都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「メアリー・エインズワース浮世絵コレクション-初期浮世絵から北斎・広重まで」 千葉市美術館
千葉市美術館
「オーバリン大学 アレン・メモリアル美術館所蔵 メアリー・エインズワース浮世絵コレクション
-初期浮世絵から北斎・広重まで」
2019/4/13~5/26

千葉市美術館で開催中の「メアリー・エインズワース浮世絵コレクション-初期浮世絵から北斎・広重まで」を見てきました。
1906年、アメリカ人のメアリー・エインズワースは、アジアへの旅行の最中、日本で浮世絵に魅了されると、以降、浮世絵版画を収集し続けました。そして約25年の間に1500点ものコレクションを築き上げ、1950年に83歳で亡くなると、母校のオハイオ州にあるオーバリン大学へと寄贈されました。現在は同大学のアレン・メモリアル美術館に収められています。
そのメアリーのコレクションした浮世絵が初めて日本へ里帰りしてきました。初期浮世絵から春信、清長、北斎、写楽、歌麿、広重、そして国芳と、体系だって収集しているのが特徴で、出品点数は200点もありました。

奥村政信 「羽根突きをする美人」 宝永-正徳期(1704-16) アレン・メモリアル美術館
はじまりはメアリーが日本で初めて購入した、石川豊信の「傘と提灯を持つ佐野川市松」でした。提灯を吊り下げつつ、傘を右手で持地ながら、振り返るような仕草を見せる市松の姿を描いていて、穏やかな表情をしつつも、僅かな笑みを浮かべているようにも見えました。メアリーは、ほかの多くのコレクターとは異なり、初期浮世絵から収集をはじめていて、中には現存数の少ない貴重な作品も少なくありません。西村重信の「釈迦涅槃図」なども目を引きました。

鈴木春信「縁先美人(見立無間の鐘)」 明和4(1767)年頃 アレン・メモリアル美術館
続くのが、紅摺絵と錦絵で、中でも鈴木春信が充実していました。また端的に春信とはいえども、現存唯一の天神を表した「天神図」や、大判の歌舞伎絵としては同じくただ1つしか確認されていない「曽我五良時致 朝比奈三良義秀」など珍しい作品も散見されました。さらに輪郭線を用いず、色版のみで描く水絵も、美しいのではないでしょうか。鳥居清満は「菅丞相」において、牛に乗る道真の姿を、淡い色味の水絵で表現していました。

喜多川歌麿「婦人相学十躰 面白キ相」 寛政4-5(1792-93)年頃 アレン・メモリアル美術館
清長に歌麿、写楽らの活動した、浮世絵の黄金期の作品も見逃せません。清長の「洗濯と張り物」は、三枚綴りの画面に、洗濯や布地の張り物に勤しむ女性を描いていて、水にさらす青い布などの鮮やかな色彩に目を奪われました。また同じく清長の「眉を装う芸者」は、芸者が化粧を直す様を表していて、得意の八頭身の美人を、柱絵と呼ばれる縦に長い画面へ落とし込んでいました。この作品も現在、2点しか確認されていないそうです。
鳥文斎栄之の「御殿山の花見」は、品川の海を望んだ御殿山の花見の光景を舞台とした作品で、着物の赤に桜色、そして地面の黄緑が織りなす色のコントラストが大変に鮮やかでした。また歌麿の「美人気量競 五明楼 花扇」は、黒雲母が良く残っていて、女性の白い肌を引き立てていました。さらに歌麿では、7枚綴りの「見立唐人行列」が目立っていたかもしれません。
北斎と国芳は、主に風景画が出展されていました。人気の「冨嶽三十六景 凱風快晴」では、赤茶けた山肌の富士の上に、白い雲の靡く青い空が広がっていて、心なしか状態も良く、発色が美しいようにも思えました。また国芳では風景画とともに、「大物浦平家の亡霊」が大変に魅惑的でした。船に乗って西へと逃れる義経一行を襲った大波と、平家の亡霊を描いていて、亡霊は全てシルエットで表されていました。まるで映像を見るかのような動きもあり、国芳ならではの劇的でかつ臨場感に溢れた作品と言えるのではないでしょうか。

歌川広重「名所江戸百景 両国花火」 安政5(1858)年 アレン・メモリアル美術館
ラストは、メアリーが特に熱心に収集した広重が展示されていました。実際、1500点のコレクションのうち、800点を広重が占めていて、当時はまだ広重が没して50年ほどであったことから、集めやすかったのではないかとも指摘されています。「近江八景」や「東海道五十三次之内」、「名所江戸百景」など、いわゆる名作が網羅されていて、広重の画業を幅広く俯瞰することも出来ました。また「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」では、早摺と後摺の作品が並んで展示されているなど、摺りによって異なる表現を見比べられました。芸者のシルエットや食べ散らかした器物で、宴の後の余韻を表現した「名所江戸百景 月の岬」も見どころかもしれません。この作品を見るたびに、時間の存在を感じてなりません。

