都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
長野・小布施への旅~北斎の足跡を訪ねて 中編:浄光寺・岩松院・おぶせミュージアム
長野県で最も小さい町である小布施は、栗と北斎と花のまちとして知られ、一年を通して多くの観光客を集めてきました。
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長野・小布施への旅~北斎の足跡を訪ねて 前編:長野県立美術館・善光寺
長野市から小布施への鉄道での移動は長野電鉄を利用するのが一般的で、長野駅を10時前に発車する特急スノーモンキーに乗車すると、約25分ほどで小布施駅に到着しました。
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半径2キロ程度のエリアに観光拠点が点在する小布施では、レンタサイクルを借りてまわるのも便利ですが、この日は35度を超える酷暑と雷雨の予報が出ていたため、町内を周遊するシャトルバス「おぶせロマン号」を使うことにしました。
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「おぶせロマン号」は冬期間を除く週末と祝日、および行楽期の平日に運行されていて、本数こそ1時間から2時間に1本ほどと限定的なものの、小布施駅から北斎館やおぶせミュージアム、また岩松院や浄光院、それにおぶせ温泉など主要な観光スポットを結んでいました。
小布施駅前よりロマン号に乗車し、最初にめざしたのは、駅から最も遠い浄光寺でした。
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寺伝によれば草創が8世紀とされる浄光寺は、809年に薬師堂が建てられたと伝わっていて、現在の薬師堂は昭和期の大修理の際に発見された墨書などから室町初期の建立が明らかとなり、国の重要文化財に指定されています。
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仁王門をくぐると大きな杉が両側に並ぶ山道が続いていて、自然石で作られた石段が薬師堂へとつながっていました。
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母屋造りによる薬師堂は建立から約600年過ぎているものの、最も特徴的な茅葺屋根は2007年に葺き替えが行われたためか、思いの外に新しく見えました。
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山を背にして鬱蒼とした森に囲まれた薬師堂は、たとえば山の怪の存在を感じさせるような独特の雰囲気が漂っていたかもしれません。虫の音ほどしか聞こえない静寂に包まれた佇まいにも心を引かれました。
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この浄光寺から山の際の道を北へしばらく歩くと位置しているのが、北斎にゆかりの深い岩松院でした。
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1472年に開山した曹洞宗梅洞山岩松院は、戦国大名の福島正則や俳人小林一茶、それに浮世絵師葛飾北斎にゆかりのある寺院で、本堂の天井には北斎が89歳の時に手がけた「八方睨み鳳凰図」が描かれています。
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21畳分の巨大な「八方睨み鳳凰図」は、当時の中国より輸入した鉱石による質の高い岩絵具を使って描かれていて、一度も塗り直されたことがないにもかかわらず、実に170年以上経ったいまも鮮やかな色彩を放っていました。なお鉱石の価格は150両、使用された金箔は4400枚ともいわれています。
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隠し絵とされる富士山をはじめ、角度を変えると色合いや表情が変化して見えたりするなど、お寺の方による丁寧な説明によって鳳凰図の魅力をじっくりと味わうこともできました。(写真は長野県立美術館にて撮影した鳳凰図の原寸大復元図です。岩松院では堂内、および天井画の撮影できません。)
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岩松院を拝観したのちはお昼時となったので、お寺のすぐ前にある「KUTEN。fruit&cake」でランチをとることにしました。
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地元のフルーツを使ったタルトが人気とのことでしたが、4〜5種類からメインを選べるランチコースもお手軽で、パスタもサラダも美味しくいただけました。
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岩松院入口から再びロマン号に乗り、次に目指したのはおぶせミュージアム・中島千波館でした。同ミュージアムは小布施出身の日本画家、中島千波の作品と、同町の伝統文化財である祭り屋台などを公開するために作られた町立の施設で、1992年にオープンしました。
