都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「第17回 岡本太郎現代芸術賞展」 川崎市岡本太郎美術館
川崎市岡本太郎美術館
「第17回 岡本太郎現代芸術賞展」
2/8-4/6

川崎市岡本太郎美術館で開催中の「第17回 岡本太郎現代芸術賞展」を見て来ました。
今年で既に17回を数える岡本太郎現代芸術賞展。いわゆる公募方式による現代美術展です。今回の応募は全780点。うち評論家諸氏の選定を経て入選したのは20名(組)の作家。その作品を紹介する展覧会が川崎市の岡本太郎美術館で行われています。
会場内の撮影が可能でした。早速いくつかの作品を挙げてみます。

左手前:高本敦基「The Fall」 *特別賞
まずは入口すぐの塔から。高さ4m近く。高本敦基の「The Fall」です。床面には裾野を描くかのように円が広がる。素材は何と洗濯バサミです。それを半ば執拗にまで組上げて作られた塔。見慣れた洗濯バサミがかくも美しく映る。しかしながら解体してしまえば単なる洗濯バサミ。それ自体は美しくもありません。素材と作品のギャップ。その辺も興味深いものがあります。
目当ての作家の一人です。文谷有佳里。Gallery Jinで度々展示を開催。2013年のVOCA賞にも出品のあった『線』の作家でもあります。

文谷有佳里「なにもない風景を眺める:線の部屋」
さて今回は一体どのように線を展開させたのか。驚きました。少なくとも私が見た中では最大級の作品です。3m×4mのガラスを4面用いたドローイング。何でも採光用でもある備え付けのガラス窓に描いたものだそうです。

文谷有佳里「なにもない風景を眺める:線の部屋」(部分)
この巨大な面を這ってはひしめき、またうごめく線。切れては再び復活。さながら稲妻。時に大きく空間を裂くかのように走る。一方で曲線も多数。何やら有機的なモチーフを象る。リズムを刻んではまた壊す線。群れと群れのぶつかり合い。近づいて見ると線の迫力に圧倒されます。
また今回は四方での展示です。向こう側のガラス面のモチーフとあわせ重なる展開も。映り込みはありますが、しばし線を追いかけました。

キュンチョメ「まっかにながれる」 *岡本太郎賞
見事大賞を受賞したのはキュンチョメ、2人のユニットです。無数に貼られた立ち入り禁止のテープ。しかしながら手前の米俵には「立ち入り禁止のその先へどうぞお入り下さい」の文字が。まずはそれに従って入ってみる。中央にそびえるのは赤い円錐の山。床には何か蒔かれている。何と米です。踏んで良いものなのか。立ち入り禁止の標示が非常に重くのしかかる。率直なところ違和感すら覚えます。

キュンチョメ「まっかにながれる」(部分)
そして奥へ。映像です。突き詰めればいわゆる3.11に取材したもの。かの原発事故により立ち入りが制限された区域の寺院の鐘を大晦日に鳴らすというプロジェクト。その様子を映しているのです。
彼の地で鐘を鳴らす姿。当然ながらもう3年間鳴っていません。現地には野ざらしとなった無数のゴミ袋がつまれている。真っ暗闇の無人の世界。ほぼ無音です。しかし翻ってみれば冒頭は手元のラジオから何とも明る気な紅白歌合戦が聞こえてくる。東京と被災地の惨たらしいまでの落差。また床と円錐状の米によって作られた紅白は日の丸を意味するのでしょうか。
キュンチョメ、私は作品を初めて見たのですが、この内容。もう忘れることはありません。強い印象を与えられました。

