都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「ロイス・ワインバーガー展」 ワタリウム美術館
ワタリウム美術館
「ロイス・ワインバーガー展」
2019/7/13~10/20

ワタリウム美術館で開催中の「ロイス・ワインバーガー展」を見てきました。
オーストリア出身のロイス・ワインバーガー(1947年〜)は、1970年代から植物を素材とした作品を手がけ、生態や環境の様々な問題を扱いつつ、アートの立場から自然に向き合ってきました。
ワインバーガーの生まれた地は、アルプス山脈東部に広がるチロル地方の山間部で、子どもの頃から両親の農場で動物や植物に接し、土着の風習や儀式に参加していました。そして植物を集めたり、虫の足を数えたりするなど、自然に近しい生活を送っていました。

右:「無題(かぼちゃ)」 1978年
さらに約16年間、鉄骨工の仕事をしながら、農場を手伝ったり、文筆や演劇制作、ドローイングを描くなどして活動してきました。結果的にアートの分野のみに絞って活動したのは30歳の頃で、ウィーンの自邸で育てた荒地植物を別の地域に植える、ガーデン・プロジェクトを展開していきました。

「ブランデンブルク門」 1994年
この荒地植物とは、アスファルトやゴミ捨て場など、本来的に植物の生育に向かない場所に生える雑草のことで、ワインバーガーは「生活を脅かす厄介者であり、人間の作り上げた枠組みへの反抗者」(解説より)として捉えていました。1994年には、ベルリンのブランデンブルク門の周囲の雑草に水を遣るパフォーマンスを行うなど、中心ではなく周縁、ないし雑草のような些細な存在に目を向けてきました。

右:「植物を越えるものは植物と一体である」 1997年 ドクメンタX ドイツ、カッセル
「植物を越えるものは植物と一体である」は、1997年にドイツのカッセルで開かれた現代美術展「ドクメンタ」への出展作品で、同市の使われていない古い線路の除草剤を取り除いては、外来種の荒地植物を植えて庭へと変えました。ワインバーガーは線路に根付いた外来種を、当時、ドイツに増加していた移民になぞらえていました。

「落葉」 2009年 第53回ベニス・ビエンナーレ、オーストリア館、イタリア、ベニス
落ち葉をうずたかく積み上げたのが、2009年の第53回ベニス・ビエンナーレのオーストリア館に出展した「落葉」でした。小屋の中の枯葉は、時間を経て腐敗して小さくなると、さらに枯れ葉を重ねていったそうです。いわば葉から堆肥、ないし土へと変化するプロセスを視覚化させた作品なのかもしれません。

「小道ー体制転覆的な空間攻略」 2019年
壁一面に広がった「小道ー体制転覆的な空間攻略」にも目を奪われました。何やら赤い曲線が上下左右に伸びていましたが、実際には木を食べて生きるキクイムシが樹皮をかじった跡を壁画にした作品でした。まるで洞窟の断面図、あるいは生き物の触手のように見えるかもしれません。

手前:「モバイル・ランドスケープ」 2003年 *この窓越しに「ポータブル・ガーデン」が見えます。
美術館の外へと展示が続いていました。それがカラフルなショッピングバケツに畑の土を詰め、別の場所に運んで置く「ポータブル・ガーデン(持ち運びできる庭)」なる作品でした。ワインバーガーによれば、土の中に入っていた種によって植物は誕生し、いずれ袋が風化すると、新しい土と成長した植物が一体化するとしています。それにしてもバックは一体、どこへ運ばれたのでしょうか。

「ポータブル・ガーデン(持ち運びできる庭)」のある空き地
答えは美術館の前の外苑西通りを挟んだ反対側にある、雑草が生い茂る小さな空き地でした。建物にも挟まれたスペースゆえに、おおよそ人目につきやすい場所とは言えません。

「ポータブル・ガーデン(持ち運びできる庭)」 2019年
敷地の外からバックを覗き込むと、僅かながらも草が生えていることが見て取れました。ワインバーガーは移動する植物を、先のドクメンタへの出品作と同様、移民に重ねているそうですが、今後、長い歳月を得ると、朽ちた袋から植物が土へ移り、東京の大地に根ざしていくのかもしれません。
ワインバーガーとワタリウム美術館の関係は何も今に始まったわけではありません。1999年、ワタリウム美術館で開催されたグループ展「エンプティ・ガーデン」に出展すると、約1年前に来日し、建物の屋上に荒地植物の庭を制作しました。そこではワインバーガーが持ち込んだヨーロッパの種と日本の植物が共存することを意図したとしています。