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日本画家だった中島清之の三男として、1945年に当時の疎開先であった小布施に生まれた中島千波は、ライフワークとする人物画のほか、牡丹や桜や鳥などの花鳥画を描いてきました。
ここでは第1回山種美術館賞に出品したものの、いつしか行方不明となり今回発見された『幻』をはじめ、2020年の東京五輪の選手に渡すブーケをテーマにした展示のために出品した『Flowers’20』、さらに其一の朝顔図に刺激されて描いたという『絢爛扇形朝顔図』などが公開されていて、いずれも瑞々しい色彩美に魅了されました。
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野地美樹子 展示風景 *『5つの道』展のみ撮影できました。
またあわせて中島が教鞭をとった東京藝術大学大学院のデザイン専攻描画研究室で学んだ5人の作家による『5つの道-わたしたちのまなざし-展』も開かれていて、美しい色彩と神秘的ともいえる巨木など描いた野地美樹子の作品が特に印象に残りました。
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館外へ出ると山には入道雲が湧き、遠くから雷の音も聞こえてきましたが、最後の目的地である高井鴻山記念館と北斎館へと歩いて向かいました。
後編:高井鴻山記念館・北斎館へ続きます。
「真言宗豊山派 浄光寺」
拝観自由
拝観無料
住所:長野県上高井郡小布施町雁田676
交通:長野電鉄小布施駅より小布施町内周遊シャトルバス「おぶせロマン号に乗車、浄光寺前下車すぐ。*金・土・日曜・祝日および行楽期の平日のみ運行(冬期間は運休)
「曹洞宗梅洞山 岩松院」
拝観時間:9:00~16:30(4月〜10月)、9:00〜16:00(11月)、9:30〜15:30(12月〜3月)
拝観料:一般500円、小中学生200円、未就学児無料。
住所:長野県上高井郡小布施町雁田
交通:長野電鉄小布施駅より小布施町内周遊シャトルバス「おぶせロマン号に乗車、岩松院入口下車徒歩4分。*金・土・日曜・祝日および行楽期の平日のみ運行(冬期間は運休)
「おぶせミュージアム・中島千波館」(@obusemuseum)
休館:12月29日から1月3日、展示替等による休館。
時間:9:00~17:00
料金:一般500円、高校生250円、小中学生無料。
*三館共通入場券(おぶせミュージアム・中島千波館、高井鴻山記念館、北斎館):一般1300円、高校生800円。
住所:長野県上高井郡小布施町小布施595
交通:長野電鉄小布施駅より徒歩12分。
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長野・小布施への旅~北斎の足跡を訪ねて 前編:長野県立美術館・善光寺
長野市から小布施への鉄道での移動は長野電鉄を利用するのが一般的で、長野駅を10時前に発車する特急スノーモンキーに乗車すると、約25分ほどで小布施駅に到着しました。
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半径2キロ程度のエリアに観光拠点が点在する小布施では、レンタサイクルを借りてまわるのも便利ですが、この日は35度を超える酷暑と雷雨の予報が出ていたため、町内を周遊するシャトルバス「おぶせロマン号」を使うことにしました。
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「おぶせロマン号」は冬期間を除く週末と祝日、および行楽期の平日に運行されていて、本数こそ1時間から2時間に1本ほどと限定的なものの、小布施駅から北斎館やおぶせミュージアム、また岩松院や浄光院、それにおぶせ温泉など主要な観光スポットを結んでいました。
小布施駅前よりロマン号に乗車し、最初にめざしたのは、駅から最も遠い浄光寺でした。
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寺伝によれば草創が8世紀とされる浄光寺は、809年に薬師堂が建てられたと伝わっていて、現在の薬師堂は昭和期の大修理の際に発見された墨書などから室町初期の建立が明らかとなり、国の重要文化財に指定されています。
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仁王門をくぐると大きな杉が両側に並ぶ山道が続いていて、自然石で作られた石段が薬師堂へとつながっていました。
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母屋造りによる薬師堂は建立から約600年過ぎているものの、最も特徴的な茅葺屋根は2007年に葺き替えが行われたためか、思いの外に新しく見えました。
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山を背にして鬱蒼とした森に囲まれた薬師堂は、たとえば山の怪の存在を感じさせるような独特の雰囲気が漂っていたかもしれません。虫の音ほどしか聞こえない静寂に包まれた佇まいにも心を引かれました。
