都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「コレクション 4つの水紋」 埼玉県立近代美術館
埼玉県立近代美術館
「コレクション 4つの水紋」
2021/3/23~5/16
埼玉県立近代美術館で開催中の「コレクション 4つの水紋」を見てきました。
1982年、北浦和公園内に開館した埼玉県立近代美術館は、印象派以降の西洋絵画と埼玉県ゆかりの作家の作品などを中心に収集を続け、企画展や常設展などで広く公開してきました。
そのコレクションの一端を4名の作家を起点に紹介するのが「コレクション 4つの水紋」で、西洋画や日本画、あるいは現代美術の作家の作品、約130点が展示されていました。
ポール・シニャック「アニエールの河岸」 1885年
まず最初の起点となったのが、近年に収蔵されたポール・シニャックの「アニエールの河岸」でした。パリ北西部の街の景色を暖色を基調とした淡い色彩により描いていて、印象派の影響を伺わせるものの、水面などには後の画風を予兆させる細かな点描のような筆触も見られました。
跡見泰「石川島」 1930(昭和5)年
そしてこの「アニエールの河岸」からピックアップされたのが、水辺の景色と点描表現による作品でした。
モーリス・ドニ「トレストリニェルの岩場」 1920年
今回の展覧会で面白いのは、西洋と東洋、あるいは古典や現代を区別せず、それぞれのテーマから作品を並べていることで、例えば水の景色では跡見泰の「石川島」や森田恒友の「着船」とともに、モーリス・ドニの「トレストリニェルの岩場」などが展示されていました。
左:難波田龍起「水のある街」 1969(昭和44)年 ほか
右:難波田史男「湖の孤独」 1970(昭和45)年
また抽象表現とも受け取れる難波田龍起の「水のある街」や、湖上に一人で船を寂しく浮かべた光景を描いたような難波田史男の「湖の孤独」といった、難波田父子の作品も見どころだったかもしれません。
右:速水御舟「夏の丹波路」 1915(大正4)年
左手前:斎藤豊作「初冬の朝」 1914(大正3)年
さらに点描においても、里山を緑色の斑点で表した速水御舟の「夏の丹波路」と一緒に、網目状の点でモネの絵画を引用したロイ・リキテンスタインの「積みわら7」が並んでいて、洋の東西を超えた作品の邂逅に見入るものがありました。
奥原晴湖「秋景山水図」
続く2人目の作家として登場したのが、幕末から明治初期にかけて水墨山水画を描き、後半生を熊谷で過ごした埼玉ゆかりの南画家、奥原晴海でした。ここでは奥原の水墨画とともに、南画に特徴的な絵画と言葉が親密な関係にある作品などが合わせて並んでいました。
奥原晴湖「仙境群鶴」 1905(明治38)年
「仙境群鶴」は奥原が南画とともに得意としていた花鳥画の優品で、桃や薔薇、松などを背景に純白の羽をつけた鶴が集う光景を、極めて鮮やかでかつ艶やかな色彩で描いていました。
佐伯祐三「門と広告」 1925(大正14)年
また絵と言葉の観点から取り上げられた佐伯祐三の「門と広告」も魅惑的な作品ではないでしょうか。パリで住んでいたリュ・デュ・シャトーの街角の門に貼られたポスターを描いていて、それぞれに素早い筆致による文字らしき線がリズミカルに刻まれていました。
重村三雄「立ち話」 1993(平成5)年
奄美大島に生まれ、埼玉で没した彫刻家、重村三雄も、今回の展覧会のキーパーソンの1人でした。ここでは犬の散歩といった日常的な光景を表した重村の「立ち話」をはじめ、橋本真之の「作品115 運動膜(内的な水辺)」などの重厚な彫刻が目立っていました。
さて「コレクション 4つの水紋」にて私が最も魅力的に感じたのが、シャルロット・ペリアンによる椅子を中心としたデザインの展示でした。
「椅子の美術館より」 シャルロット・ペリアン 展示風景
そもそも埼玉県立近代美術館は「椅子の美術館」と呼ばれるほどモダンデザインによる椅子をコレクションしていて、館内では自由に座りながら鑑賞する場も設けてきました。
「椅子の美術館より」 シャルロット・ペリアン 展示風景
