都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「大竹伸朗 ビル景 1978-2019」 水戸芸術館
水戸芸術館 現代美術ギャラリー
「大竹伸朗 ビル景 1978-2019」
2019/7/13~10/6

水戸芸術館で開催中の「大竹伸朗 ビル景 1978-2019」を見てきました。
1955年に生まれた現代美術家の大竹伸朗は、絵画、印刷、さらには音や写真を取り入れた立体作品などを手がけ、実に幅広く旺盛に制作を行ってきました。
その大竹は、1970年代から現在に至る約40年もの間、「ビル景」なる作品を描き続けてきました。それでは一体、どのような作品が展開していたのでしょうか。

「大竹伸朗 ビル景 1978-2019」会場風景
会場内に足を踏み入れて驚きました。目の前に広がるのが、一部に建物の影らしき存在こそ確認出来るものの、多くは大胆な筆触によって表された、おおよそビルを捉えたとは言い難い絵画で、油彩のみならず、インクやグワッシュ、木炭と、さらに厚紙などを取り入れたコラージュとも呼べうる作品でした。

大竹伸朗「Bldg.(タンジールにて)」 1996〜2002 個人蔵
実際にも大竹は、あくまでも世界の都市のビルや風景をそのままに描いているわけではなく、自身に記憶した都市の「湿度や熱、騒音、匂い」などを「ビルという形を伴って」描き出していました。言い換えれば、都市に住む人間のエネルギー、あるいは経済活動や気候などの現象までを絵画に表現しているのかもしれません。*「」内は解説より

大竹伸朗「バグレイヤー/東京 I」 2000〜2001 個人蔵
とはいえ、タイトルに目を向けると、東京やジェノヴァ、ニューヨーク、ナイロビなど、特定の都市の名も記されていて、あくまでも想像に過ぎないせよ、大竹が各都市をモチーフにしていることが見て取れました。
さすがに40年間に渡って制作し続けているだけあり、「ビル景」の作風を一様に捉えることは出来ません。そして中にはクレー、またキーファーらのドイツの新表現主義など、抽象を思わせる作品も少なくありませんでした。確かに全ては大竹のビルの記憶から引き出されているものの、もはや1人の画家の作品とは思えないほどに多様とも言えるかもしれません。

大竹伸朗「東京ープエルト・リコ」 1986 公益財団法人 福武財団
大竹がビルをモチーフとして初めて意識したのは、1979年から80年台前半に度々訪れた香港での出来事でした。そこで何気なく見ていたビルが「自分自身と強烈に同期」と感じ、「すべてを絵の中に閉じ込めたい」と考えたそうです。*「」内は解説より

大竹伸朗「街、香港」 1979.10.4 他
一連の小さなスケッチにはもはや書き殴りのような線が広がっていて、大竹が各都市で体感した感興なり記憶が即興的に示されているかのようでした。一方で分厚い画肌を伴う油彩などは、色や絵具などの素材の向こうに都市の心象的なイメージが見え隠れしてました。

左:大竹伸朗「Bldg.青」 2003
ともかく大竹の筆の息遣いがダイレクトに感じられる作品ばかりで、しばらく目にしていると、筆へ憑依した都市の熱気を浴びているような錯覚に囚われるほどでした。また一様ではない作品は、時代によって変化する都市の多面的な有り様を示しているようで、まるで生き物のようにも思えました。

左:大竹伸朗「ビルと飛行機、N.Y.1」 2001.11.12〜11.16
右:大竹伸朗「ビルと飛行機、N.Y.2」 2001.12.25
何物か判然とし難い作品も少なくない中、明らかに特定の都市における事象なりを描いた作品もありました。例えば「ビルと飛行機、N.Y.1」などで、2本のビルらしき影の上を進む飛行機を暗がりの画面に捉えていました。それは紛れもなく9.11、すなわちアメリカ同時多発テロ事件であり、ワールドトレードセンターへ衝突する飛行機を彷彿させてなりませんでした。

左:大竹伸朗「ビル/赤」 2005.3.7〜2008.2.7
右:大竹伸朗「赤いビル」 2003〜2006.10.6
「ビル/赤」にも目を奪われました。血のように赤く塗られた画面には、白い四角にてビルと思しきシルエットが浮かび上がっていて、まるで燃え上がるような姿を見せていました。

