「歌川豊国―写楽を超えた男」 太田記念美術館

太田記念美術館
「生誕250年記念 歌川豊国―写楽を超えた男」
2019/9/3~9/29



太田記念美術館で開催中の「生誕250年記念 歌川豊国―写楽を超えた男」を見てきました。

歌川派の創始者、豊春の元で習い、主に寛政時代に役者絵で世を席巻した歌川豊国は、今年で生誕250年を迎えました。

それを期して行われているのが「歌川豊国―写楽を超えた男」展で、単に役者絵だけではなく、美人画や版本、挿絵など、初期から晩年までの作品、約140件(展示替えを含む)ほどが出展されていました。

主に錦絵で知られる豊国でしたが、肉筆にも見逃せない作品がありました。「炬燵の美人図」は、ひざ下から炬燵布団に入った女性が、右ひじを床につきつつ、横たわりながら真剣な面持ちで書物に目を通す姿を描いていて、炬燵の上には一匹の猫が丸まった様子も見ることが出来ました。豊国の細かな筆使いが伝わるのではないでしょうか。


歌川豊国「愛宕山夏景色」 太田記念美術館

豊国の描く美人画は、妖艶な女性を表した歌麿とは異なり、「健康的」(解説より)で温和な表情をした女性でした。その一例でもあるのが、「愛宕山夏景色」で、刀を持った若い男を中央に、左右でお茶などを飲もうとする複数の女性を描いていました。いずれも物静かな表情をしていて、一人一人に異なった着衣の細かな文様なども魅力的と言えるかもしれません。

役者絵の出世作となったのは、寛政6年の正月から売り出され、歌舞伎役者の姿を描いた「役者舞台之姿絵」なる連作でした。同じ年の5月には写楽も大首絵でデビューを果たし、当時、既に人気を集めていた勝川春英と三つ巴の争いとなりましたが、写楽は10ヶ月にして姿を消し、春英も数年後は手を引くなど、豊国が役者絵の「トップランナー」(解説より)としての地位を築きました。


大首絵の「三代目市川八百蔵」に見惚れました。睨みをきかす役者を躍動的な姿で捉えていて、目の周りには虹色の色彩が広がり、背景の雲母も美しく残っているなど、保存の状態も良好でした。まるで役者の演じる熱気も伝わるような迫力も感じられるかもしれません。

人気役者の日常の一コマを美人とともに捉えた「夜舟の宗十郎」にも魅せられました。ちょうど船着場に着いた三代目沢村宗十郎と、その姿を見ては驚く女性を対比的に描いていて、提灯から洩れる白いあかりなど、夜の情景も巧みに表していました。船が進む横への動きと、女性が宗十郎を見遣る縦の動きが見事にクロスしていて、どこか映像を目の当たりにするような印象も与えられました。まさに人気スターが目の前に現れた一瞬の出来事を描いた作品と呼べそうです。

この他、子どもが障子の腰板の前で遊ぶ「子供の戯れ」や、上下で芝居の舞台の内外を描いた「中村座場内・場外図」も面白い作品でした。後者では、大勢の人がひしめき合いながら飲食を共にしつつ、芝居を楽しそうに観覧していて、観劇の賑やかな様子がひしひしと伝わってきました。

てっきり館蔵品による豊国展かと思いきや、千葉市美術館や東京国立博物館、さらに日本浮世絵博物館やたばこと塩の博物館、個人のコレクションが加わるなど、他館の作品も目立っていました。いつもながらにスペースこそ制約がありますが、近年の豊国展の決定版としても良いのではないでしょうか。

なお太田記念美術館では、今秋、この歌川豊国展を筆頭に「秋の歌川派フェスタ」と題し、歌川派に関した展覧会を連続して開催されます。



「秋の歌川派フェスタ 豊国から国芳、芳年へ」
1.「生誕250年記念 歌川豊国―写楽を超えた男」展 9/3~9/29
2.「歌川国芳―父の画業と娘たち」展 10/4~10/27
3.「ラスト・ウキヨエ 浮世絵を継ぐ者たち―悳俊彦コレクション」展 11/2~12/22

3つの展覧会の全てに来場すると、先着順にて国芳の猫を引用したオリジナルの「ほめ猫エコバック」がプレゼントされます。引き換えは「ラスト・ウキヨエ展」のスタートする11月2日からで、なくなり次第、終了します。(各展覧会チケット3種類とプレゼント1つ引き換え。)

特に歌川派から国芳系の作品を展観する構成となっているそうです。私も3つの展覧会のコンプリートを目指したいと思います。



間もなく会期末です。9月29日まで開催されています。

「生誕250年記念 歌川豊国―写楽を超えた男」 太田記念美術館@ukiyoeota
会期:2019年9月3日(火)~9月29日(日)
休館:9月9日(月)、17日(火)、24日(火)。
時間:10:30~17:30(入館は17時まで)
料金:一般1000円、大・高生700円、中学生以下無料。
住所:渋谷区神宮前1-10-10
交通:東京メトロ千代田線・副都心線明治神宮前駅5番出口より徒歩3分。JR線原宿駅表参道口より徒歩5分。
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