勝川春英「三代目瀬川菊之丞の油屋おそめ」 寛政8(1796)年 アレン・メモリアル美術館
2016年に文化庁などの助成によりスタートした、「オーバリン・プロジェクト」が、展覧会の開催のきっかけになったそうです。千葉市美術館や静岡市美術館、大阪市立美術館の学芸員の方々が現地で調査を行い、選定した作品によって構成されていて、浮世絵の通史を追うことも出来ました。質量ともに充実した浮世絵展であることは間違いありません。

如水宗淵「柳堤山水図」 室町時代 旧ピーター・ドラッカー山荘コレクション(千葉市美術館寄託)
なおこれに引き続く「ピーター・ドラッカー・コレクション水墨画名品展」も見応えがありました。経営学者のドラッカーが集めた日本美術コレクションを紹介するもので、室町の水墨画や江戸絵画などが50点ほどが出展されていました。中でも夜の月の下で花を開く梅を描いた、谷文晁の「月夜白梅図」が素晴らしく、淡い月明かりとひんやりとした空気感までが見事に墨で表現されていました。

雪村周継「月夜独釣図」 室町時代 旧ピーター・ドラッカー山荘コレクション(千葉市美術館寄託)
なお一連のコレクションは2015年に、一度、千葉市美術館でも公開されましたが、昨年度、日本の企業によって購入され、同館に寄託されました。いわばお披露目の展覧会でもあります。
繰り返しになりますが、「メアリー・エインズワース浮世絵コレクション」と「ピーター・ドラッカー・コレクション水墨画名品展」を合わせると、出展数は実に約250点にも及びます。ともかく膨大です。時間に余裕を持ってお出かけ下さい。

展示替えはありません。5月26日まで開催されています。おすすめします。
「オーバリン大学 アレン・メモリアル美術館所蔵 メアリー・エインズワース浮世絵コレクション-初期浮世絵から北斎・広重まで」 千葉市美術館(@ccma_jp)
会期:2019年4月13日(土)~5月26日(日)
休館:5月7日(火)。
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1200(960)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
*「ピーター・ドラッカー・コレクション水墨画名品展」も観覧可。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口よりC-bus(バスのりば16)にて「中央区役所・千葉市美術館前」下車。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
「オーバリン大学 アレン・メモリアル美術館所蔵 メアリー・エインズワース浮世絵コレクション
-初期浮世絵から北斎・広重まで」
2019/4/13~5/26

千葉市美術館で開催中の「メアリー・エインズワース浮世絵コレクション-初期浮世絵から北斎・広重まで」を見てきました。
1906年、アメリカ人のメアリー・エインズワースは、アジアへの旅行の最中、日本で浮世絵に魅了されると、以降、浮世絵版画を収集し続けました。そして約25年の間に1500点ものコレクションを築き上げ、1950年に83歳で亡くなると、母校のオハイオ州にあるオーバリン大学へと寄贈されました。現在は同大学のアレン・メモリアル美術館に収められています。
そのメアリーのコレクションした浮世絵が初めて日本へ里帰りしてきました。初期浮世絵から春信、清長、北斎、写楽、歌麿、広重、そして国芳と、体系だって収集しているのが特徴で、出品点数は200点もありました。

奥村政信 「羽根突きをする美人」 宝永-正徳期(1704-16) アレン・メモリアル美術館
はじまりはメアリーが日本で初めて購入した、石川豊信の「傘と提灯を持つ佐野川市松」でした。提灯を吊り下げつつ、傘を右手で持地ながら、振り返るような仕草を見せる市松の姿を描いていて、穏やかな表情をしつつも、僅かな笑みを浮かべているようにも見えました。メアリーは、ほかの多くのコレクターとは異なり、初期浮世絵から収集をはじめていて、中には現存数の少ない貴重な作品も少なくありません。西村重信の「釈迦涅槃図」なども目を引きました。

鈴木春信「縁先美人(見立無間の鐘)」 明和4(1767)年頃 アレン・メモリアル美術館
続くのが、紅摺絵と錦絵で、中でも鈴木春信が充実していました。また端的に春信とはいえども、現存唯一の天神を表した「天神図」や、大判の歌舞伎絵としては同じくただ1つしか確認されていない「曽我五良時致 朝比奈三良義秀」など珍しい作品も散見されました。さらに輪郭線を用いず、色版のみで描く水絵も、美しいのではないでしょうか。鳥居清満は「菅丞相」において、牛に乗る道真の姿を、淡い色味の水絵で表現していました。