会場ではシャルロット・ペリアンをはじめ、柳宗理や剣持勇の椅子ともに、ペリアンと親交のあったレジェや室内装飾に用いていたミロのタペストリーなどが並んでいて、多様なデザインを楽しむことができました。
手前:ル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアン「LC4 シェーズロング」 デザイン:1928年 製品化:1930年
右:レオナール・フジタ「横たわる裸婦と猫」 1931(昭和6)年
また横になる椅子から横たわる動作に着目し、フジタの「横たわる裸婦」や古賀春江の「コンポジション」などが並ぶ展示も面白いのではないでしょうか。いずれも展覧会のハイライトを築き上げていました。
クロード・モネ「ジヴェルニーの積みわら、夕日」 1888〜1889年
4月27日より後期展示に入りました。前期より一部作品が展示替えが行われましたが、以降、会期末までの入れ替えはありません。
古賀春江「コンポジション」 1930(昭和5)年頃
予約は不要です。入場時に検温と手指の消毒の他、連絡先などを記した入館者カードを提出する必要があります。
ヴェルナー・パントン「パントンチェア」 デザイン:1959〜1960年 製品化:1968年
一部を除き、会場内と作品の撮影が可能でした。
5月16日まで開催されています。
「コレクション 4つの水紋」 埼玉県立近代美術館(@momas_kouhou)
会期:2021年3月23日 (火) ~5月16日 (日)
休館:月曜日。但し5月3日は開館。
時間:10:00~17:30
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円 、大高生800(640)円、中学生以下は無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*MOMASコレクション(常設展)も観覧可。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
「コレクション 4つの水紋」
2021/3/23~5/16
埼玉県立近代美術館で開催中の「コレクション 4つの水紋」を見てきました。
1982年、北浦和公園内に開館した埼玉県立近代美術館は、印象派以降の西洋絵画と埼玉県ゆかりの作家の作品などを中心に収集を続け、企画展や常設展などで広く公開してきました。
そのコレクションの一端を4名の作家を起点に紹介するのが「コレクション 4つの水紋」で、西洋画や日本画、あるいは現代美術の作家の作品、約130点が展示されていました。
ポール・シニャック「アニエールの河岸」 1885年
まず最初の起点となったのが、近年に収蔵されたポール・シニャックの「アニエールの河岸」でした。パリ北西部の街の景色を暖色を基調とした淡い色彩により描いていて、印象派の影響を伺わせるものの、水面などには後の画風を予兆させる細かな点描のような筆触も見られました。
跡見泰「石川島」 1930(昭和5)年
そしてこの「アニエールの河岸」からピックアップされたのが、水辺の景色と点描表現による作品でした。
モーリス・ドニ「トレストリニェルの岩場」 1920年
今回の展覧会で面白いのは、西洋と東洋、あるいは古典や現代を区別せず、それぞれのテーマから作品を並べていることで、例えば水の景色では跡見泰の「石川島」や森田恒友の「着船」とともに、モーリス・ドニの「トレストリニェルの岩場」などが展示されていました。
左:難波田龍起「水のある街」 1969(昭和44)年 ほか
右:難波田史男「湖の孤独」 1970(昭和45)年
また抽象表現とも受け取れる難波田龍起の「水のある街」や、湖上に一人で船を寂しく浮かべた光景を描いたような難波田史男の「湖の孤独」といった、難波田父子の作品も見どころだったかもしれません。
右:速水御舟「夏の丹波路」 1915(大正4)年
左手前:斎藤豊作「初冬の朝」 1914(大正3)年
さらに点描においても、里山を緑色の斑点で表した速水御舟の「夏の丹波路」と一緒に、網目状の点でモネの絵画を引用したロイ・リキテンスタインの「積みわら7」が並んでいて、洋の東西を超えた作品の邂逅に見入るものがありました。
奥原晴湖「秋景山水図」
続く2人目の作家として登場したのが、幕末から明治初期にかけて水墨山水画を描き、後半生を熊谷で過ごした埼玉ゆかりの南画家、奥原晴海でした。ここでは奥原の水墨画とともに、南画に特徴的な絵画と言葉が親密な関係にある作品などが合わせて並んでいました。
奥原晴湖「仙境群鶴」 1905(明治38)年
「仙境群鶴」は奥原が南画とともに得意としていた花鳥画の優品で、桃や薔薇、松などを背景に純白の羽をつけた鶴が集う光景を、極めて鮮やかでかつ艶やかな色彩で描いていました。
佐伯祐三「門と広告」 1925(大正14)年
また絵と言葉の観点から取り上げられた佐伯祐三の「門と広告」も魅惑的な作品ではないでしょうか。パリで住んでいたリュ・デュ・シャトーの街角の門に貼られたポスターを描いていて、それぞれに素早い筆致による文字らしき線がリズミカルに刻まれていました。
重村三雄「立ち話」 1993(平成5)年
奄美大島に生まれ、埼玉で没した彫刻家、重村三雄も、今回の展覧会のキーパーソンの1人でした。ここでは犬の散歩といった日常的な光景を表した重村の「立ち話」をはじめ、橋本真之の「作品115 運動膜(内的な水辺)」などの重厚な彫刻が目立っていました。
さて「コレクション 4つの水紋」にて私が最も魅力的に感じたのが、シャルロット・ペリアンによる椅子を中心としたデザインの展示でした。
「椅子の美術館より」 シャルロット・ペリアン 展示風景
そもそも埼玉県立近代美術館は「椅子の美術館」と呼ばれるほどモダンデザインによる椅子をコレクションしていて、館内では自由に座りながら鑑賞する場も設けてきました。
「椅子の美術館より」 シャルロット・ペリアン 展示風景
会場ではシャルロット・ペリアンをはじめ、柳宗理や剣持勇の椅子ともに、ペリアンと親交のあったレジェや室内装飾に用いていたミロのタペストリーなどが並んでいて、多様なデザインを楽しむことができました。
手前:ル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアン「LC4 シェーズロング」 デザイン:1928年 製品化:1930年
右:レオナール・フジタ「横たわる裸婦と猫」 1931(昭和6)年
また横になる椅子から横たわる動作に着目し、フジタの「横たわる裸婦」や古賀春江の「コンポジション」などが並ぶ展示も面白いのではないでしょうか。いずれも展覧会のハイライトを築き上げていました。
クロード・モネ「ジヴェルニーの積みわら、夕日」 1888〜1889年
4月27日より後期展示に入りました。前期より一部作品が展示替えが行われましたが、以降、会期末までの入れ替えはありません。
古賀春江「コンポジション」 1930(昭和5)年頃
予約は不要です。入場時に検温と手指の消毒の他、連絡先などを記した入館者カードを提出する必要があります。
ヴェルナー・パントン「パントンチェア」 デザイン:1959〜1960年 製品化:1968年
一部を除き、会場内と作品の撮影が可能でした。
企画展「コレクション 4つの水紋」では、当館の収蔵品約3700点の中から130点を出品しています。出品作品の中にはフェルナン・レジェのタペストリーなど、10年近く公開していなかった作品も!https://t.co/emtcta7mOY pic.twitter.com/SYqHuF1OJg
— 埼玉県立近代美術館 (@momas_kouhou) May 3, 2021
5月16日まで開催されています。
「コレクション 4つの水紋」 埼玉県立近代美術館(@momas_kouhou)
会期:2021年3月23日 (火) ~5月16日 (日)
休館:月曜日。但し5月3日は開館。
時間:10:00~17:30
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円 、大高生800(640)円、中学生以下は無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*MOMASコレクション(常設展)も観覧可。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )