都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「ラファエル前派展」 森アーツセンターギャラリー
森アーツセンターギャラリー
「ラファエル前派展 英国ヴィクトリア朝絵画の夢」
1/25-4/6

森アーツセンターギャラリーで開催中の「ラファエル前派展 英国ヴィクトリア朝絵画の夢」を見て来ました。
1848年、7名の若い芸術家によって結成された「ラファエル前派兄弟団」。ラファエロを規範とする当時のアカデミズムに反発。それ以前の初期ルネサンスに理想を掲げての芸術活動。紆余曲折、時に社会の批判を浴びながらも、結果的にはイギリスの近代美術に大きな足跡を残した。

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ「見よ、我は主のはしためなり(受胎告知)」1849-50年 油彩・カンヴァス テート美術館
具体的にはミレイにロセッティにハント。さらに第二世代としてのモリスにバーン=ジョーンズ。今でも人気の画家たちです。ここにテート美術館所蔵のラファエル前派コレクションがやって来ました。
展示の構成は描かれたテーマ別。歴史に宗教に風景に近代生活。そして後半はラファエル前派の変容、言わば純然たる美を表現しようとした試みから象徴主義への流れを辿る。全72点です。またテートにはじまり、ワシントン・ナショナル・ギャラリー、プーシキン美術館と廻って来た国際巡回展でもあります。
それではいくつかの作品を挙げてみます。まずはアーサー・ヒューズの「4月の恋」。兄弟団のメンバーではなかったものの、その周囲にいたという画家。美しいのは紫色を帯びた青いロングドレス。それが鬱蒼としたヒルガオの緑と呼応する。モデルは妻であるトライフィーナ。作品は当時、学生であったモリスが買い上げたそうです。

ジョン・エヴァレット・ミレイ「オフィーリア」1851-52年 油彩・カンヴァス テート美術館
「オフィーリア」もお出ましです。東京では2008年の文化村のミレイ展以来のことでしょうか。お馴染みのハムレットにおけるヒロインの入水の場面。何度見ても美しい作品は美しいわけですが、今回改めて感心したのは彼女を取り巻く草花の表現。よく指摘されるようにミレイは一時、ロンドンを離れてまでして草花の写生に勤しみます。詩的霊感と自然への眼差し。また左上には彼女を見つめるコマドリの姿も。受難の象徴なのでしょうか。
ウォリスの「チャタートン」も目を引きます。僅か17歳で息を引き取ったという詩人。だらりと手を垂らしてベットに横たわる。ブロンズの髪はまだ若々しい。鑑賞者はそれこそ死の第一発見者となる。まるで舞台を前にしたかのようにドラマテックですらあります。
ミレイでは「両親の家のキリスト(大工の仕事場)」も興味深いもの。当然ながら描かれているのは聖書の主題。しかしながら聖家族をあまりにも風俗的に表したことから、大変な非難を浴びたとか。ラファエル前派の半ば革新性を伺える作品と言えるかもしれません。
最も惹かれたのがジョン・ロッダム・スペンサー・スタンホープの「過去の追想」です。何と言っても印象深いのはどこか物憂げな表情で佇む女性。長い髪を右手で引っ張るように透く。窓からは小舟の停泊するテムズ。よく見ると空には黒い雲も。工場の煙でしょうか。女性は娼婦です。割れたガラスに破れたカーテン。それにしても狭そうな室内。貧困から抜け出せるのか。枯れかけの鉢植えに床へ散る花が彼女の行方を暗示するかのようです。
ミレイの「安息の谷間」はどうでしょうか。夕焼けにそまる墓場の景色。一人の尼が墓を掘り、もう一人が両手を前にして墓石に座る。「死」の気配が全体を支配する作品ではありますが、不思議と風俗的でかつリアル、どこか身近な光景に映るのも興味深いところ。こちらを向く尼の目線にも引込まれます。

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ「ベアタ・ベアトリクス」1864-70年 油彩・カンヴァス テート美術館
それにしても美しき女性ばかり。いずれも実在のモデル。リジーにジェインにアニー。画家と深い関係を持ち、時に複雑な人間ドラマを展開した女性たちです。その辺りについては会場内の「人間相関図」で知ることが出来ます。ただ展示自体は先にも触れたようにテーマ、モチーフ別での構成です。いわゆる画家の個性や生き様云々よりも、作品自体を見比べることに重点の置かれた展示と言えるかもしれません。