喜多川歌麿「婦人相学十躰 面白キ相」 寛政4-5(1792-93)年頃 アレン・メモリアル美術館
清長に歌麿、写楽らの活動した、浮世絵の黄金期の作品も見逃せません。清長の「洗濯と張り物」は、三枚綴りの画面に、洗濯や布地の張り物に勤しむ女性を描いていて、水にさらす青い布などの鮮やかな色彩に目を奪われました。また同じく清長の「眉を装う芸者」は、芸者が化粧を直す様を表していて、得意の八頭身の美人を、柱絵と呼ばれる縦に長い画面へ落とし込んでいました。この作品も現在、2点しか確認されていないそうです。
鳥文斎栄之の「御殿山の花見」は、品川の海を望んだ御殿山の花見の光景を舞台とした作品で、着物の赤に桜色、そして地面の黄緑が織りなす色のコントラストが大変に鮮やかでした。また歌麿の「美人気量競 五明楼 花扇」は、黒雲母が良く残っていて、女性の白い肌を引き立てていました。さらに歌麿では、7枚綴りの「見立唐人行列」が目立っていたかもしれません。
北斎と国芳は、主に風景画が出展されていました。人気の「冨嶽三十六景 凱風快晴」では、赤茶けた山肌の富士の上に、白い雲の靡く青い空が広がっていて、心なしか状態も良く、発色が美しいようにも思えました。また国芳では風景画とともに、「大物浦平家の亡霊」が大変に魅惑的でした。船に乗って西へと逃れる義経一行を襲った大波と、平家の亡霊を描いていて、亡霊は全てシルエットで表されていました。まるで映像を見るかのような動きもあり、国芳ならではの劇的でかつ臨場感に溢れた作品と言えるのではないでしょうか。

歌川広重「名所江戸百景 両国花火」 安政5(1858)年 アレン・メモリアル美術館
ラストは、メアリーが特に熱心に収集した広重が展示されていました。実際、1500点のコレクションのうち、800点を広重が占めていて、当時はまだ広重が没して50年ほどであったことから、集めやすかったのではないかとも指摘されています。「近江八景」や「東海道五十三次之内」、「名所江戸百景」など、いわゆる名作が網羅されていて、広重の画業を幅広く俯瞰することも出来ました。また「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」では、早摺と後摺の作品が並んで展示されているなど、摺りによって異なる表現を見比べられました。芸者のシルエットや食べ散らかした器物で、宴の後の余韻を表現した「名所江戸百景 月の岬」も見どころかもしれません。この作品を見るたびに、時間の存在を感じてなりません。

勝川春英「三代目瀬川菊之丞の油屋おそめ」 寛政8(1796)年 アレン・メモリアル美術館
2016年に文化庁などの助成によりスタートした、「オーバリン・プロジェクト」が、展覧会の開催のきっかけになったそうです。千葉市美術館や静岡市美術館、大阪市立美術館の学芸員の方々が現地で調査を行い、選定した作品によって構成されていて、浮世絵の通史を追うことも出来ました。質量ともに充実した浮世絵展であることは間違いありません。

如水宗淵「柳堤山水図」 室町時代 旧ピーター・ドラッカー山荘コレクション(千葉市美術館寄託)
なおこれに引き続く「ピーター・ドラッカー・コレクション水墨画名品展」も見応えがありました。経営学者のドラッカーが集めた日本美術コレクションを紹介するもので、室町の水墨画や江戸絵画などが50点ほどが出展されていました。中でも夜の月の下で花を開く梅を描いた、谷文晁の「月夜白梅図」が素晴らしく、淡い月明かりとひんやりとした空気感までが見事に墨で表現されていました。

雪村周継「月夜独釣図」 室町時代 旧ピーター・ドラッカー山荘コレクション(千葉市美術館寄託)
なお一連のコレクションは2015年に、一度、千葉市美術館でも公開されましたが、昨年度、日本の企業によって購入され、同館に寄託されました。いわばお披露目の展覧会でもあります。
4/13〜5/26所蔵作品展「ピーター・ドラッカー・コレクション水墨画名品展」も開催。「マネジメントの父」であり『もしドラ』で知られるドラッカー、実は大変な日本美術愛好者でした。貴重な室町水墨画をはじめ、若冲、蕭白まで、個性的なコレクションのうち51点を紹介します。https://t.co/a2nI5CR07i pic.twitter.com/4PgAC3rC4x
— 千葉市美術館 (@ccma_jp) 2019年4月14日
繰り返しになりますが、「メアリー・エインズワース浮世絵コレクション」と「ピーター・ドラッカー・コレクション水墨画名品展」を合わせると、出展数は実に約250点にも及びます。ともかく膨大です。時間に余裕を持ってお出かけ下さい。

展示替えはありません。5月26日まで開催されています。おすすめします。
「オーバリン大学 アレン・メモリアル美術館所蔵 メアリー・エインズワース浮世絵コレクション-初期浮世絵から北斎・広重まで」 千葉市美術館(@ccma_jp)
会期:2019年4月13日(土)~5月26日(日)
休館:5月7日(火)。
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1200(960)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
*「ピーター・ドラッカー・コレクション水墨画名品展」も観覧可。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口よりC-bus(バスのりば16)にて「中央区役所・千葉市美術館前」下車。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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