サエボーグ「Slaughterhouse-9」 *岡本敏子賞
さて大賞に次ぐ岡本敏子賞を受賞したのはサエボーグです。例えれば遊園地か何かにあるようなセット。雲が浮かびお日様が照り木が生えている。キッチュという言葉で良いのでしょうか。色や見た目だけすればどこか明るい雰囲気がある。しかしふと見やれば内蔵の剥き出しになった豚が吊るされている。生々しい。何とも独特の光景がひろがっています。
タイトルは「Slaughterhouse」。ようは場です。素材はラテックス。何でも自身の変身のための着ぐるみだそうです。そして度々行われるのが着ぐるみによる作家のパフォーマンス。ジェンダーの問題などを取り上げているのだとか。残念ながら立ち会えませんでしたが、その様子は映像でも紹介されていました。

長尾恵那「ぜんぶわたしのもの」
床に一人の人間が気持ち良さそうに広がっています。長尾恵那の「ぜんぶわたしのもの」。素材は樟、木彫です。ぐっと手を横に伸ばし、足を大きく開く。いわゆる大の字。下着一枚、ほぼ裸です。彫刻の質感もさることながら、思わずその側で見る自分も寝そべりたくなってしまうような雰囲気。惹かれるものがあります。

中村亮一「家族の物語」
中村亮一の「家族の物語」はどうでしょうか。三点の油彩。モチーフはタイトルの如く家族の姿。セピア色がかった色調での集合写真。郷愁を覚える。支持体を見て驚きました。ベニヤ板です。しかもそれを刻んでいる。下部はまるで森林のようでした。

小松葉月「果たし状」 *特別賞
サエボーグ同様、出展ブースを自らの世界で埋め尽くしたのが小松葉月の「果たし状」。小学生の頃の教室の思い出を再現したとか。デコラティブな学習机に鎮座するのは作家の何らかの投影と見て良いのでしょうか。後ろには無数の書道が並ぶ。校訓一「従」と記された紙に目が止まります。
またあえて写真は載せませんが、じゃぽにかのブース、「悪ノリSNS 芸術は炎上だ!」も凄まじいインパクトです。無数のお菓子なりカップ麺が置かれた陳列棚。アイスのケースもあるコンビニ風。しかしそこに展開されているのは思わず目を背けてしまうようなモノばかり。また鈴木雄介の「いけにえライン」はどうでしょうか。滑車で運ばれたものとは一体何か。思わず仰け反ってしまいました。

赤松音呂「マグネティカ・アニマータ」(部分)
最後に目立たないながらも印象深かった作品を。赤松音呂の「マグネティカ・アニマータ」です。壁面に並ぶのはガラスのコップ。そこには水が入れられている。中に浮かぶのは銅線でしょうか。シンプルな装置。何だろうと思いしばし立ち止まってみると、耳へ微かな音が飛び込んでくる。他の作家の映像作品にかき消されてしまうほど小さな音です。それらは地磁気を取り込んで生じたものとか。極めて繊細です。大掛かりなインスタレーションの多いこの芸術展の中ではむしろ個性が際立つ。聞き入りました。

「お気に入りの作品を選ぼう」投票コーナー
会場出口には「お気に入り作品を選ぼう」と題し、観客による入選作の投票コーナーもありました。入口で投票用のシールをいただけます。ちなみに参加特典としてカフェTAROでの5%割引という嬉しいサービスも。なお撮影可とこの投票。ともに今回が初めての試みだそうです。

「第17回 岡本太郎現代芸術賞展」会場風景
それにしても岡本太郎現代芸術賞展、作品の多くは刺激的であり、また時に批評的でもある。実のところ初めて展示を見ましたが、これほど面白いとは思いませんでした。
4月6日まで開催されています。おすすめします。
「第17回 岡本太郎現代芸術賞展」 川崎市岡本太郎美術館
会期:2月8日(土)~4月6日(日)
休館:月曜日。2月12日(水)。
時間:9:30~17:00
料金:一般600(480)円、大・高生・65歳以上400(320)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:川崎市多摩区枡形7-1-5
交通:小田急線向ヶ丘遊園駅から徒歩約20分。向ヶ丘遊園駅南口ターミナルより「溝口駅南口行」バス(5番のりば・溝19系統)で「生田緑地入口」で下車。徒歩5分。
「第17回 岡本太郎現代芸術賞展」
2/8-4/6