左:「ワタリウム美術館の屋上庭園」 2019年
その後、屋上の庭園は約20年間放置されましたが、今回の個展において改めて立ち入り、雑草をピンクの紐で結んで作品に仕上げました。まさに20年越しです。この場所だからこそあっての個展と言えるかもしれません。
またワインバーガーは現在、宮城県石巻市で開催中の「リボーン・アートフェスティバル2019」(9月29日まで)にも参加し、網地島エリアにてインスタレーションや壁画など7点の作品を公開しています。
「網地島エリア | ロイス・ワインバーガー」リボーン・アートフェスティバル2019
https://www.reborn-art-fes.jp/artist/loisweinberger

「無題」 1996年
それにしても端的に植物を素材とした作品とはいえども、ワインバーグの制作は極めて独創的と言えるのではないでしょうか。ユーモラスまでのオブジェなどはもとより、自然を扱いつつも、社会的な問題にまで意識したワインバーガーの幅広い視点と創造力に感心させられました。

「ロイス・ワインバーガー展」会場風景
個人での利用に限り、会場内の撮影が可能でした。SNS(個人アカウントに限り)にもアップすることが出来ます。
10月20日まで開催されています。
「ロイス・ワインバーガー展」 ワタリウム美術館 (@watarium)
会期:2019年7月13日(土)~10月20日(日)
休館:月曜日。但し7月15日、8月12日、9月16日、9月23日、10月14日は開館。
時間:11:00~19:00
*毎週金曜日は21時まで開館。
料金:一般1000円、25歳以下(学生)800円、小・中学生500円、70歳以上700円。
*ペア券:大人2人1600 円、学生2人1200 円
*グリーンPass:1500円(本人に限り、会期中何度でも入場可。)
住所:渋谷区神宮前3-7-6
交通:東京メトロ銀座線外苑前駅より徒歩8分。
「ロイス・ワインバーガー展」
2019/7/13~10/20

ワタリウム美術館で開催中の「ロイス・ワインバーガー展」を見てきました。
オーストリア出身のロイス・ワインバーガー(1947年〜)は、1970年代から植物を素材とした作品を手がけ、生態や環境の様々な問題を扱いつつ、アートの立場から自然に向き合ってきました。
ワインバーガーの生まれた地は、アルプス山脈東部に広がるチロル地方の山間部で、子どもの頃から両親の農場で動物や植物に接し、土着の風習や儀式に参加していました。そして植物を集めたり、虫の足を数えたりするなど、自然に近しい生活を送っていました。

右:「無題(かぼちゃ)」 1978年
さらに約16年間、鉄骨工の仕事をしながら、農場を手伝ったり、文筆や演劇制作、ドローイングを描くなどして活動してきました。結果的にアートの分野のみに絞って活動したのは30歳の頃で、ウィーンの自邸で育てた荒地植物を別の地域に植える、ガーデン・プロジェクトを展開していきました。

「ブランデンブルク門」 1994年
この荒地植物とは、アスファルトやゴミ捨て場など、本来的に植物の生育に向かない場所に生える雑草のことで、ワインバーガーは「生活を脅かす厄介者であり、人間の作り上げた枠組みへの反抗者」(解説より)として捉えていました。1994年には、ベルリンのブランデンブルク門の周囲の雑草に水を遣るパフォーマンスを行うなど、中心ではなく周縁、ないし雑草のような些細な存在に目を向けてきました。

右:「植物を越えるものは植物と一体である」 1997年 ドクメンタX ドイツ、カッセル
「植物を越えるものは植物と一体である」は、1997年にドイツのカッセルで開かれた現代美術展「ドクメンタ」への出展作品で、同市の使われていない古い線路の除草剤を取り除いては、外来種の荒地植物を植えて庭へと変えました。ワインバーガーは線路に根付いた外来種を、当時、ドイツに増加していた移民になぞらえていました。

「落葉」 2009年 第53回ベニス・ビエンナーレ、オーストリア館、イタリア、ベニス
落ち葉をうずたかく積み上げたのが、2009年の第53回ベニス・ビエンナーレのオーストリア館に出展した「落葉」でした。小屋の中の枯葉は、時間を経て腐敗して小さくなると、さらに枯れ葉を重ねていったそうです。いわば葉から堆肥、ないし土へと変化するプロセスを視覚化させた作品なのかもしれません。

