都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」 府中市美術館
府中市美術館
「春の江戸絵画まつり へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」
3/16~5/12
府中市美術館で開催中の「へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」を見てきました。
毎年、春の恒例の「江戸絵画まつり」は、これまでにも聞きなれない絵師や、見慣れない作品を紹介し、多くの日本美術ファンの心を捉えてきました。
今年のテーマは「へそまがり日本美術」で、不格好なものに心惹かれることを「へそまがりの心の働き」と捉え、日本美術史から「へそまがりの感性」が生んだとされる作品を展示していました。
仙がい義梵「豊干禅師・寒山拾得図屛風」 幻住庵(福岡市) *前期展示
はじまりは禅画でした。うち目を引いたのが、仙がいの「豊干禅師・寒山拾得図屛風」で、左に虎に乗った豊干禅師と、右に弟子の寒山拾得を描いていました。とはいえ、その描写は滑稽で、寒山拾得はまるで豚のような顔をしていました。また小さな虎も子猫のようによたよたと歩いていて、可愛らしい姿を見せていました。左右に広がる大きな屏風絵でしたが、あまり見慣れない作品で、興味深いのではないでしょうか。
雪村周継の「あくび布袋・紅梅・白梅図」は、右に紅梅、左に白梅、そして中央にあくびする布袋を配した3幅対の作品で、よく寝たと言わんばかりに大きなあくびをする布袋がコミカルに表されていました。ただ描写は思いの外に丁寧で、顔面の筋肉なども細かに描いていました。
人気の応挙や蘆雪にも可愛らしい作品がありました。それがともに得意の子犬を描いた「狗子図」と「時雨狗子図」で、ちょうど並びあうように展示されていました。ともに丸っこい犬がじゃれ合う姿を表していましたが、応挙が写実的とすれば、蘆雪はより緩く、擬人化したかのような表情を持ち得ていたかもしれません。
また蘆雪らの奇想の絵師では、先だっての「奇想の系譜展」でも登場した、若冲、白隠、国芳が取り上げられていました。(後期には蕭白作が出展。)奇想ファンにとっても改めて見ておきたい内容と言えそうです。
さて今回の展覧会は、タイトルに「江戸絵画まつり」とありますが、何も江戸絵画だけが展示されているわけではありません。とするのも、西洋絵画のヘタウマの元祖としてルソーを位置付けた上、一部に影響関係のあった日本の近代画家を取り上げていたからでした。ルソーが大正時代に日本で紹介されると、「稚拙み」なるブームが起こり、いわゆる素朴な絵画が多く描かれたことがあったそうです。
ハイライトは徳川の将軍、つまり上様の絵画にありました。ここではおおよそ兎には見えない家光の「兎図」や、まるで古代の壁画を前にしたかのような「鳳凰図」をはじめ、もはやヘタウマとも言い難い家綱の「親鶏雛図」など、何とも個性的な作品が展示されていました。いずれもが将軍自身が筆をとって描き、臣下に配ったとされていて、三ツ葉葵の御紋のついた立派な軸装にも目を見張るものがありました。
意外な珍品にも目を離せないのが、「江戸絵画まつり」の面白いところかもしれません。その最たる作品が、岸礼の「百福図」で、無数のお多福が何やら楽器を持って演奏したり、食事をとったり、また談笑する光景を描いていました。ともかくお多福らは異様なまでに密に群れていて、奇異なまでに艶やかな黒い髪を垂らしていました。一人一人の表情は実に豊かで、楽しそうではありましたが、どこをとっても濃厚な表現であり、しばらく頭から離れませんでした。
濃厚と言えば、京都の絵師、祇園井特も忘れられません。中でも「墓場の幽霊図」は、まさに墓場に出現した幽霊を描いていましたが、さもサイボーグを思わせるような体つきで、不気味な面持ちを見せていました。