中央:大竹伸朗「白壁のビル1」 2017.9.26 他
一連のビルのスケールも当然ながら一定ではなく、遠景から捉えているようであり、また街中に入り込んで、店頭からビルの中を覗き込んでいるようなイメージの作品もありました。大竹はそれこそ変幻自在な視点で都市風景を眺めているのかもしれません。

「大竹伸朗 ビル景 1978-2019」会場風景
作品は平面と立体を問わず、水戸芸術館のギャラリーの空間を埋め尽くすように並んでいて、約600点に及んでいました。同館としては過去最大の出展点数でもあるそうです。

「大竹伸朗 ビル景 1978-2019」会場風景
率直なところ、あまりにもの数ゆえに途方に暮れてしまった面もありましたが、時に激しく熱気を帯びた作品に圧倒されるものを感じました。
作品番号298「遠景の赤いビル」以外は全作品の撮影も可能でした。ただし生々しく、絵具の爛れたような独特の画肌の質感は、とても写真では伝わりそうもありません。

「大竹伸朗 ビル景 1978-2019」会場風景
何か強く惹きつける力があったのかもしれません。気がつけば会場内を2巡、3巡していました。

「大竹伸朗 ビル景 1978-2019」会場入口
10月6日まで開催されています。おすすめします。
「大竹伸朗 ビル景 1978-2019」 水戸芸術館 現代美術ギャラリー(@MITOGEI_Gallery)
会期:2019年7月13日(土)~10月6日(日)
休館:月曜日。但し7月15日、8月12日、9月16日、9月23日(月・祝/振)は開館し、7月16日、8月13日、9月17日、9月24日(火)は休館。
時間:9:30~18:00
*入館は17:30まで。
料金:一般900円、団体(20名以上)700円。高校生以下、70歳以上は無料。
住所:水戸市五軒町1-6-8
交通:JR線水戸駅北口バスターミナル4~7番のりばから「泉町1丁目」下車。徒歩2分。
「大竹伸朗 ビル景 1978-2019」
2019/7/13~10/6

水戸芸術館で開催中の「大竹伸朗 ビル景 1978-2019」を見てきました。
1955年に生まれた現代美術家の大竹伸朗は、絵画、印刷、さらには音や写真を取り入れた立体作品などを手がけ、実に幅広く旺盛に制作を行ってきました。
その大竹は、1970年代から現在に至る約40年もの間、「ビル景」なる作品を描き続けてきました。それでは一体、どのような作品が展開していたのでしょうか。

「大竹伸朗 ビル景 1978-2019」会場風景
会場内に足を踏み入れて驚きました。目の前に広がるのが、一部に建物の影らしき存在こそ確認出来るものの、多くは大胆な筆触によって表された、おおよそビルを捉えたとは言い難い絵画で、油彩のみならず、インクやグワッシュ、木炭と、さらに厚紙などを取り入れたコラージュとも呼べうる作品でした。

大竹伸朗「Bldg.(タンジールにて)」 1996〜2002 個人蔵
実際にも大竹は、あくまでも世界の都市のビルや風景をそのままに描いているわけではなく、自身に記憶した都市の「湿度や熱、騒音、匂い」などを「ビルという形を伴って」描き出していました。言い換えれば、都市に住む人間のエネルギー、あるいは経済活動や気候などの現象までを絵画に表現しているのかもしれません。*「」内は解説より

大竹伸朗「バグレイヤー/東京 I」 2000〜2001 個人蔵
とはいえ、タイトルに目を向けると、東京やジェノヴァ、ニューヨーク、ナイロビなど、特定の都市の名も記されていて、あくまでも想像に過ぎないせよ、大竹が各都市をモチーフにしていることが見て取れました。
さすがに40年間に渡って制作し続けているだけあり、「ビル景」の作風を一様に捉えることは出来ません。そして中にはクレー、またキーファーらのドイツの新表現主義など、抽象を思わせる作品も少なくありませんでした。確かに全ては大竹のビルの記憶から引き出されているものの、もはや1人の画家の作品とは思えないほどに多様とも言えるかもしれません。

大竹伸朗「東京ープエルト・リコ」 1986 公益財団法人 福武財団
大竹がビルをモチーフとして初めて意識したのは、1979年から80年台前半に度々訪れた香港での出来事でした。そこで何気なく見ていたビルが「自分自身と強烈に同期」と感じ、「すべてを絵の中に閉じ込めたい」と考えたそうです。*「」内は解説より