ウィリアム・ダイス「ペグウェル・ベイ、ケント州」1858-60年 油彩・カンヴァス テート美術館
ラファエロ前派のグループとしての活動は僅か数年で終えてしまいます。短い期間に画家たちがどのような表現を志向したのか。結成期から60年代頃までの約20年間にスポットを当てての企画。そういう意味では密度の濃い展示という印象を受けました。

ウィリアム・ホルマン・ハント「良心の目覚め」1853-54年 油彩・カンヴァス テート美術館
要所には大作が構えていますが、小品も目立ちます。もちろん個人差はあるかもしれませんが、私は意外と早く見終えました。しかしながら考えれば本展は2つに1つと言って良いもの。「ザ・ビューティフル」です。ラファエル前派に引き続き、三菱一号館では英国の唯美主義に関する展覧会が行われています。

「ザ・ビューティフルー英国の唯美主義1860~1900」@三菱一号館美術館(1/30~5/6)
そもそも唯美主義はロセッティやバーン=ジョーンズらも参加した芸術運動。時代もラファエル前派から僅かに下った頃です。深い関係があるのは言うまでもありません。
六本木から丸の内へ。一号館の「ザ・ビューティフル」もあわせて見に行きたいと思います。

ウィリアム・モリス「麗しのイズー」1856-58年 油彩・カンヴァス テート美術館
会期一週目の日曜だったからでしょうか。館内はまだ余裕がありました。ただ追って混雑してくるのではないでしょうか。なお公式のツイッターアカウント(@prb_konzatsu)では混雑情報をリアルタイムで更新しています。そちらも参考になりそうです。
「美術手帖3月号増刊 ラファエル前派 19世紀イギリスの美術革命/美術出版社」
4月6日まで開催されています。
「ラファエル前派展 英国ヴィクトリア朝絵画の夢」 森アーツセンターギャラリー
会期:1月25日(土)~4月6日(日)
休館:会期中無休
時間:10:00~20:00(1月、2月の火曜日は17時まで。)入館は閉館時間の30分前まで。
料金:一般1500(1300)円、大学生1200(1000)円、4歳~中学生500(400)円。
*( )内は15名以上の団体料金
住所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅1C出口徒歩5分(コンコースにて直結)。都営地下鉄大江戸線六本木駅3出口徒歩7分。
「ラファエル前派展 英国ヴィクトリア朝絵画の夢」
1/25-4/6

森アーツセンターギャラリーで開催中の「ラファエル前派展 英国ヴィクトリア朝絵画の夢」を見て来ました。
1848年、7名の若い芸術家によって結成された「ラファエル前派兄弟団」。ラファエロを規範とする当時のアカデミズムに反発。それ以前の初期ルネサンスに理想を掲げての芸術活動。紆余曲折、時に社会の批判を浴びながらも、結果的にはイギリスの近代美術に大きな足跡を残した。

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ「見よ、我は主のはしためなり(受胎告知)」1849-50年 油彩・カンヴァス テート美術館
具体的にはミレイにロセッティにハント。さらに第二世代としてのモリスにバーン=ジョーンズ。今でも人気の画家たちです。ここにテート美術館所蔵のラファエル前派コレクションがやって来ました。
展示の構成は描かれたテーマ別。歴史に宗教に風景に近代生活。そして後半はラファエル前派の変容、言わば純然たる美を表現しようとした試みから象徴主義への流れを辿る。全72点です。またテートにはじまり、ワシントン・ナショナル・ギャラリー、プーシキン美術館と廻って来た国際巡回展でもあります。
それではいくつかの作品を挙げてみます。まずはアーサー・ヒューズの「4月の恋」。兄弟団のメンバーではなかったものの、その周囲にいたという画家。美しいのは紫色を帯びた青いロングドレス。それが鬱蒼としたヒルガオの緑と呼応する。モデルは妻であるトライフィーナ。作品は当時、学生であったモリスが買い上げたそうです。