最後に「へそまがり」云々ではなく、端的に心惹かれた作品がありました。それが中村芳中の「十二ヶ月花卉図押絵貼屛風」で、唯一、ケースなしの露出で展示されていました。文字通り、一年の四季の草花が、12枚に続く屏風で描かれていて、梅に芥子の花、そして松も全てが丸みを帯びていました。ともかく温和な作風で、近年、和みの琳派などとも称される芳中ならではの作品と言えるかもしれません。
最後に展示替えの情報です。会期中に大幅な作品の入れ替えがあります。事実上、2つで1つの展覧会と捉えて差し支えありません。
「へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」(出展リスト)
前期:3月16日(土)〜4月14日(日)
後期:4月16日(火)〜5月12日(日)
なお観覧券に、2度目は半額となる割引券がついていました。前期期間中にお出かけの際は、観覧券をとっておくことをおすすめします。
府中の春の江戸絵画まつりもすっかり定着しました。ちょうど花見の時期と重なっていたからか、会場内もなかなか盛況でした。GWにかけて混み合うかもしれません。
巡回はありません。5月12日まで開催されています。
「へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」(@hesoten2019) 府中市美術館
会期:3月16日(土)~5月12日(日)
休館:月曜日。但し4月29日、5月6日は開館。5月7日(火)は休館。
時間:10:00~17:00
*入館は閉館の30分前まで
料金:一般700(560)円、大学・高校生350(280)円、中学・小学生150(120)円。
*( )内は20名以上の団体料金。
*府中市内の小中学生は「学びのパスポート」で無料。
場所:府中市浅間町1-3 都立府中の森公園内
交通:京王線東府中駅から徒歩15分。京王線府中駅からちゅうバス(多磨町行き)「府中市美術館」下車。
「春の江戸絵画まつり へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」
3/16~5/12
府中市美術館で開催中の「へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」を見てきました。
毎年、春の恒例の「江戸絵画まつり」は、これまでにも聞きなれない絵師や、見慣れない作品を紹介し、多くの日本美術ファンの心を捉えてきました。
今年のテーマは「へそまがり日本美術」で、不格好なものに心惹かれることを「へそまがりの心の働き」と捉え、日本美術史から「へそまがりの感性」が生んだとされる作品を展示していました。
仙がい義梵「豊干禅師・寒山拾得図屛風」 幻住庵(福岡市) *前期展示
はじまりは禅画でした。うち目を引いたのが、仙がいの「豊干禅師・寒山拾得図屛風」で、左に虎に乗った豊干禅師と、右に弟子の寒山拾得を描いていました。とはいえ、その描写は滑稽で、寒山拾得はまるで豚のような顔をしていました。また小さな虎も子猫のようによたよたと歩いていて、可愛らしい姿を見せていました。左右に広がる大きな屏風絵でしたが、あまり見慣れない作品で、興味深いのではないでしょうか。
雪村周継の「あくび布袋・紅梅・白梅図」は、右に紅梅、左に白梅、そして中央にあくびする布袋を配した3幅対の作品で、よく寝たと言わんばかりに大きなあくびをする布袋がコミカルに表されていました。ただ描写は思いの外に丁寧で、顔面の筋肉なども細かに描いていました。
人気の応挙や蘆雪にも可愛らしい作品がありました。それがともに得意の子犬を描いた「狗子図」と「時雨狗子図」で、ちょうど並びあうように展示されていました。ともに丸っこい犬がじゃれ合う姿を表していましたが、応挙が写実的とすれば、蘆雪はより緩く、擬人化したかのような表情を持ち得ていたかもしれません。
また蘆雪らの奇想の絵師では、先だっての「奇想の系譜展」でも登場した、若冲、白隠、国芳が取り上げられていました。(後期には蕭白作が出展。)奇想ファンにとっても改めて見ておきたい内容と言えそうです。