大竹伸朗「街、香港」 1979.10.4 他
一連の小さなスケッチにはもはや書き殴りのような線が広がっていて、大竹が各都市で体感した感興なり記憶が即興的に示されているかのようでした。一方で分厚い画肌を伴う油彩などは、色や絵具などの素材の向こうに都市の心象的なイメージが見え隠れしてました。

左:大竹伸朗「Bldg.青」 2003
ともかく大竹の筆の息遣いがダイレクトに感じられる作品ばかりで、しばらく目にしていると、筆へ憑依した都市の熱気を浴びているような錯覚に囚われるほどでした。また一様ではない作品は、時代によって変化する都市の多面的な有り様を示しているようで、まるで生き物のようにも思えました。

左:大竹伸朗「ビルと飛行機、N.Y.1」 2001.11.12〜11.16
右:大竹伸朗「ビルと飛行機、N.Y.2」 2001.12.25
何物か判然とし難い作品も少なくない中、明らかに特定の都市における事象なりを描いた作品もありました。例えば「ビルと飛行機、N.Y.1」などで、2本のビルらしき影の上を進む飛行機を暗がりの画面に捉えていました。それは紛れもなく9.11、すなわちアメリカ同時多発テロ事件であり、ワールドトレードセンターへ衝突する飛行機を彷彿させてなりませんでした。

左:大竹伸朗「ビル/赤」 2005.3.7〜2008.2.7
右:大竹伸朗「赤いビル」 2003〜2006.10.6
「ビル/赤」にも目を奪われました。血のように赤く塗られた画面には、白い四角にてビルと思しきシルエットが浮かび上がっていて、まるで燃え上がるような姿を見せていました。

中央:大竹伸朗「白壁のビル1」 2017.9.26 他
一連のビルのスケールも当然ながら一定ではなく、遠景から捉えているようであり、また街中に入り込んで、店頭からビルの中を覗き込んでいるようなイメージの作品もありました。大竹はそれこそ変幻自在な視点で都市風景を眺めているのかもしれません。

「大竹伸朗 ビル景 1978-2019」会場風景
作品は平面と立体を問わず、水戸芸術館のギャラリーの空間を埋め尽くすように並んでいて、約600点に及んでいました。同館としては過去最大の出展点数でもあるそうです。

「大竹伸朗 ビル景 1978-2019」会場風景
率直なところ、あまりにもの数ゆえに途方に暮れてしまった面もありましたが、時に激しく熱気を帯びた作品に圧倒されるものを感じました。
【開催中】大竹伸朗 ビル景 1978-2019「ビル景」という絵画シリーズを圧倒的なスケールで展示する大竹伸朗の個展。館内ショップでは、当館オリジナルの「ビル景」Tシャツほか、大竹伸朗の画集、書籍、CDなどを多数取り扱い中。ぜひお立ち寄りください。https://t.co/OOvIBUJZhA pic.twitter.com/oMT6X6lmUm
— 水戸芸術館 (公式) (@art_tower_mito) August 12, 2019
作品番号298「遠景の赤いビル」以外は全作品の撮影も可能でした。ただし生々しく、絵具の爛れたような独特の画肌の質感は、とても写真では伝わりそうもありません。

「大竹伸朗 ビル景 1978-2019」会場風景
何か強く惹きつける力があったのかもしれません。気がつけば会場内を2巡、3巡していました。

「大竹伸朗 ビル景 1978-2019」会場入口
10月6日まで開催されています。おすすめします。
「大竹伸朗 ビル景 1978-2019」 水戸芸術館 現代美術ギャラリー(@MITOGEI_Gallery)
会期:2019年7月13日(土)~10月6日(日)
休館:月曜日。但し7月15日、8月12日、9月16日、9月23日(月・祝/振)は開館し、7月16日、8月13日、9月17日、9月24日(火)は休館。
時間:9:30~18:00
*入館は17:30まで。
料金:一般900円、団体(20名以上)700円。高校生以下、70歳以上は無料。
住所:水戸市五軒町1-6-8
交通:JR線水戸駅北口バスターミナル4~7番のりばから「泉町1丁目」下車。徒歩2分。
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