上の女性は窯を覗き込んでいるのでしょうか。それから順に、窯を頭の上へ載せて運んだり、手に持っている女性が描かれています。木版画、または切り絵を見ているような感覚です。また「沖縄風物」(1939)も黒が目立ちます。中央に描かれているのはこれまた沖縄の市場の光景でしょう。そしてそれを取り囲んだ12個の沖縄の文物。四角と円が対比されています。まるで曼荼羅のように見えました。

芹沢の創作史を紹介するビデオも優れています。彼の作品の変遷などについて簡単に解説する内容ですが、音楽にもじっくりと耳を傾けて下さい。担当が現代作曲家の間宮芳生です。これは外せません。(このビデオは企画展の内容に関わらず、常に同じものが放映されていると思います。)

この企画展は既に先日終了してしまいましたが、芹沢けい介の作品は、千葉県柏市にある「柏市立砂川美術工芸館」でも多く拝見出来るようです。灯台下暗しとはまさにこのことでしょう。近場でしたがノーチェックでした。今度行ってみたいと思います。(また静岡でも、今、「静岡アートギャラリー」にて「芹沢けい介の生活デザイン」展が開催されています。こちらは今月24日までの開催です。)

先日のエントリでもご紹介した白井晟一の建物と合わせて、芹沢作品の魅力を存分に楽しめました。東名静岡インターからも近い(インターより車で10分弱。)ので、車でそちら方面へお出かけの際には立ち寄ってみても良いのではないでしょうか。おすすめです。

*関連エントリ
「静岡市内美術館巡り 2006」 その2『芹沢けい介美術館』+『登呂遺跡』
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