「小道ー体制転覆的な空間攻略」 2019年
壁一面に広がった「小道ー体制転覆的な空間攻略」にも目を奪われました。何やら赤い曲線が上下左右に伸びていましたが、実際には木を食べて生きるキクイムシが樹皮をかじった跡を壁画にした作品でした。まるで洞窟の断面図、あるいは生き物の触手のように見えるかもしれません。

手前:「モバイル・ランドスケープ」 2003年 *この窓越しに「ポータブル・ガーデン」が見えます。
美術館の外へと展示が続いていました。それがカラフルなショッピングバケツに畑の土を詰め、別の場所に運んで置く「ポータブル・ガーデン(持ち運びできる庭)」なる作品でした。ワインバーガーによれば、土の中に入っていた種によって植物は誕生し、いずれ袋が風化すると、新しい土と成長した植物が一体化するとしています。それにしてもバックは一体、どこへ運ばれたのでしょうか。

「ポータブル・ガーデン(持ち運びできる庭)」のある空き地
答えは美術館の前の外苑西通りを挟んだ反対側にある、雑草が生い茂る小さな空き地でした。建物にも挟まれたスペースゆえに、おおよそ人目につきやすい場所とは言えません。

「ポータブル・ガーデン(持ち運びできる庭)」 2019年
敷地の外からバックを覗き込むと、僅かながらも草が生えていることが見て取れました。ワインバーガーは移動する植物を、先のドクメンタへの出品作と同様、移民に重ねているそうですが、今後、長い歳月を得ると、朽ちた袋から植物が土へ移り、東京の大地に根ざしていくのかもしれません。
ワインバーガーとワタリウム美術館の関係は何も今に始まったわけではありません。1999年、ワタリウム美術館で開催されたグループ展「エンプティ・ガーデン」に出展すると、約1年前に来日し、建物の屋上に荒地植物の庭を制作しました。そこではワインバーガーが持ち込んだヨーロッパの種と日本の植物が共存することを意図したとしています。

左:「ワタリウム美術館の屋上庭園」 2019年
その後、屋上の庭園は約20年間放置されましたが、今回の個展において改めて立ち入り、雑草をピンクの紐で結んで作品に仕上げました。まさに20年越しです。この場所だからこそあっての個展と言えるかもしれません。
またワインバーガーは現在、宮城県石巻市で開催中の「リボーン・アートフェスティバル2019」(9月29日まで)にも参加し、網地島エリアにてインスタレーションや壁画など7点の作品を公開しています。
ART▶︎ロイス・ワインバーガーさん滞在中です。網地島エリアに6ヶ所の野外作品を発表します。8.20 - 9.27#和多利恵津子 #EtsukoWatari #和多利浩一 #KoichiWatari #ワタリウム美術館 #ワタリウム #watarium #ロイスワインバーガー #LoisWeinberger #網地島 #Ajishima #RAF2019 #芸術祭 #art pic.twitter.com/tQ4ZEhufgl
— Reborn-Art Festival (@Reborn_Art_Fes) July 16, 2019
「網地島エリア | ロイス・ワインバーガー」リボーン・アートフェスティバル2019
https://www.reborn-art-fes.jp/artist/loisweinberger

「無題」 1996年
それにしても端的に植物を素材とした作品とはいえども、ワインバーグの制作は極めて独創的と言えるのではないでしょうか。ユーモラスまでのオブジェなどはもとより、自然を扱いつつも、社会的な問題にまで意識したワインバーガーの幅広い視点と創造力に感心させられました。

「ロイス・ワインバーガー展」会場風景
個人での利用に限り、会場内の撮影が可能でした。SNS(個人アカウントに限り)にもアップすることが出来ます。
10月20日まで開催されています。
「ロイス・ワインバーガー展」 ワタリウム美術館 (@watarium)
会期:2019年7月13日(土)~10月20日(日)
休館:月曜日。但し7月15日、8月12日、9月16日、9月23日、10月14日は開館。
時間:11:00~19:00
*毎週金曜日は21時まで開館。
料金:一般1000円、25歳以下(学生)800円、小・中学生500円、70歳以上700円。
*ペア券:大人2人1600 円、学生2人1200 円
*グリーンPass:1500円(本人に限り、会期中何度でも入場可。)
住所:渋谷区神宮前3-7-6
交通:東京メトロ銀座線外苑前駅より徒歩8分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )