都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「さわひらき」 東京オペラシティアートギャラリー
東京オペラシティアートギャラリー
「さわひらき Under the Box, Beyond the Bounds」
1/18-3/30

東京オペラシティアートギャラリーで開催中のさわひらき個展、「Under the Box, Beyond the Bounds」を見て来ました。
1977年に生まれ、現在はロンドンに在住。神奈川県民ホールや資生堂ギャラリーでの個展(ともに2012年)の他、アーティストファイル(2008年)などにも出品のあったさわひらき。日常に寓話。虚構と現実。その映像作品はいつも惹き付けてやまない魅力があります。

「Did I ?」2011年 ヴィデオ・モノクロ、ステレオ・サウンド
そのさわが初台のオペラシティに登場。展示は日本で初めて公開される映像インスタレーションの他、ドローイング、さらに彫刻まで。約25点です。また会場は作家自身の構成によるもの。三部仕立てです。新作と旧作を3つのテーマに言わば再編して提示する。単に時系列ではありません。オペラシティの空間を自身の世界に引込む形での展示。さすがに見応えがありました。

「Lineament」2012年 2チャンネル・ヴィデオ、カラー、サイレント、特製レコードプレイヤー、レコード、ステレオ・サウンド
それでは簡単に追いかけてみます。まずは「箱の下」と題されたセクション。小さな石膏の彫刻やドローイングの並ぶ廊下を進む。徐々に暗くなり、暗室へ。そこで映されるのが「Lineament」。二面の大型スクリーンです。記憶を喪った友人の存在を切っ掛けに制作されたという作品。どこかシュール。指摘されるようにブニュエル的とも言えるのでしょうか。記憶についての問題が問われる。一昨年の資生堂ギャラリーでの個展でも発表された作品でもあります。
実のところ私もその時に作品を見ましたが、どうもあまり思うところがなかったのも事実。人の記憶、それを共有することの難しさ。そうしたことも感じましたが、今回は二度目ということなのか、もう少し入り込む形で作品に向き合うことが出来ました。回転するレコード。紡がれては広がり、また消えていく糸、はたまた記憶。メトロノームが時を刻む。反復と回転はさわの映像の一つの特徴でもある。その前のオブジェとの関連も良かったかもしれません。各々の世界が緩やかに繋がっていきます。

「Dwelling」2002年 ヴィデオ、モノクロ、ステレオ・サウンド
続いての二部、「ラジエーターの後ろ/配管」は構成からして見事です。というのもここでは新旧作が一つの舞台装置をとるかのように展開されている。中央には棚とテーブル。そしてふと置かれた小箱にも作品。さらには一転して天井近くにも映像が投影されています。映像に囲まれる場所。見上げては見下ろす体験。さわの最初期の話題作、「Dwelling」もここでの展示。飛行機も飛び交っています。何でもこれは作家のスタジオをイメージしての空間なのだそうです。
そして進むと「Lenticular」がお目見え。新作です。まるでプラネタリウムのようなドーム型の投影装置。実際にスコットランドの天文台で撮影されています。

「Lenticular」2013年 ヴィデオ、カラー、ステレオ・サウンド、ミクストメディア
横の壁のスクリーンでは天文学者が語る。ドキュメンタリー風です。そしてドームの映像はそれとリンクするような形で展開していきます。またそこにあるのは必ずしも星空だけではありません。歯車も回っていく。機械と星空に抽象的な紋様。先の「Lineament」で人の内面を見つめたさわが、今度は人や装置を通して宇宙を見据える。ドーム内からしばし見上げて映像美を楽しみました。
三部目、ラストで一際目立つのが「Envelopo」です。鏡を取り込んだインスタレーション。最奥部には縦長のスクリーン。その前にはまるでモノリスのように鏡が並んでいる。鑑賞者はその間に入って映像を見るという仕掛けです。スクリーンにはドレスを纏う女性たち。何を演じているのでしょうか。前へ後ろへと進み、ロウソクに火を灯しては書物を見やる。そして時に壺を割ってしまう。さらにはそれを掃除する姿も。その繰り返し。入れ子状でもあります。またよく見るとスクリーンの文字は反転している。背後の鏡を見ることで初めて分かるわけです。
ミラーを通して映像が空間全体へと広がるような仕掛け。これまでのさわの作品にあったでしょうか。見るものと見られるものとの関係を問う。時間軸も重層的です。新たな展開に驚かされました。
「自分の世界って何だろう? 領域を考え直す さわひらき展」@CINRA.NET
上記リンク先(本展を踏まえたさわのインタビュー記事)における「一歩踏み出した解釈」という言葉。最近のさわの制作なり今回の展示の特徴を表しているのではないしょうか。ともすれば「幻想」や「白昼夢」というキーワードで語られもする映像世界。しかしながらここではより深く人間の意識などを掘り下げている。どこか観念的であり、また時に象徴的ですらあります。

「Aurora」2013年 ヴィデオ、カラー&モノクロ、サイレント
私の中でさわを特に強く印象づけたのが一昨年の神奈川県民ホールギャラリーでの個展です。コンサートホールの一部という個性的な空間を巧みに利用しての展示。もちろん充実していました。ただ近作を交えていたものの、どちらかと言えば旧作の方が多かった。いわゆる集大成的な内容だったかもしれません。
一方で初めにも触れたように、今回の個展は新作「Lenticular」など、ごく最近の制作を大きく取り上げるもの。さわの関心はこれまでになかった領域へと向けられている。例えば小さな飛行機が静かに飛び交う幻想世界。そうした先入観のみで臨むと良い意味で期待を裏切られます。

「Souvenir」2012年 9チャンネル・ヴィデオ、カラー&モノクロ、サイレント
映像はもはや取っ付き易いものではありません。しかしながらさわの今後の展開を鑑みる際に一つのエポックとなり得る。そうした展覧会ではないかと感じました。
最長の作品で約19分。映像だけで20点ほどあります。じっくり見ると2時間はかかるのではないでしょうか。時間に余裕を持っての観覧をおすすめします。
3月30日まで開催されています。まずはおすすめします。
「さわひらき Under the Box, Beyond the Bounds」 東京オペラシティアートギャラリー
会期:1月18日(土)~3月30日(日)
休館:月曜日。2月9日(日)。
時間:11:00~19:00 *金・土は20時まで開館。入場は閉館30分前まで。
料金:一般1000(800)円、大・高生800(600)円、中・小生600(400)円。
*( )内は15名以上の団体料金。土・日・祝は小中学生無料。
*閉館1時間前以降の入場、及び65歳以上は半額。
住所:新宿区西新宿3-20-2
交通:京王新線初台駅東口直結徒歩5分。
「さわひらき Under the Box, Beyond the Bounds」
1/18-3/30

東京オペラシティアートギャラリーで開催中のさわひらき個展、「Under the Box, Beyond the Bounds」を見て来ました。
1977年に生まれ、現在はロンドンに在住。神奈川県民ホールや資生堂ギャラリーでの個展(ともに2012年)の他、アーティストファイル(2008年)などにも出品のあったさわひらき。日常に寓話。虚構と現実。その映像作品はいつも惹き付けてやまない魅力があります。

「Did I ?」2011年 ヴィデオ・モノクロ、ステレオ・サウンド
そのさわが初台のオペラシティに登場。展示は日本で初めて公開される映像インスタレーションの他、ドローイング、さらに彫刻まで。約25点です。また会場は作家自身の構成によるもの。三部仕立てです。新作と旧作を3つのテーマに言わば再編して提示する。単に時系列ではありません。オペラシティの空間を自身の世界に引込む形での展示。さすがに見応えがありました。

「Lineament」2012年 2チャンネル・ヴィデオ、カラー、サイレント、特製レコードプレイヤー、レコード、ステレオ・サウンド
それでは簡単に追いかけてみます。まずは「箱の下」と題されたセクション。小さな石膏の彫刻やドローイングの並ぶ廊下を進む。徐々に暗くなり、暗室へ。そこで映されるのが「Lineament」。二面の大型スクリーンです。記憶を喪った友人の存在を切っ掛けに制作されたという作品。どこかシュール。指摘されるようにブニュエル的とも言えるのでしょうか。記憶についての問題が問われる。一昨年の資生堂ギャラリーでの個展でも発表された作品でもあります。
実のところ私もその時に作品を見ましたが、どうもあまり思うところがなかったのも事実。人の記憶、それを共有することの難しさ。そうしたことも感じましたが、今回は二度目ということなのか、もう少し入り込む形で作品に向き合うことが出来ました。回転するレコード。紡がれては広がり、また消えていく糸、はたまた記憶。メトロノームが時を刻む。反復と回転はさわの映像の一つの特徴でもある。その前のオブジェとの関連も良かったかもしれません。各々の世界が緩やかに繋がっていきます。

「Dwelling」2002年 ヴィデオ、モノクロ、ステレオ・サウンド
続いての二部、「ラジエーターの後ろ/配管」は構成からして見事です。というのもここでは新旧作が一つの舞台装置をとるかのように展開されている。中央には棚とテーブル。そしてふと置かれた小箱にも作品。さらには一転して天井近くにも映像が投影されています。映像に囲まれる場所。見上げては見下ろす体験。さわの最初期の話題作、「Dwelling」もここでの展示。飛行機も飛び交っています。何でもこれは作家のスタジオをイメージしての空間なのだそうです。
そして進むと「Lenticular」がお目見え。新作です。まるでプラネタリウムのようなドーム型の投影装置。実際にスコットランドの天文台で撮影されています。

「Lenticular」2013年 ヴィデオ、カラー、ステレオ・サウンド、ミクストメディア
横の壁のスクリーンでは天文学者が語る。ドキュメンタリー風です。そしてドームの映像はそれとリンクするような形で展開していきます。またそこにあるのは必ずしも星空だけではありません。歯車も回っていく。機械と星空に抽象的な紋様。先の「Lineament」で人の内面を見つめたさわが、今度は人や装置を通して宇宙を見据える。ドーム内からしばし見上げて映像美を楽しみました。
三部目、ラストで一際目立つのが「Envelopo」です。鏡を取り込んだインスタレーション。最奥部には縦長のスクリーン。その前にはまるでモノリスのように鏡が並んでいる。鑑賞者はその間に入って映像を見るという仕掛けです。スクリーンにはドレスを纏う女性たち。何を演じているのでしょうか。前へ後ろへと進み、ロウソクに火を灯しては書物を見やる。そして時に壺を割ってしまう。さらにはそれを掃除する姿も。その繰り返し。入れ子状でもあります。またよく見るとスクリーンの文字は反転している。背後の鏡を見ることで初めて分かるわけです。
ミラーを通して映像が空間全体へと広がるような仕掛け。これまでのさわの作品にあったでしょうか。見るものと見られるものとの関係を問う。時間軸も重層的です。新たな展開に驚かされました。
「自分の世界って何だろう? 領域を考え直す さわひらき展」@CINRA.NET
上記リンク先(本展を踏まえたさわのインタビュー記事)における「一歩踏み出した解釈」という言葉。最近のさわの制作なり今回の展示の特徴を表しているのではないしょうか。ともすれば「幻想」や「白昼夢」というキーワードで語られもする映像世界。しかしながらここではより深く人間の意識などを掘り下げている。どこか観念的であり、また時に象徴的ですらあります。

「Aurora」2013年 ヴィデオ、カラー&モノクロ、サイレント
私の中でさわを特に強く印象づけたのが一昨年の神奈川県民ホールギャラリーでの個展です。コンサートホールの一部という個性的な空間を巧みに利用しての展示。もちろん充実していました。ただ近作を交えていたものの、どちらかと言えば旧作の方が多かった。いわゆる集大成的な内容だったかもしれません。
一方で初めにも触れたように、今回の個展は新作「Lenticular」など、ごく最近の制作を大きく取り上げるもの。さわの関心はこれまでになかった領域へと向けられている。例えば小さな飛行機が静かに飛び交う幻想世界。そうした先入観のみで臨むと良い意味で期待を裏切られます。

「Souvenir」2012年 9チャンネル・ヴィデオ、カラー&モノクロ、サイレント
映像はもはや取っ付き易いものではありません。しかしながらさわの今後の展開を鑑みる際に一つのエポックとなり得る。そうした展覧会ではないかと感じました。
最長の作品で約19分。映像だけで20点ほどあります。じっくり見ると2時間はかかるのではないでしょうか。時間に余裕を持っての観覧をおすすめします。
3月30日まで開催されています。まずはおすすめします。
「さわひらき Under the Box, Beyond the Bounds」 東京オペラシティアートギャラリー
会期:1月18日(土)~3月30日(日)
休館:月曜日。2月9日(日)。
時間:11:00~19:00 *金・土は20時まで開館。入場は閉館30分前まで。
料金:一般1000(800)円、大・高生800(600)円、中・小生600(400)円。
*( )内は15名以上の団体料金。土・日・祝は小中学生無料。
*閉館1時間前以降の入場、及び65歳以上は半額。
住所:新宿区西新宿3-20-2
交通:京王新線初台駅東口直結徒歩5分。
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