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1472年に開山した曹洞宗梅洞山岩松院は、戦国大名の福島正則や俳人小林一茶、それに浮世絵師葛飾北斎にゆかりのある寺院で、本堂の天井には北斎が89歳の時に手がけた「八方睨み鳳凰図」が描かれています。
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21畳分の巨大な「八方睨み鳳凰図」は、当時の中国より輸入した鉱石による質の高い岩絵具を使って描かれていて、一度も塗り直されたことがないにもかかわらず、実に170年以上経ったいまも鮮やかな色彩を放っていました。なお鉱石の価格は150両、使用された金箔は4400枚ともいわれています。
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隠し絵とされる富士山をはじめ、角度を変えると色合いや表情が変化して見えたりするなど、お寺の方による丁寧な説明によって鳳凰図の魅力をじっくりと味わうこともできました。(写真は長野県立美術館にて撮影した鳳凰図の原寸大復元図です。岩松院では堂内、および天井画の撮影できません。)
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岩松院を拝観したのちはお昼時となったので、お寺のすぐ前にある「KUTEN。fruit&cake」でランチをとることにしました。
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地元のフルーツを使ったタルトが人気とのことでしたが、4〜5種類からメインを選べるランチコースもお手軽で、パスタもサラダも美味しくいただけました。
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岩松院入口から再びロマン号に乗り、次に目指したのはおぶせミュージアム・中島千波館でした。同ミュージアムは小布施出身の日本画家、中島千波の作品と、同町の伝統文化財である祭り屋台などを公開するために作られた町立の施設で、1992年にオープンしました。
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日本画家だった中島清之の三男として、1945年に当時の疎開先であった小布施に生まれた中島千波は、ライフワークとする人物画のほか、牡丹や桜や鳥などの花鳥画を描いてきました。
ここでは第1回山種美術館賞に出品したものの、いつしか行方不明となり今回発見された『幻』をはじめ、2020年の東京五輪の選手に渡すブーケをテーマにした展示のために出品した『Flowers’20』、さらに其一の朝顔図に刺激されて描いたという『絢爛扇形朝顔図』などが公開されていて、いずれも瑞々しい色彩美に魅了されました。
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野地美樹子 展示風景 *『5つの道』展のみ撮影できました。
またあわせて中島が教鞭をとった東京藝術大学大学院のデザイン専攻描画研究室で学んだ5人の作家による『5つの道-わたしたちのまなざし-展』も開かれていて、美しい色彩と神秘的ともいえる巨木など描いた野地美樹子の作品が特に印象に残りました。
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館外へ出ると山には入道雲が湧き、遠くから雷の音も聞こえてきましたが、最後の目的地である高井鴻山記念館と北斎館へと歩いて向かいました。
後編:高井鴻山記念館・北斎館へ続きます。
「真言宗豊山派 浄光寺」
拝観自由
拝観無料
住所:長野県上高井郡小布施町雁田676
交通:長野電鉄小布施駅より小布施町内周遊シャトルバス「おぶせロマン号に乗車、浄光寺前下車すぐ。*金・土・日曜・祝日および行楽期の平日のみ運行(冬期間は運休)
「曹洞宗梅洞山 岩松院」
拝観時間:9:00~16:30(4月〜10月)、9:00〜16:00(11月)、9:30〜15:30(12月〜3月)
拝観料:一般500円、小中学生200円、未就学児無料。
住所:長野県上高井郡小布施町雁田
交通:長野電鉄小布施駅より小布施町内周遊シャトルバス「おぶせロマン号に乗車、岩松院入口下車徒歩4分。*金・土・日曜・祝日および行楽期の平日のみ運行(冬期間は運休)
「おぶせミュージアム・中島千波館」(@obusemuseum)
休館:12月29日から1月3日、展示替等による休館。
時間:9:00~17:00
料金:一般500円、高校生250円、小中学生無料。
*三館共通入場券(おぶせミュージアム・中島千波館、高井鴻山記念館、北斎館):一般1300円、高校生800円。
住所:長野県上高井郡小布施町小布施595
交通:長野電鉄小布施駅より徒歩12分。
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