川崎市岡本太郎美術館で開催中の「第17回 岡本太郎現代芸術賞展」を見て来ました。
今年で既に17回を数える岡本太郎現代芸術賞展。いわゆる公募方式による現代美術展です。今回の応募は全780点。うち評論家諸氏の選定を経て入選したのは20名(組)の作家。その作品を紹介する展覧会が川崎市の岡本太郎美術館で行われています。
会場内の撮影が可能でした。早速いくつかの作品を挙げてみます。

左手前:高本敦基「The Fall」 *特別賞
まずは入口すぐの塔から。高さ4m近く。高本敦基の「The Fall」です。床面には裾野を描くかのように円が広がる。素材は何と洗濯バサミです。それを半ば執拗にまで組上げて作られた塔。見慣れた洗濯バサミがかくも美しく映る。しかしながら解体してしまえば単なる洗濯バサミ。それ自体は美しくもありません。素材と作品のギャップ。その辺も興味深いものがあります。
目当ての作家の一人です。文谷有佳里。Gallery Jinで度々展示を開催。2013年のVOCA賞にも出品のあった『線』の作家でもあります。

文谷有佳里「なにもない風景を眺める:線の部屋」
さて今回は一体どのように線を展開させたのか。驚きました。少なくとも私が見た中では最大級の作品です。3m×4mのガラスを4面用いたドローイング。何でも採光用でもある備え付けのガラス窓に描いたものだそうです。

文谷有佳里「なにもない風景を眺める:線の部屋」(部分)
この巨大な面を這ってはひしめき、またうごめく線。切れては再び復活。さながら稲妻。時に大きく空間を裂くかのように走る。一方で曲線も多数。何やら有機的なモチーフを象る。リズムを刻んではまた壊す線。群れと群れのぶつかり合い。近づいて見ると線の迫力に圧倒されます。
また今回は四方での展示です。向こう側のガラス面のモチーフとあわせ重なる展開も。映り込みはありますが、しばし線を追いかけました。

キュンチョメ「まっかにながれる」 *岡本太郎賞
見事大賞を受賞したのはキュンチョメ、2人のユニットです。無数に貼られた立ち入り禁止のテープ。しかしながら手前の米俵には「立ち入り禁止のその先へどうぞお入り下さい」の文字が。まずはそれに従って入ってみる。中央にそびえるのは赤い円錐の山。床には何か蒔かれている。何と米です。踏んで良いものなのか。立ち入り禁止の標示が非常に重くのしかかる。率直なところ違和感すら覚えます。

キュンチョメ「まっかにながれる」(部分)
そして奥へ。映像です。突き詰めればいわゆる3.11に取材したもの。かの原発事故により立ち入りが制限された区域の寺院の鐘を大晦日に鳴らすというプロジェクト。その様子を映しているのです。
彼の地で鐘を鳴らす姿。当然ながらもう3年間鳴っていません。現地には野ざらしとなった無数のゴミ袋がつまれている。真っ暗闇の無人の世界。ほぼ無音です。しかし翻ってみれば冒頭は手元のラジオから何とも明る気な紅白歌合戦が聞こえてくる。東京と被災地の惨たらしいまでの落差。また床と円錐状の米によって作られた紅白は日の丸を意味するのでしょうか。
キュンチョメ、私は作品を初めて見たのですが、この内容。もう忘れることはありません。強い印象を与えられました。