ジョン・エヴァレット・ミレイ「オフィーリア」1851-52年 油彩・カンヴァス テート美術館
「オフィーリア」もお出ましです。東京では2008年の文化村のミレイ展以来のことでしょうか。お馴染みのハムレットにおけるヒロインの入水の場面。何度見ても美しい作品は美しいわけですが、今回改めて感心したのは彼女を取り巻く草花の表現。よく指摘されるようにミレイは一時、ロンドンを離れてまでして草花の写生に勤しみます。詩的霊感と自然への眼差し。また左上には彼女を見つめるコマドリの姿も。受難の象徴なのでしょうか。
ウォリスの「チャタートン」も目を引きます。僅か17歳で息を引き取ったという詩人。だらりと手を垂らしてベットに横たわる。ブロンズの髪はまだ若々しい。鑑賞者はそれこそ死の第一発見者となる。まるで舞台を前にしたかのようにドラマテックですらあります。
ミレイでは「両親の家のキリスト(大工の仕事場)」も興味深いもの。当然ながら描かれているのは聖書の主題。しかしながら聖家族をあまりにも風俗的に表したことから、大変な非難を浴びたとか。ラファエル前派の半ば革新性を伺える作品と言えるかもしれません。
最も惹かれたのがジョン・ロッダム・スペンサー・スタンホープの「過去の追想」です。何と言っても印象深いのはどこか物憂げな表情で佇む女性。長い髪を右手で引っ張るように透く。窓からは小舟の停泊するテムズ。よく見ると空には黒い雲も。工場の煙でしょうか。女性は娼婦です。割れたガラスに破れたカーテン。それにしても狭そうな室内。貧困から抜け出せるのか。枯れかけの鉢植えに床へ散る花が彼女の行方を暗示するかのようです。
ミレイの「安息の谷間」はどうでしょうか。夕焼けにそまる墓場の景色。一人の尼が墓を掘り、もう一人が両手を前にして墓石に座る。「死」の気配が全体を支配する作品ではありますが、不思議と風俗的でかつリアル、どこか身近な光景に映るのも興味深いところ。こちらを向く尼の目線にも引込まれます。

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ「ベアタ・ベアトリクス」1864-70年 油彩・カンヴァス テート美術館
それにしても美しき女性ばかり。いずれも実在のモデル。リジーにジェインにアニー。画家と深い関係を持ち、時に複雑な人間ドラマを展開した女性たちです。その辺りについては会場内の「人間相関図」で知ることが出来ます。ただ展示自体は先にも触れたようにテーマ、モチーフ別での構成です。いわゆる画家の個性や生き様云々よりも、作品自体を見比べることに重点の置かれた展示と言えるかもしれません。

ウィリアム・ダイス「ペグウェル・ベイ、ケント州」1858-60年 油彩・カンヴァス テート美術館
ラファエロ前派のグループとしての活動は僅か数年で終えてしまいます。短い期間に画家たちがどのような表現を志向したのか。結成期から60年代頃までの約20年間にスポットを当てての企画。そういう意味では密度の濃い展示という印象を受けました。

ウィリアム・ホルマン・ハント「良心の目覚め」1853-54年 油彩・カンヴァス テート美術館
要所には大作が構えていますが、小品も目立ちます。もちろん個人差はあるかもしれませんが、私は意外と早く見終えました。しかしながら考えれば本展は2つに1つと言って良いもの。「ザ・ビューティフル」です。ラファエル前派に引き続き、三菱一号館では英国の唯美主義に関する展覧会が行われています。

「ザ・ビューティフルー英国の唯美主義1860~1900」@三菱一号館美術館(1/30~5/6)
そもそも唯美主義はロセッティやバーン=ジョーンズらも参加した芸術運動。時代もラファエル前派から僅かに下った頃です。深い関係があるのは言うまでもありません。
六本木から丸の内へ。一号館の「ザ・ビューティフル」もあわせて見に行きたいと思います。

ウィリアム・モリス「麗しのイズー」1856-58年 油彩・カンヴァス テート美術館
会期一週目の日曜だったからでしょうか。館内はまだ余裕がありました。ただ追って混雑してくるのではないでしょうか。なお公式のツイッターアカウント(@prb_konzatsu)では混雑情報をリアルタイムで更新しています。そちらも参考になりそうです。

4月6日まで開催されています。
「ラファエル前派展 英国ヴィクトリア朝絵画の夢」 森アーツセンターギャラリー
会期:1月25日(土)~4月6日(日)
休館:会期中無休
時間:10:00~20:00(1月、2月の火曜日は17時まで。)入館は閉館時間の30分前まで。
料金:一般1500(1300)円、大学生1200(1000)円、4歳~中学生500(400)円。
*( )内は15名以上の団体料金
住所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅1C出口徒歩5分(コンコースにて直結)。都営地下鉄大江戸線六本木駅3出口徒歩7分。
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