さて今回の展覧会は、タイトルに「江戸絵画まつり」とありますが、何も江戸絵画だけが展示されているわけではありません。とするのも、西洋絵画のヘタウマの元祖としてルソーを位置付けた上、一部に影響関係のあった日本の近代画家を取り上げていたからでした。ルソーが大正時代に日本で紹介されると、「稚拙み」なるブームが起こり、いわゆる素朴な絵画が多く描かれたことがあったそうです。
へそ展、前期展示も残すところあと9日。そう思うと、なんだかソワソワしてきます。あれも、あれもももう一度見なきゃ、と気が急いてくるのです。もちろん「ぴよぴよ鳳凰」も。図版で見てもかわいいのですが、実物はやっぱりいい。皆さんにも是非、あの三ツ葉葵紋に囲まれた姿を見てほしいです! pic.twitter.com/slrBNszoCC
— へそまがり日本美術展@府中市美術館 【図録制作チーム公式】 (@hesoten2019) 2019年4月5日
ハイライトは徳川の将軍、つまり上様の絵画にありました。ここではおおよそ兎には見えない家光の「兎図」や、まるで古代の壁画を前にしたかのような「鳳凰図」をはじめ、もはやヘタウマとも言い難い家綱の「親鶏雛図」など、何とも個性的な作品が展示されていました。いずれもが将軍自身が筆をとって描き、臣下に配ったとされていて、三ツ葉葵の御紋のついた立派な軸装にも目を見張るものがありました。
意外な珍品にも目を離せないのが、「江戸絵画まつり」の面白いところかもしれません。その最たる作品が、岸礼の「百福図」で、無数のお多福が何やら楽器を持って演奏したり、食事をとったり、また談笑する光景を描いていました。ともかくお多福らは異様なまでに密に群れていて、奇異なまでに艶やかな黒い髪を垂らしていました。一人一人の表情は実に豊かで、楽しそうではありましたが、どこをとっても濃厚な表現であり、しばらく頭から離れませんでした。
濃厚と言えば、京都の絵師、祇園井特も忘れられません。中でも「墓場の幽霊図」は、まさに墓場に出現した幽霊を描いていましたが、さもサイボーグを思わせるような体つきで、不気味な面持ちを見せていました。
最後に「へそまがり」云々ではなく、端的に心惹かれた作品がありました。それが中村芳中の「十二ヶ月花卉図押絵貼屛風」で、唯一、ケースなしの露出で展示されていました。文字通り、一年の四季の草花が、12枚に続く屏風で描かれていて、梅に芥子の花、そして松も全てが丸みを帯びていました。ともかく温和な作風で、近年、和みの琳派などとも称される芳中ならではの作品と言えるかもしれません。
最後に展示替えの情報です。会期中に大幅な作品の入れ替えがあります。事実上、2つで1つの展覧会と捉えて差し支えありません。
「へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」(出展リスト)
前期:3月16日(土)〜4月14日(日)
後期:4月16日(火)〜5月12日(日)
なお観覧券に、2度目は半額となる割引券がついていました。前期期間中にお出かけの際は、観覧券をとっておくことをおすすめします。
府中の春の江戸絵画まつりもすっかり定着しました。ちょうど花見の時期と重なっていたからか、会場内もなかなか盛況でした。GWにかけて混み合うかもしれません。
巡回はありません。5月12日まで開催されています。
「へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」(@hesoten2019) 府中市美術館
会期:3月16日(土)~5月12日(日)
休館:月曜日。但し4月29日、5月6日は開館。5月7日(火)は休館。
時間:10:00~17:00
*入館は閉館の30分前まで
料金:一般700(560)円、大学・高校生350(280)円、中学・小学生150(120)円。
*( )内は20名以上の団体料金。
*府中市内の小中学生は「学びのパスポート」で無料。
場所:府中市浅間町1-3 都立府中の森公園内
交通:京王線東府中駅から徒歩15分。京王線府中駅からちゅうバス(多磨町行き)「府中市美術館」下車。
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