サエボーグ「Slaughterhouse-9」 *岡本敏子賞
さて大賞に次ぐ岡本敏子賞を受賞したのはサエボーグです。例えれば遊園地か何かにあるようなセット。雲が浮かびお日様が照り木が生えている。キッチュという言葉で良いのでしょうか。色や見た目だけすればどこか明るい雰囲気がある。しかしふと見やれば内蔵の剥き出しになった豚が吊るされている。生々しい。何とも独特の光景がひろがっています。
タイトルは「Slaughterhouse」。ようは場です。素材はラテックス。何でも自身の変身のための着ぐるみだそうです。そして度々行われるのが着ぐるみによる作家のパフォーマンス。ジェンダーの問題などを取り上げているのだとか。残念ながら立ち会えませんでしたが、その様子は映像でも紹介されていました。

長尾恵那「ぜんぶわたしのもの」
床に一人の人間が気持ち良さそうに広がっています。長尾恵那の「ぜんぶわたしのもの」。素材は樟、木彫です。ぐっと手を横に伸ばし、足を大きく開く。いわゆる大の字。下着一枚、ほぼ裸です。彫刻の質感もさることながら、思わずその側で見る自分も寝そべりたくなってしまうような雰囲気。惹かれるものがあります。

中村亮一「家族の物語」
中村亮一の「家族の物語」はどうでしょうか。三点の油彩。モチーフはタイトルの如く家族の姿。セピア色がかった色調での集合写真。郷愁を覚える。支持体を見て驚きました。ベニヤ板です。しかもそれを刻んでいる。下部はまるで森林のようでした。

小松葉月「果たし状」 *特別賞
サエボーグ同様、出展ブースを自らの世界で埋め尽くしたのが小松葉月の「果たし状」。小学生の頃の教室の思い出を再現したとか。デコラティブな学習机に鎮座するのは作家の何らかの投影と見て良いのでしょうか。後ろには無数の書道が並ぶ。校訓一「従」と記された紙に目が止まります。
またあえて写真は載せませんが、じゃぽにかのブース、「悪ノリSNS 芸術は炎上だ!」も凄まじいインパクトです。無数のお菓子なりカップ麺が置かれた陳列棚。アイスのケースもあるコンビニ風。しかしそこに展開されているのは思わず目を背けてしまうようなモノばかり。また鈴木雄介の「いけにえライン」はどうでしょうか。滑車で運ばれたものとは一体何か。思わず仰け反ってしまいました。

赤松音呂「マグネティカ・アニマータ」(部分)
最後に目立たないながらも印象深かった作品を。赤松音呂の「マグネティカ・アニマータ」です。壁面に並ぶのはガラスのコップ。そこには水が入れられている。中に浮かぶのは銅線でしょうか。シンプルな装置。何だろうと思いしばし立ち止まってみると、耳へ微かな音が飛び込んでくる。他の作家の映像作品にかき消されてしまうほど小さな音です。それらは地磁気を取り込んで生じたものとか。極めて繊細です。大掛かりなインスタレーションの多いこの芸術展の中ではむしろ個性が際立つ。聞き入りました。

「お気に入りの作品を選ぼう」投票コーナー
会場出口には「お気に入り作品を選ぼう」と題し、観客による入選作の投票コーナーもありました。入口で投票用のシールをいただけます。ちなみに参加特典としてカフェTAROでの5%割引という嬉しいサービスも。なお撮影可とこの投票。ともに今回が初めての試みだそうです。

「第17回 岡本太郎現代芸術賞展」会場風景
それにしても岡本太郎現代芸術賞展、作品の多くは刺激的であり、また時に批評的でもある。実のところ初めて展示を見ましたが、これほど面白いとは思いませんでした。
4月6日まで開催されています。おすすめします。
「第17回 岡本太郎現代芸術賞展」 川崎市岡本太郎美術館
会期:2月8日(土)~4月6日(日)
休館:月曜日。2月12日(水)。
時間:9:30~17:00
料金:一般600(480)円、大・高生・65歳以上400(320)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:川崎市多摩区枡形7-1-5
交通:小田急線向ヶ丘遊園駅から徒歩約20分。向ヶ丘遊園駅南口ターミナルより「溝口駅南口行」バス(5番のりば・溝19系統)で「生田緑地入口」で下車。徒歩5分。
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